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~ 第一章 売られた喧嘩 ~
第十三話 暗雲漂う
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クリアデイは日に日に存在感を増していったが、それでもどこか「所詮ジョリーの傘下」と高を括っていた部分があった。
それは玲旺だけでなく、恐らく久我や氷雨も同様に。
明らかに潮の目を変えたのは、今を時めく男性アイドルユニットのSNS投稿だった。弾けるような笑顔でクリアデイのプリントシャツを着た写真は、『最近のお気に入り』『clear day』のハッシュタグと共に瞬く間に拡散された。
彼らがクリアデイのアイテムを投稿するたび、ファンたちが同じものを一斉に求めるので品切れが相次ぐ。フリマアプリでは高値で取引され、再入荷の際はファンと転売屋で行列が出来て大混乱となった。ニュースにまで取り上げられ、もはや社会現象と言っても過言ではない状況だ。
さりとてフローズンレインも負けているわけではなかった。春や初夏の新作も順調な売れ行きだったし、相変わらず雑誌でも特集を組まれるほどの人気ぶりだ。しかしどうしてもクリアデイと比べると、安定しているフローズンレインは勢いが落ち着いているように見えてしまう。
そして今日。
玲旺は藤井が運転する車の後部座席で、入手したばかりの雑誌を片手にうめき声を漏らしていた。
「よりによってあのブレイバーが、表紙に快晴さんを使うなんて」
遂にここまで追いつかれてしまった。そんなどうしようもない焦りに、玲旺は天を仰ぐ。
廃刊予定の雑誌に掲載された、タイアップ記事とは訳が違う。『ブレイバー』はファッションとカルチャーの最前線に身を置く者たちですら、高く評価しているモード誌だ。そんな雑誌がクリアデイの存在を看過できないと判断した。その事実に打ちのめされる。
「玲旺様、そんなに落ち込まないでください。フローズンレインだって昨年は、今のクリアデイと同じような状況でした。しかも我々は、その人気を不動のものにしつつあります。クリアデイの真価が試されるのはこれからですよ」
確かにフローズンレインは世に出た途端、飛ぶ鳥を落とす勢いで認知されていった。あまりの人気に、本家の売り上げまで伸びたほどだ。
その人気を一過性のものにせず、顧客の支持を盤石にするために今もチームは一丸となって戦い続けている。それがいかに難しい事か、玲旺は日々痛感している所だ。クリアデイがこれから行く道が平坦でないことは、容易に想像できる。
「頭では解ってるんだけどさ。でもなんか、悔しくて」
格下だと侮っていた相手が、気付けばすぐそこまで来ていた。このまま追い抜かれてしまうのではないかと、背後に迫る足音に怯えてしまいそうになる。
「クリアデイはやっとスタートラインに立ったところです。もちろん、我々も油断は出来ませんが。あなた様はけっして人前で狼狽えてはいけませんよ。常に胸を張っていてください」
「わかってる。……会議の前に少し時間あったよね。今日は確か、トワルチェックがあるから氷雨さんも本社に来てると思うんだ。少しだけ顔出していいかな」
革張りのシートに沈み込ませていた体を起こし、運転席の藤井に訴える。ハンドルを握る藤井は前を向いたまま、静かにうなずいた。
「ええ。では会議の前に、フローズンレインのオフィスに寄りましょう。恐らく久我もそこに居るはずです」
久我や氷雨も既にブレイバーの表紙は確認しているだろう。自分ですらこれほどダメージを負っているのだから、特に氷雨の心中は察するに余りある。
表紙を飾る快晴は、悔しいが確かに格好良かった。
フローズンレインのオフィスがある階でエレベーターを降りると、同じフロアのフォーチュンの社員たちが、ミーティングルームの様子を伺うように廊下をうろついていた。
しかし玲旺に気付くと、頭を下げてそそくさと自分たちのオフィスへ戻っていく。
「みんな、何してたんだろ」
「氷雨さんが本社に来る頻度は低いので、物珍しかったのでは。ミーティングルームはガラス張りですし」
藤井の回答に「なるほど」と納得したが、氷雨たちがいる部屋の前に立つと、その認識は少々変わった。
仮生地の服を着たトルソーの前で、氷雨がパタンナーの女性に向かって何かを言っている。声は遮断されていて聞こえないが、その表情を見るにかなり口調はきつそうだ。
しかし言われている方の女性も、小柄で可愛らしい見た目に反して氷雨に食って掛かるような雰囲気だった。
「相変わらず氷雨さんと神村さんは遠慮のないやり取りしてるね。これ、フォーチュンの社員は喧嘩してると思って心配してたんじゃないかな」
苦笑いしつつ、玲旺は外から二人のやりとりを見守った。
それは玲旺だけでなく、恐らく久我や氷雨も同様に。
明らかに潮の目を変えたのは、今を時めく男性アイドルユニットのSNS投稿だった。弾けるような笑顔でクリアデイのプリントシャツを着た写真は、『最近のお気に入り』『clear day』のハッシュタグと共に瞬く間に拡散された。
彼らがクリアデイのアイテムを投稿するたび、ファンたちが同じものを一斉に求めるので品切れが相次ぐ。フリマアプリでは高値で取引され、再入荷の際はファンと転売屋で行列が出来て大混乱となった。ニュースにまで取り上げられ、もはや社会現象と言っても過言ではない状況だ。
さりとてフローズンレインも負けているわけではなかった。春や初夏の新作も順調な売れ行きだったし、相変わらず雑誌でも特集を組まれるほどの人気ぶりだ。しかしどうしてもクリアデイと比べると、安定しているフローズンレインは勢いが落ち着いているように見えてしまう。
そして今日。
玲旺は藤井が運転する車の後部座席で、入手したばかりの雑誌を片手にうめき声を漏らしていた。
「よりによってあのブレイバーが、表紙に快晴さんを使うなんて」
遂にここまで追いつかれてしまった。そんなどうしようもない焦りに、玲旺は天を仰ぐ。
廃刊予定の雑誌に掲載された、タイアップ記事とは訳が違う。『ブレイバー』はファッションとカルチャーの最前線に身を置く者たちですら、高く評価しているモード誌だ。そんな雑誌がクリアデイの存在を看過できないと判断した。その事実に打ちのめされる。
「玲旺様、そんなに落ち込まないでください。フローズンレインだって昨年は、今のクリアデイと同じような状況でした。しかも我々は、その人気を不動のものにしつつあります。クリアデイの真価が試されるのはこれからですよ」
確かにフローズンレインは世に出た途端、飛ぶ鳥を落とす勢いで認知されていった。あまりの人気に、本家の売り上げまで伸びたほどだ。
その人気を一過性のものにせず、顧客の支持を盤石にするために今もチームは一丸となって戦い続けている。それがいかに難しい事か、玲旺は日々痛感している所だ。クリアデイがこれから行く道が平坦でないことは、容易に想像できる。
「頭では解ってるんだけどさ。でもなんか、悔しくて」
格下だと侮っていた相手が、気付けばすぐそこまで来ていた。このまま追い抜かれてしまうのではないかと、背後に迫る足音に怯えてしまいそうになる。
「クリアデイはやっとスタートラインに立ったところです。もちろん、我々も油断は出来ませんが。あなた様はけっして人前で狼狽えてはいけませんよ。常に胸を張っていてください」
「わかってる。……会議の前に少し時間あったよね。今日は確か、トワルチェックがあるから氷雨さんも本社に来てると思うんだ。少しだけ顔出していいかな」
革張りのシートに沈み込ませていた体を起こし、運転席の藤井に訴える。ハンドルを握る藤井は前を向いたまま、静かにうなずいた。
「ええ。では会議の前に、フローズンレインのオフィスに寄りましょう。恐らく久我もそこに居るはずです」
久我や氷雨も既にブレイバーの表紙は確認しているだろう。自分ですらこれほどダメージを負っているのだから、特に氷雨の心中は察するに余りある。
表紙を飾る快晴は、悔しいが確かに格好良かった。
フローズンレインのオフィスがある階でエレベーターを降りると、同じフロアのフォーチュンの社員たちが、ミーティングルームの様子を伺うように廊下をうろついていた。
しかし玲旺に気付くと、頭を下げてそそくさと自分たちのオフィスへ戻っていく。
「みんな、何してたんだろ」
「氷雨さんが本社に来る頻度は低いので、物珍しかったのでは。ミーティングルームはガラス張りですし」
藤井の回答に「なるほど」と納得したが、氷雨たちがいる部屋の前に立つと、その認識は少々変わった。
仮生地の服を着たトルソーの前で、氷雨がパタンナーの女性に向かって何かを言っている。声は遮断されていて聞こえないが、その表情を見るにかなり口調はきつそうだ。
しかし言われている方の女性も、小柄で可愛らしい見た目に反して氷雨に食って掛かるような雰囲気だった。
「相変わらず氷雨さんと神村さんは遠慮のないやり取りしてるね。これ、フォーチュンの社員は喧嘩してると思って心配してたんじゃないかな」
苦笑いしつつ、玲旺は外から二人のやりとりを見守った。
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