されど服飾師の夢を見る

雪華

文字の大きさ
上 下
3 / 46

seventeen③

しおりを挟む
 北関東三県のうちの一つ。古くから織物で有名なこの町は、山と川に囲まれ、田舎と呼ぶに相応しい自然に恵まれていた。
 かと言って不便かと聞かれればそんなこともなく、全国的に普及している飲食店や量販店は大体揃っていたし、小洒落た店も少数ではあるが存在する。なにより特急列車に乗れば、二時間余りで容易に都内に行くことも出来た。
 普通に生活する分には全く問題ないのだが、なんとも中途半端で常に物足りなさを感じる。
 啓介にとってこの町は、兎にも角にも退屈だった。

「あー。そっか」

 無造作に停めた自転車のカゴに鞄を放り込みながら、ふいに思い付く。

「直人はこのチャリ見て、僕が高架下にいること気付いたのか」
「そうだよ。こんな土手の真ん中に唐突に停めてあったら、どうしたんだろって思うじゃん」

 ぶすっとした表情で直人は自分の自転車にまたがると、啓介を待たずに漕ぎ出した。絡まれる度に喧嘩に応じてしまうことに腹を立てているのかと思い、啓介は直人に追いついて「ごめん」と告げる。

「心配してくれて、ありがとね。これからは、なるべく喧嘩しないから怒んないでよ」
「喧嘩? あぁ、うん。ホント気を付けろよ」
「あれっ。怒ってる理由、喧嘩じゃないの?」
「は? 俺は別に怒ってないし」

 いやいや、怒ってるでしょう。と、啓介は直人の自転車を足で小突いた。ぐらりと自転車が揺れて、直人は慌ててハンドルを切る。

「危ねぇな。ばーか」
「直人って口悪いよね」
「すぐに手と足が出るお前もどうかと思うけど。あと、自分のこと『僕』って言っても違和感ない見た目なのに、俺より喧嘩つえーとこもコワい」
「つまり僕は、強くて可愛くて最強ってこと? 直人、褒め過ぎぃ」

 機嫌良さそうにケラケラ笑う啓介を横目に、直人は大きなため息を一つ吐いた。

「あのさぁ。前から思ってたんだけど、その女っぽいキャラ疲れねぇの?」

 だらだらとペダルを漕ぎながら、直人が呆れたような声色で言う。
 直人に合わせるようにゆっくり並走していた啓介は、「は?」と顔をしかめ、次の瞬間、勢いよくスピードを上げて一人先に行ってしまった。
 置き去りにされた直人はポカンとしたまま遠ざかる背中を眺めていたが、我に返り慌ててペダルを踏み込む。

「オイ、何だよ急に。啓介っ」
「先帰る。じゃーね!」

 啓介は振り返って直人を睨み、すぐにプイッと前を向いてしまった。直人は舌打ちしながらも、更にペダルを漕ぐ足に力を込める。

「待てってば! 何で啓介は短時間でジェットコースターみたいに機嫌良くなったり悪くなったりすんだよ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クルーエル・ワールドの軌跡

木風 麦
青春
 とある女子生徒と出会ったことによって、偶然か必然か、開かなかった記憶の扉が、身近な人物たちによって開けられていく。  人間の情が絡み合う、複雑で悲しい因縁を紐解いていく。記憶を閉じ込めた者と、記憶を糧に生きた者が織り成す物語。

心の落とし物

緋色刹那
ライト文芸
・完結済み(2024/10/12)。また書きたくなったら、番外編として投稿するかも ・第4回、第5回ライト文芸大賞にて奨励賞をいただきました!!✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω'✌︎ ) 〈本作の楽しみ方〉  本作は読む喫茶店です。順に読んでもいいし、興味を持ったタイトルや季節から読んでもオッケーです。  知らない人、知らない設定が出てきて不安になるかもしれませんが、喫茶店の常連さんのようなものなので、雰囲気を楽しんでください(一応説明↓)。 〈あらすじ〉  〈心の落とし物〉はありませんか?  どこかに失くした物、ずっと探している人、過去の後悔、忘れていた夢。  あなたは忘れているつもりでも、心があなたの代わりに探し続けているかもしれません……。  喫茶店LAMP(ランプ)の店長、添野由良(そえのゆら)は、人の未練が具現化した幻〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉と、それを探す生き霊〈探し人(さがしびと)〉に気づきやすい体質。  ある夏の日、由良は店の前を何度も通る男性に目を止め、声をかける。男性は数年前に移転した古本屋を探していて……。  懐かしくも切ない、過去の未練に魅せられる。 〈主人公と作中用語〉 ・添野由良(そえのゆら)  洋燈町にある喫茶店LAMP(ランプ)の店長。〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気づきやすい体質。 ・〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉  人の未練が具現化した幻。あるいは、未練そのもの。 ・〈探し人(さがしびと)〉  〈心の落とし物〉を探す生き霊で、落とし主。当人に代わって、〈心の落とし物〉を探している。 ・〈未練溜まり(みれんだまり)〉  忘れられた〈心の落とし物〉が行き着く場所。 ・〈分け御霊(わけみたま)〉  生者の後悔や未練が物に宿り、具現化した者。込められた念が強ければ強いほど、人のように自由意志を持つ。いわゆる付喪神に近い。

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

カフェノートで二十二年前の君と出会えた奇跡(早乙女のことを思い出して

なかじまあゆこ
青春
カフェの二階でカフェノートを見つけた早乙女。そのノートに書かれている内容が楽しくて読み続けているとそれは二十二年前のカフェノートだった。 そして、何気なくそのノートに書き込みをしてみると返事がきた。 これってどういうこと? 二十二年前の君と早乙女は古いカフェノートで出会った。 ちょっと不思議で切なく笑える青春コメディです。それと父との物語。内容は違いますがわたしの父への思いも込めて書きました。 どうぞよろしくお願いします(^-^)/

瞬間、青く燃ゆ

葛城騰成
ライト文芸
 ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。  時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。    どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?  狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。 春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。  やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。 第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...