されど御曹司は愛を誓う

雪華

文字の大きさ
上 下
15 / 302
~ 第一章 売られた喧嘩 ~

不易流行④

しおりを挟む
「ねぇ見て、新作のパーカーが出てる。この色超かわいい」
「ホントだ。私、これ絶対買う。今日着て帰りたい!」

 マネキンをぼんやり眺めていた玲旺の思考は、十代とおぼしき若い女性客の会話で呼び戻された。ミントグリーンの薄手のパーカーを手にして嬉しそうに笑う彼女らを見て、玲旺も胸の辺りがじんわり暖まる。

「他の店だとさぁ、二月頃からずっと同じ春物の商品が並んでるから飽きちゃうけど、ここは新作が追加で入るからいいよね」
「そうそう。さっきの店も新作入ったと思ったら、もう夏物だったもんね。確かにこの時期に夏コーデ見るとテンション上がるけど、買ってもスグに着れないしねぇ」

 まさに狙い通りの反応に、玲旺は心の中でガッツポーズをした。
「季節にドンピシャな物」を提供するために、他店では通常、季節を四つに区切るところを、フローズンレインでは「早春、春、初夏、夏、晩夏、秋、初冬、冬」の八つに分けることにした。久我が氷雨の作業量が二倍になると言ったのもこのためだ。

 今回新入荷したのは、メインの春物と初夏向けのものを少量。
 少し離れた場所では、また別の少女が入荷したばかりの白いパフスリーブブラウスを大事そうに胸に抱いていた。不思議の国のアリスのような服装の彼女には、新作のブラウスも良く似合いそうだ。

「あれっ、部長いらしてたんですね。声かけて下さればいいのに」

 はじめ、それが自分に向けられた言葉だと気づかずにいたのだが、肩を叩かれてハッとした。

「部長ってば。無視しないでくださいよ」
「え? あ、お疲れ様。……ねぇ、その『部長』ってやめてくれない? 何か慣れなくて、くすぐったい」
「だったら尚更『部長』って呼んだ方が良くないですか? 呼ばれなかったらいつまでたっても慣れませんよ」

 オレンジ色の髪をした青年が、クスクス笑いながら首を傾げる。新作の黒い猫耳パーカーを着ている彼は、中目黒店の店長だった。

「部長案の『季節に合った服をメインに据える』って、ホントに売れんのか半信半疑だったんですけど、今のところ結構イイ感じですよ」
「それなら良かった。里中くんの目から見て、売り場では特に問題ない?」

 ディスプレイ棚に広げられたまま放置されていたカットソーを畳みながら、里中は「ええ」とうなずいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

恋人が出て行った

すずかけあおい
BL
同棲している恋人が書き置きを残して出て行った?話です。 ハッピーエンドです。 〔攻め〕素史(もとし)25歳 〔受け〕千温(ちはる)24歳

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)

みづき(藤吉めぐみ)
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。 そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。 けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。 始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

処理中です...