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~ 第一章 売られた喧嘩 ~
不易流行④
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「ねぇ見て、新作のパーカーが出てる。この色超かわいい」
「ホントだ。私、これ絶対買う。今日着て帰りたい!」
マネキンをぼんやり眺めていた玲旺の思考は、十代とおぼしき若い女性客の会話で呼び戻された。ミントグリーンの薄手のパーカーを手にして嬉しそうに笑う彼女らを見て、玲旺も胸の辺りがじんわり暖まる。
「他の店だとさぁ、二月頃からずっと同じ春物の商品が並んでるから飽きちゃうけど、ここは新作が追加で入るからいいよね」
「そうそう。さっきの店も新作入ったと思ったら、もう夏物だったもんね。確かにこの時期に夏コーデ見るとテンション上がるけど、買ってもスグに着れないしねぇ」
まさに狙い通りの反応に、玲旺は心の中でガッツポーズをした。
「季節にドンピシャな物」を提供するために、他店では通常、季節を四つに区切るところを、フローズンレインでは「早春、春、初夏、夏、晩夏、秋、初冬、冬」の八つに分けることにした。久我が氷雨の作業量が二倍になると言ったのもこのためだ。
今回新入荷したのは、メインの春物と初夏向けのものを少量。
少し離れた場所では、また別の少女が入荷したばかりの白いパフスリーブブラウスを大事そうに胸に抱いていた。不思議の国のアリスのような服装の彼女には、新作のブラウスも良く似合いそうだ。
「あれっ、部長いらしてたんですね。声かけて下さればいいのに」
はじめ、それが自分に向けられた言葉だと気づかずにいたのだが、肩を叩かれてハッとした。
「部長ってば。無視しないでくださいよ」
「え? あ、お疲れ様。……ねぇ、その『部長』ってやめてくれない? 何か慣れなくて、くすぐったい」
「だったら尚更『部長』って呼んだ方が良くないですか? 呼ばれなかったらいつまでたっても慣れませんよ」
オレンジ色の髪をした青年が、クスクス笑いながら首を傾げる。新作の黒い猫耳パーカーを着ている彼は、中目黒店の店長だった。
「部長案の『季節に合った服をメインに据える』って、ホントに売れんのか半信半疑だったんですけど、今のところ結構イイ感じですよ」
「それなら良かった。里中くんの目から見て、売り場では特に問題ない?」
ディスプレイ棚に広げられたまま放置されていたカットソーを畳みながら、里中は「ええ」とうなずいた。
「ホントだ。私、これ絶対買う。今日着て帰りたい!」
マネキンをぼんやり眺めていた玲旺の思考は、十代とおぼしき若い女性客の会話で呼び戻された。ミントグリーンの薄手のパーカーを手にして嬉しそうに笑う彼女らを見て、玲旺も胸の辺りがじんわり暖まる。
「他の店だとさぁ、二月頃からずっと同じ春物の商品が並んでるから飽きちゃうけど、ここは新作が追加で入るからいいよね」
「そうそう。さっきの店も新作入ったと思ったら、もう夏物だったもんね。確かにこの時期に夏コーデ見るとテンション上がるけど、買ってもスグに着れないしねぇ」
まさに狙い通りの反応に、玲旺は心の中でガッツポーズをした。
「季節にドンピシャな物」を提供するために、他店では通常、季節を四つに区切るところを、フローズンレインでは「早春、春、初夏、夏、晩夏、秋、初冬、冬」の八つに分けることにした。久我が氷雨の作業量が二倍になると言ったのもこのためだ。
今回新入荷したのは、メインの春物と初夏向けのものを少量。
少し離れた場所では、また別の少女が入荷したばかりの白いパフスリーブブラウスを大事そうに胸に抱いていた。不思議の国のアリスのような服装の彼女には、新作のブラウスも良く似合いそうだ。
「あれっ、部長いらしてたんですね。声かけて下さればいいのに」
はじめ、それが自分に向けられた言葉だと気づかずにいたのだが、肩を叩かれてハッとした。
「部長ってば。無視しないでくださいよ」
「え? あ、お疲れ様。……ねぇ、その『部長』ってやめてくれない? 何か慣れなくて、くすぐったい」
「だったら尚更『部長』って呼んだ方が良くないですか? 呼ばれなかったらいつまでたっても慣れませんよ」
オレンジ色の髪をした青年が、クスクス笑いながら首を傾げる。新作の黒い猫耳パーカーを着ている彼は、中目黒店の店長だった。
「部長案の『季節に合った服をメインに据える』って、ホントに売れんのか半信半疑だったんですけど、今のところ結構イイ感じですよ」
「それなら良かった。里中くんの目から見て、売り場では特に問題ない?」
ディスプレイ棚に広げられたまま放置されていたカットソーを畳みながら、里中は「ええ」とうなずいた。
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