41 / 46
【12話】FROZENRAIN
しおりを挟む
二度目の撮影場所も、前回と同じ博雅出版の自社スタジオだった。今回は緑川の付き添いは無かったが、一度来ているので迷うこともなく無事にたどり着く。
始発に揺られてここまで来た啓介は、欠伸を噛み殺しながらスタジオに足を踏み入れた。
どうやらとっくに撮影は始まっていたようで、既にモデルたちは流行を取り入れつつも個性的なコーディネートに身を包み、カメラの前に立っている。モデルの参加人数も多く、スタジオ内は活気に満ちていた。
おそらく彼らは都内近郊に住まいがあり、かなり早い時間の招集にも応じることができるのだろう。
羨ましいなぁと思いつつぼんやりモデルたちを眺めていたら、カメラを構える加勢を見つけた。眠くて重かった瞼が一気にパチリと開く。
目の端で啓介を捉えたのか、加勢がカメラを降ろしてニタリと口角を上げた。
「よお、名無し。眠そうだな」
「今、思いっきり覚めた」
「そりゃよかった。今日も期待してるぞ、前回よりもイイの頼むな」
それだけ言うと、加勢は再びレンズを撮影中のモデルに向けた。「期待している」という言葉が、ミシリと音を立ててのしかかる。簡単に言ってくれるよな、と思いながら更衣室へと向かうと、ドアの前で倉持が待っていた。倉持は啓介に気付き、嬉しそうに手を振る。
「おはようございます、梅田君。朝早くて大変でしたよね。今度から前泊にしましょうか。もし電車が遅延したら、撮影に間に合わない可能性もありますもんね。前日から都内に居れば、早朝からの撮影にも参加できますし」
先ほど早くから来ていたモデルたちを羨ましく思っていた啓介は、心の中を読まれたようで何だか気恥ずかしくなった。それでもその申し出は有難かったので「お願いします」と素直に答える。すると、倉持の背後からひょこっと永遠が顔を出した。
「なになに、お兄さん今度から前泊? それなら私の家においでよ!」
永遠が目を輝かせながら啓介の手を取り、思い出したように「あ、おはよう。今日もよろしくね」と天使のような笑顔を見せる。
永遠もまだ私服のままで、目玉のイラストが散りばめられた個性的なTシャツに黒のデニム、腰にはグレーのタータンチェックのシャツを巻いていた。
中性的な永遠のイメージから勝手に可愛い系の私服を想像していた啓介は、永遠の全身に目を走らせ、意外そうな顔をする。シンプルだがある意味とても男子っぽい装いだ。ただ、身に着けているアクセサリーも含めてとてもセンスが良く、垢抜けている。
始発に揺られてここまで来た啓介は、欠伸を噛み殺しながらスタジオに足を踏み入れた。
どうやらとっくに撮影は始まっていたようで、既にモデルたちは流行を取り入れつつも個性的なコーディネートに身を包み、カメラの前に立っている。モデルの参加人数も多く、スタジオ内は活気に満ちていた。
おそらく彼らは都内近郊に住まいがあり、かなり早い時間の招集にも応じることができるのだろう。
羨ましいなぁと思いつつぼんやりモデルたちを眺めていたら、カメラを構える加勢を見つけた。眠くて重かった瞼が一気にパチリと開く。
目の端で啓介を捉えたのか、加勢がカメラを降ろしてニタリと口角を上げた。
「よお、名無し。眠そうだな」
「今、思いっきり覚めた」
「そりゃよかった。今日も期待してるぞ、前回よりもイイの頼むな」
それだけ言うと、加勢は再びレンズを撮影中のモデルに向けた。「期待している」という言葉が、ミシリと音を立ててのしかかる。簡単に言ってくれるよな、と思いながら更衣室へと向かうと、ドアの前で倉持が待っていた。倉持は啓介に気付き、嬉しそうに手を振る。
「おはようございます、梅田君。朝早くて大変でしたよね。今度から前泊にしましょうか。もし電車が遅延したら、撮影に間に合わない可能性もありますもんね。前日から都内に居れば、早朝からの撮影にも参加できますし」
先ほど早くから来ていたモデルたちを羨ましく思っていた啓介は、心の中を読まれたようで何だか気恥ずかしくなった。それでもその申し出は有難かったので「お願いします」と素直に答える。すると、倉持の背後からひょこっと永遠が顔を出した。
「なになに、お兄さん今度から前泊? それなら私の家においでよ!」
永遠が目を輝かせながら啓介の手を取り、思い出したように「あ、おはよう。今日もよろしくね」と天使のような笑顔を見せる。
永遠もまだ私服のままで、目玉のイラストが散りばめられた個性的なTシャツに黒のデニム、腰にはグレーのタータンチェックのシャツを巻いていた。
中性的な永遠のイメージから勝手に可愛い系の私服を想像していた啓介は、永遠の全身に目を走らせ、意外そうな顔をする。シンプルだがある意味とても男子っぽい装いだ。ただ、身に着けているアクセサリーも含めてとてもセンスが良く、垢抜けている。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
クルーエル・ワールドの軌跡
木風 麦
青春
とある女子生徒と出会ったことによって、偶然か必然か、開かなかった記憶の扉が、身近な人物たちによって開けられていく。
人間の情が絡み合う、複雑で悲しい因縁を紐解いていく。記憶を閉じ込めた者と、記憶を糧に生きた者が織り成す物語。
心の落とし物
緋色刹那
ライト文芸
・完結済み(2024/10/12)。また書きたくなったら、番外編として投稿するかも
・第4回、第5回ライト文芸大賞にて奨励賞をいただきました!!✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω'✌︎ )
〈本作の楽しみ方〉
本作は読む喫茶店です。順に読んでもいいし、興味を持ったタイトルや季節から読んでもオッケーです。
知らない人、知らない設定が出てきて不安になるかもしれませんが、喫茶店の常連さんのようなものなので、雰囲気を楽しんでください(一応説明↓)。
〈あらすじ〉
〈心の落とし物〉はありませんか?
どこかに失くした物、ずっと探している人、過去の後悔、忘れていた夢。
あなたは忘れているつもりでも、心があなたの代わりに探し続けているかもしれません……。
喫茶店LAMP(ランプ)の店長、添野由良(そえのゆら)は、人の未練が具現化した幻〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉と、それを探す生き霊〈探し人(さがしびと)〉に気づきやすい体質。
ある夏の日、由良は店の前を何度も通る男性に目を止め、声をかける。男性は数年前に移転した古本屋を探していて……。
懐かしくも切ない、過去の未練に魅せられる。
〈主人公と作中用語〉
・添野由良(そえのゆら)
洋燈町にある喫茶店LAMP(ランプ)の店長。〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気づきやすい体質。
・〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉
人の未練が具現化した幻。あるいは、未練そのもの。
・〈探し人(さがしびと)〉
〈心の落とし物〉を探す生き霊で、落とし主。当人に代わって、〈心の落とし物〉を探している。
・〈未練溜まり(みれんだまり)〉
忘れられた〈心の落とし物〉が行き着く場所。
・〈分け御霊(わけみたま)〉
生者の後悔や未練が物に宿り、具現化した者。込められた念が強ければ強いほど、人のように自由意志を持つ。いわゆる付喪神に近い。
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
瞬間、青く燃ゆ
葛城騰成
ライト文芸
ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。
時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。
どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?
狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。
春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。
やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。
第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる