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【1話】 seventeen
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良く晴れた日の午後だった。
梅雨の合間の貴重な日差しは思いのほか強く、少し動いただけでじっとり汗が滲む。
もうすぐ夏が来る。
そんな予感を抱かせる爽やかな青空に、およそ不釣り合いな鮮血が散った。
「ホントもー、しつこいな。そんなんだからモテないんだよ? てゆーか、河川敷で喧嘩とか、ダサすぎて超嫌なんだけど」
肩で息をする男子高校生と対峙しながら、色白の少年が呆れ顔で罵る。
少年と言っても制服姿で、彼もまた高校生のようだった。肘が隠れるくらいの位置で緩く腕まくりされたワイシャツは、返り血と土埃で赤黒く汚れている。眉間に皺を寄せていても、端正な顔立ちということは一目でわかった。
既に少年に打ち負かされ、仰向けの状態で倒れている仲間をチラリと見た男子生徒は、悔しそうに唇を噛んで一歩踏み込む。
「調子乗んなよ、梅田ァ!」
大振りに繰り出された右の拳を避けながら、少年は相手の顎を突き上げるように殴りつけた。骨と骨がぶつかる鈍い音が高架下に響く。綺麗に打ち抜かれ、声も出せずに男子生徒は膝から崩れ落ち、前のめりに倒れた。
足元で呻く学生たちを見下ろした少年は、拳をさすりながら億劫そうに息を吐く。
「啓介、おつかれー」
聞きなれた声に急に背後から呼びかけられ、啓介と呼ばれた少年は顔をしかめながら振り返った。
「直人、いつからいたの? 見てたんなら手伝ってよね」
「いやぁ、啓介がピンチになったら颯爽と登場するつもりだったけど、出番なかったよね。やっぱつえーな、お前。一対三でも余裕だったじゃん」
「僕が喧嘩好きじゃないの知ってるくせに」
心底嫌そうな顔をして、啓介は自分の鞄を拾いあげ土手を登る。直人は地面に転がる男子高校生を不快そうに眺めてから、啓介の後を追った。
「また椚高校のヤツか。あれ、絶対啓介に惚れてんだろ。構ってほしくて絡んで来るんじゃねーの? 無視しちまえよ。喧嘩が嫌いなら尚更」
「でもほら、僕って負けず嫌いじゃん? 売られちゃったら買わないとね」
「お前もめんどくせぇ性格してんなぁ。だけど、なるべく一人になんなよ、また狙われんぞ。人数増やされたらヤバイだろ」
心配そうな直人を横目で見ながら、啓介がにやりと笑う。
「じゃあ、直人がボディーガードになってくれる? そんで、代わりにあいつらの相手してよ。負けたら承知しないけど」
「なんだよそれ、ひでーなぁ」
直人は声を上げて笑い、「まぁいいけどね」と言って薄茶色の髪をかき上げた。日の光に照らされて、髪色はさらに明るく透き通る。綺麗だな、と見惚れそうになったが、気付かれないうちに目を逸らした。
梅雨の合間の貴重な日差しは思いのほか強く、少し動いただけでじっとり汗が滲む。
もうすぐ夏が来る。
そんな予感を抱かせる爽やかな青空に、およそ不釣り合いな鮮血が散った。
「ホントもー、しつこいな。そんなんだからモテないんだよ? てゆーか、河川敷で喧嘩とか、ダサすぎて超嫌なんだけど」
肩で息をする男子高校生と対峙しながら、色白の少年が呆れ顔で罵る。
少年と言っても制服姿で、彼もまた高校生のようだった。肘が隠れるくらいの位置で緩く腕まくりされたワイシャツは、返り血と土埃で赤黒く汚れている。眉間に皺を寄せていても、端正な顔立ちということは一目でわかった。
既に少年に打ち負かされ、仰向けの状態で倒れている仲間をチラリと見た男子生徒は、悔しそうに唇を噛んで一歩踏み込む。
「調子乗んなよ、梅田ァ!」
大振りに繰り出された右の拳を避けながら、少年は相手の顎を突き上げるように殴りつけた。骨と骨がぶつかる鈍い音が高架下に響く。綺麗に打ち抜かれ、声も出せずに男子生徒は膝から崩れ落ち、前のめりに倒れた。
足元で呻く学生たちを見下ろした少年は、拳をさすりながら億劫そうに息を吐く。
「啓介、おつかれー」
聞きなれた声に急に背後から呼びかけられ、啓介と呼ばれた少年は顔をしかめながら振り返った。
「直人、いつからいたの? 見てたんなら手伝ってよね」
「いやぁ、啓介がピンチになったら颯爽と登場するつもりだったけど、出番なかったよね。やっぱつえーな、お前。一対三でも余裕だったじゃん」
「僕が喧嘩好きじゃないの知ってるくせに」
心底嫌そうな顔をして、啓介は自分の鞄を拾いあげ土手を登る。直人は地面に転がる男子高校生を不快そうに眺めてから、啓介の後を追った。
「また椚高校のヤツか。あれ、絶対啓介に惚れてんだろ。構ってほしくて絡んで来るんじゃねーの? 無視しちまえよ。喧嘩が嫌いなら尚更」
「でもほら、僕って負けず嫌いじゃん? 売られちゃったら買わないとね」
「お前もめんどくせぇ性格してんなぁ。だけど、なるべく一人になんなよ、また狙われんぞ。人数増やされたらヤバイだろ」
心配そうな直人を横目で見ながら、啓介がにやりと笑う。
「じゃあ、直人がボディーガードになってくれる? そんで、代わりにあいつらの相手してよ。負けたら承知しないけど」
「なんだよそれ、ひでーなぁ」
直人は声を上げて笑い、「まぁいいけどね」と言って薄茶色の髪をかき上げた。日の光に照らされて、髪色はさらに明るく透き通る。綺麗だな、と見惚れそうになったが、気付かれないうちに目を逸らした。
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