会いたいが情、見たいが病

雪華

文字の大きさ
上 下
8 / 86
◆第一幕 一ヵ月だけのクラスメイト◆

手負いの虎②

しおりを挟む
「は。俺のために怒ったの? 清虎って思ったより良い奴だな」
「『思ったより』ってなんやねん。それにお前のためだけちゃうで。一ヵ月しかおらん俺が、幼馴染の仲を裂いたらあかんやろ」

 清虎の言葉に、哲治は口の端をほんの少しだけ上げた。無意識に陸の耳を塞ぐ手に力が込もる。

「なるほど。一応、身の程はわきまえてるんだな。お前に異分子って自覚があって良かったよ。陸はお前に興味持ったみたいだけど、いなくなる時は陸の中に何も残さず綺麗に消えろよ」
「異分子。いけずな言い方やなぁ、そんなん俺が一番わかっとるわ。……安心せぇ、上手に消えてやるから。そんなことより、そろそろ陸が限界なんとちゃう?」

 清虎が「どうすんの?」と言わんばかりに哲治に目配せした。
 哲治はいつの間にか大人しくなっていた陸の耳からそっと両手を外し、顔色を伺う。涙目の陸の口は、見事にへの字に曲がっていた。

「ご、ごめん。ついムキになって。除け者にしたわけじゃねーよ」
「ううん。いいよ、大丈夫。多分、俺が何か間違えちゃったんだろうから」

 寂し気に眉を寄せた陸は、学校最寄りの停留所に到着するなり無言でバスを降りた。陸の反応が予想外だった哲治と清虎は、顔を見合わせ焦りながら後を追う。清虎が陸の肩を抱いて、乱暴に頭を撫でた。

「陸、そない悲しそうな顔すなって。ごめんな、俺が勝手に腹立てただけやから、陸は気にせんでええんやで」
「どうして嘘吐くの。ちゃんと怒ってよ。俺は誰に何を謝っていいのか解んないじゃん。何を間違えたのか教えてくれなきゃ、また清虎と哲治を傷つけちゃう。そんなの嫌なのに」

 笑って誤魔化そうとした清虎の言葉を、陸の真剣な眼差しが跳ねのける。清虎が息を呑んで怯んだのが解った。次の言葉が出ず、陸の肩に回した腕を力なく落とす。哲治は清虎に撫でられてぐしゃぐしゃになった髪を整えてやりながら、ゆっくりと陸に語り掛けた。

「清虎は、自分が俺と陸の間に割り込むのは申し訳ないから、身を引きたいんだって。陸は何も悪くないよ。心配しないで」
「え、何それ。清虎、本当?」

 肝心の「哲治の想いに鈍感な陸に苛立った」と言う部分は上手く隠されてしまったが、そんな事を知る由もない陸は潤んだ目で清虎を見上げる。清虎が「うん」と静かに頷いた。

「清虎と友達になったからって、哲治と友達やめるわけないのに。身を引く必要なんて全然ないじゃん」
「ごめんな。俺、友達とか距離感とかよーわからんねん。今まで当たり障りなく誰とでも上手に付き合うてきたけど、本当に仲良くなった奴なんておらんかったし」

 笑っているはずの顔がなぜか寂しそうに見えて、陸は清虎の背負っているリュックサックを思わず掴んだ。学校指定ではない大きな黒いリュックに、校章の入っていないワイシャツ。グレー系でも陸とは微妙に色の違うズボン。
 清虎は何一つ揃いのものを持っていなかった。強いて言うなら教科書くらいだ。清虎が幻や陽炎の類の、酷く不安定な存在に思えた。実態を伴って繋ぎ止めるにはどうしたらいいだろうと、必死に答えを探す。

「清虎、ちゃんと言葉にして言うね。友達になろう。同じ学校に通える期間は一ヵ月だけど、転校したって友達でいられるでしょ?」

 どうかちゃんと届きますようにと、縋り付くような気持で伝えた。
 清虎の大きな黒目が、更に大きく見開かれる。
 朝の光に照らされた肌は白く、吹き抜ける風が髪を揺らした。ゆっくりと瞬きをした後で、嬉しくて仕方ないという無邪気な笑みが清虎の全身に広がる。その瞬間、全ての音が消えたような気がした。

 ただただ、清虎に魅了される。
 これが正しい答えかどうか、そんな事はもうどうでも良くなっていた。自分が友達になりたいと心から思ったことを清虎が喜んでくれたと言う事実が、ひたすら嬉しかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この愛のすべて

高嗣水清太
BL
 「妊娠しています」  そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。  俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。 ※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。  両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。

【完結】もっと、孕ませて

ナツキ
BL
3Pのえちえち話です。

花を愛でる獅子【本編完結】

千環
BL
父子家庭で少し貧しい暮らしだけれど普通の大学生だった花月(かづき)。唯一の肉親である父親が事故で亡くなってすぐ、多額の借金があると借金取りに詰め寄られる。 そこに突然知らない男がやってきて、借金を肩代わりすると言って連れて行かれ、一緒に暮らすことになる。 ※本編完結いたしました。 今は番外編を更新しております。 結城×花月だけでなく、鳴海×真守、山下×風見の番外編もあります。 楽しんでいただければ幸いです。

横暴な幼馴染から逃げようとしたら死にそうになるまで抱き潰された

戸沖たま
BL
「おいグズ」 「何ぐだぐだ言ってんだ、最優先は俺だろうが」 「ヘラヘラ笑ってんじゃねぇよ不細工」 横暴な幼馴染に虐げられてはや19年。 もうそろそろ耐えられないので、幼馴染に見つからない場所に逃げたい…! そう考えた薬局の一人息子であるユパは、ある日の晩家出を図ろうとしていたところを運悪く見つかってしまい……。 横暴執着攻め×不憫な受け/結構いじめられています/結腸攻め/失禁/スパンキング(ぬるい)/洗脳 などなど完全に無理矢理襲われているので苦手な方はご注意!初っ端からやっちゃってます! 胸焼け注意!

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

[本編完結]彼氏がハーレムで困ってます

はな
BL
佐藤雪には恋人がいる。だが、その恋人はどうやら周りに女の子がたくさんいるハーレム状態らしい…どうにか、自分だけを見てくれるように頑張る雪。 果たして恋人とはどうなるのか? 主人公 佐藤雪…高校2年生  攻め1 西山慎二…高校2年生 攻め2 七瀬亮…高校2年生 攻め3 西山健斗…中学2年生 初めて書いた作品です!誤字脱字も沢山あるので教えてくれると助かります!

処理中です...