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~ 第一章 売られた喧嘩 ~
油断しないウサギ⑥
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氷雨がデザインするものは、身体のラインが出ない大きめのサイズのものが多い。
ゆったりとしたシルエットのシャツには裾の広がったワイドパンツを合わせるのが本来の着方かもしれないが、玲旺はサスペンダー付きの黒いパンツを選んだ。
「面白いけど、いいチョイスですね」
マネキンの元に戻った玲旺の抱えている服を見て、竹原が興味深そうにうなずく。
「ブルーグリーンのシャツに黒のパンツは絶対似合うと思うんです。氷雨さんはこのシャツをゴシックっぽく着てたんですけど、足元を黒いハイカットスニーカーにしたらカジュアルな雰囲気になるような気がして」
言いながら玲旺はマネキンに羽織らせたシャツを、パンツの中に緩くインする。サスペンダーは肩に掛けずに下に垂らした。パンツはくるぶしが見えるほどの丈なので、黒白ボーダーのソックスを合わせてみる。
「襟元はキッチリ閉めずに、第二ボタンくらいまで開けてもいいかも。うん、このコーデ可愛い。人気でそう」
竹原が感心しながらマネキンの腕を横に上げた状態に動かし、着物袖をアピールするようなポーズを取らせた。
通りすがりの買い物客が「あの服可愛い」と言っている声が聞こえてくる。
玲旺も自身が手掛けたコーディネートを少し離れた場所から確認し、満足そうに微笑んだ。
ねぎらうように、竹原が玲旺の肩をたたく。
「いいじゃん、いいじゃん! 部長のセンス凄く良い。……そっか、なんか納得だなぁ」
竹原が隣に並んでしみじみ呟くので、玲旺は不思議そうに首を傾げた。
「納得? 何のことですか」
竹原は何もない空間を見上げ、言葉を選びながらボツボツ話し始める。
「えっと、氷雨くんなら単独でブランド設立も可能なのに、なんでわざわざフォーチュンの傘下でやるんだろうなって、ずっと疑問だったんです。多分、中目黒店と表参道店の店長も同じように感じてるかも」
言われてみれば確かにと、玲旺は竹原の言い分を理解した。
氷雨ほどの知名度と実力があれば、個人で新ブランド立ち上げも容易だろう。あまり情けないことをしていると、見限られて独立されてしまうかもしれない。
そんなことを考えていた玲旺の眉間にしわが寄る。それを見た竹原は、「わざわざフォーチュンの傘下で」と言ってしまい、玲旺を傷つけたのではないかと慌てたように手を振った。
「あ、違いますよ。フォーチュンの傘下が駄目って言ってるんじゃないんです。潤沢な資金と老舗の信頼度は何ものにも代えがたいメリットですし。けど、やっぱり自由度は少し下がってしまうじゃないですか。そもそも氷雨くんは一匹狼タイプだったのに、どうして単独じゃないのかなぁって不思議で。でも、久我さんや部長と接するうちにわかりました。氷雨くん、きっとお二人と一緒に仕事してみたかったんですね」
思ってもみなかった竹原の言葉を聞き、「そうだったらいいな」と玲旺は弱々しく笑う。
「竹原さんの言う通り、久我さんと一緒に仕事したいと思ってこの事業に力を貸してくれたんでしょうね。でも、俺のことは別に……」
「いえいえ。部長は育て甲斐ありますから、近くで成長を見ていたいと思ったんですよ、きっと。難題を与えても根気よく取り組んでくれそうですし、氷雨くんも期待してると思います」
竹原に「もっと自信をもって」と励まされ、玲旺は照れ臭そうに頬を掻いた。
周囲が期待してくれるのなら、予想を上回る結果を出したい。
改めて気を引き締め、玲旺は拳に力を込めた。
「精一杯がんばります」
竹原に勧められて二体目のマネキンに取り掛かろうとした時、レジにいたスタッフが足早に近づいてくるのが見えた。
「部長、今度は本当にお電話です。吉田さんからなんですが、ちょっと焦ってるみたいで……」
嫌な予感を抱きながら、玲旺は手渡された子機を見つめた。
ゆったりとしたシルエットのシャツには裾の広がったワイドパンツを合わせるのが本来の着方かもしれないが、玲旺はサスペンダー付きの黒いパンツを選んだ。
「面白いけど、いいチョイスですね」
マネキンの元に戻った玲旺の抱えている服を見て、竹原が興味深そうにうなずく。
「ブルーグリーンのシャツに黒のパンツは絶対似合うと思うんです。氷雨さんはこのシャツをゴシックっぽく着てたんですけど、足元を黒いハイカットスニーカーにしたらカジュアルな雰囲気になるような気がして」
言いながら玲旺はマネキンに羽織らせたシャツを、パンツの中に緩くインする。サスペンダーは肩に掛けずに下に垂らした。パンツはくるぶしが見えるほどの丈なので、黒白ボーダーのソックスを合わせてみる。
「襟元はキッチリ閉めずに、第二ボタンくらいまで開けてもいいかも。うん、このコーデ可愛い。人気でそう」
竹原が感心しながらマネキンの腕を横に上げた状態に動かし、着物袖をアピールするようなポーズを取らせた。
通りすがりの買い物客が「あの服可愛い」と言っている声が聞こえてくる。
玲旺も自身が手掛けたコーディネートを少し離れた場所から確認し、満足そうに微笑んだ。
ねぎらうように、竹原が玲旺の肩をたたく。
「いいじゃん、いいじゃん! 部長のセンス凄く良い。……そっか、なんか納得だなぁ」
竹原が隣に並んでしみじみ呟くので、玲旺は不思議そうに首を傾げた。
「納得? 何のことですか」
竹原は何もない空間を見上げ、言葉を選びながらボツボツ話し始める。
「えっと、氷雨くんなら単独でブランド設立も可能なのに、なんでわざわざフォーチュンの傘下でやるんだろうなって、ずっと疑問だったんです。多分、中目黒店と表参道店の店長も同じように感じてるかも」
言われてみれば確かにと、玲旺は竹原の言い分を理解した。
氷雨ほどの知名度と実力があれば、個人で新ブランド立ち上げも容易だろう。あまり情けないことをしていると、見限られて独立されてしまうかもしれない。
そんなことを考えていた玲旺の眉間にしわが寄る。それを見た竹原は、「わざわざフォーチュンの傘下で」と言ってしまい、玲旺を傷つけたのではないかと慌てたように手を振った。
「あ、違いますよ。フォーチュンの傘下が駄目って言ってるんじゃないんです。潤沢な資金と老舗の信頼度は何ものにも代えがたいメリットですし。けど、やっぱり自由度は少し下がってしまうじゃないですか。そもそも氷雨くんは一匹狼タイプだったのに、どうして単独じゃないのかなぁって不思議で。でも、久我さんや部長と接するうちにわかりました。氷雨くん、きっとお二人と一緒に仕事してみたかったんですね」
思ってもみなかった竹原の言葉を聞き、「そうだったらいいな」と玲旺は弱々しく笑う。
「竹原さんの言う通り、久我さんと一緒に仕事したいと思ってこの事業に力を貸してくれたんでしょうね。でも、俺のことは別に……」
「いえいえ。部長は育て甲斐ありますから、近くで成長を見ていたいと思ったんですよ、きっと。難題を与えても根気よく取り組んでくれそうですし、氷雨くんも期待してると思います」
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改めて気を引き締め、玲旺は拳に力を込めた。
「精一杯がんばります」
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