されど御曹司は愛を誓う

雪華

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~ 第一章 売られた喧嘩 ~

油断大敵④

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 少しの間、沈黙が続く。

「……近頃は、それなりに頑張っているようだな」

 玲旺から目を逸らした父親は、エレベーターの階数を示す電光掲示を眺めながら、ようやく口を開いた。「それなりって何だよ」と思いながらも、玲旺は無難に「はい」とだけ答える。
 やがて到着したエレベーターの扉が開き、父親が先に乗り込んだ。玲旺はそのままフロアに留まり父親を見送ろうとしたが、怪訝な顔で首を傾げられた。

「どうした。一緒に乗ればいいだろう」
「いえ……お先にどうぞ」

 気まずい無言の空間になることが目に見えているのに、一緒に乗る気になどなれない。
 父親付きの秘書が「開」のボタンを押しながら、どうするべきかと困ったように玲旺と社長の顔を見比べている。

「社長、ありがとうございます。玲旺様、お言葉に甘えてご一緒させて頂きましょう」

 藤井がにこやかな表情で、再び玲旺の背を押した。以前は父親の第一秘書を務めていた藤井は、玲旺が高校生の頃からの付き合いだ。父親とのギクシャクした関係もよく知っている。
 おそらく親子の仲を深めさせようと気を利かせたつもりかもしれないが、玲旺にとっては有難迷惑以外のなにものでもなかった。
 それでも藤井の提案を断ってまで父親を避けるのも気が引けて、玲旺は渋々エレベーターに乗り込む。

「この後、予定はあるのか。なければ食事でもどうだ」
「は……?」

 ぶっきらぼうに問いかけられ、玲旺は父親が何か企んでいるのではないかと思わず身構えた。

「折角ですが、寄るところがありますので」
「そうか。それなら、藤井君だけでもどうだ。玲旺を送った後でいい。久しぶりにゆっくり話そうじゃないか。樋口君も先輩の話を聞きたいだろう?」

 急に水を向けられた父親の秘書が、「ええ、ぜひ」と緊張気味な笑顔を見せた。藤井もそれに微笑みを返す。

「ありがとうございます。喜んでご一緒させて頂きます。樋口君、後ほど連絡をください」

 かしこまりましたと樋口が頭を下げた所で、丁度よくエレベーターが一階に到着した。エントランスには既に父親の車が待機している。

「じゃあ玲旺、またの機会に」
「はい。お疲れ様でした」

 深々と礼をしてから父親が車に乗り込んだのを見届けると、藤井は盛大な溜め息を吐いた。

「玲旺様。とっくに会議室を出たはずの社長が、まだエレベーターホールに留まっていた理由をお考えにはなりませんでしたか? 社長は玲旺様を待っていたのですよ。それなのに、お誘いを断るなんて……。この後、予定などないでしょう」

 自分のことを待っていたのかもしれないと薄々感じてはいたが、そう言われても玲旺はどうしていいのか解らない。

「予定ならあるよ。久我さんと約束してるから」
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