されど御曹司は愛を誓う

雪華

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~ 第一章 売られた喧嘩 ~

リナリアの花束⑥

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「あははは、ごめんねぇ。でも、僕も桐ケ谷クンのこと、やべぇ奴だなと思ったよ」

 氷雨はひとしきり笑った後、今度は寂しそうに重い息を吐きだした。

「あの時さぁ、店に入って来た桐ケ谷クンが一瞬、大人になった永遠に見えちゃったんだよねぇ。でも近くで見たら違うし、話したら中身はどっちかって言うと快晴みたいだし、なんかムカついて八つ当たりしちゃった」

 氷雨がもう一度「ごめんね」と言って、静かに笑う。
 玲旺は、先ほど感じた疑問がスッキリ解けて、ポンと手を打った。

「湯月さんが誰かに似てる気がして、ずっと引っかかってたんだ。そっか、俺に似てたのか」
「なんだ、桐ケ谷クンも自分で似てると思ったんだ。ソックリって訳じゃないんだけどね。雰囲気とか佇まいとか、顔立ちがどことなく似てるのよね」
 
 そう言って玲旺の顔を眺めながら、氷雨が目を細める。今までも、自分を通して湯月を見ていたことがあったのかもしれないと思うと、少し複雑で胸が痛んだ。

「どうして……」

 湯月が今まで姿を消していた理由を尋ねようとしたが、言いかけて玲旺は思い留まった。
 変なところで言葉を飲み込んでしまったので、会話が宙ぶらりんになる。
 そんな不自然な状態でも、玲旺が何を言おうとして止めたのか氷雨は気付いているようで、敢えて聞き返すことはしなかった。
 そう言う気は回るのに、恋愛に関しては鈍くなるのがまったく不思議だ。

「氷雨さん、内線は神村さんからでした。いつまで油売ってるんだって」

 小走りで戻って来た吉田の言葉を聞いて、氷雨が顔を歪ませる。

「やっば。プレスに行ってくるって言ったまま、神村さんほったらかしだったわ。僕、もう戻らなきゃ。神村さんに怒られちゃう。まぁ、もう怒ってんだろうけど」

 やれやれと言った感じで、氷雨が「じゃあまたね」と手を振る。

「あ。氷雨さん、待って。久我さんもいるんだよね? あとで撮影のこととか説明したいから、時間つくって貰えるように伝えてくれる?」
「あー、そうね。トワルチェックが終ったら、ここに来るように言っておくわ」
「うん。ありがとう」

 仕事とは言え、この後久我に会えると思ったら、それだけで玲旺の心が躍った。
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