御伽噺のその先へ

雪華

文字の大きさ
上 下
30 / 49
第四章 百鬼夜行

第23話 頼むからそうして

しおりを挟む
 八月に入ってからも、相変わらず暑い日が続いていた。
 蝉すら鳴かないだるような午後の表参道を、御堂と二人並んで歩く。

「あの店だよ。早く早く」
「引っ張るなよ、痛いから」

 力強く腕を引いて店の前に立ったものの、表参道の立地と大人っぽいカフェの雰囲気に気圧された紗良は、この期に及んで御堂の背中に隠れた。

「御堂くん、やっぱり先に入って」
「何だよ、ここまで勢いよく来たくせに」

 クスクス笑いながら御堂がカフェの扉を開ける。その瞬間、店内にいた客の視線が集まった。
 被害妄想だと自覚しているが、値踏みされるようなこの瞬間が嫌でたまらない。それでも紗良はうつむきたいのを我慢して、思い切り背筋を伸ばした。
 御堂と不釣り合いだと思われたとしても、みっともなく背を丸めずに、せめて胸は張っていたい。

 案内されたのは通りに面した窓際の席で、表参道のお洒落な景色と道行く人が良く見えた。
 オーダーを済ませると、御堂は改めて店内を見まわす。

「確かに洒落てるね。自分の部屋が和室じゃなかったら、こんな風にしたいかも」
「でしょう。前に七海と買い物帰りに見つけたんだけど、大人っぽ過ぎて入る勇気がなかったよ」

 コンクリート打ちっぱなしの壁にはモノトーンで揃えられた絵が飾られていて、椅子は全て黒の革張りのソファだった。冷たい印象になりそうなインテリアのチョイスだが、ヴィンテージ風の電気ランプの優しい明りと、使い込まれた風合いの木のテーブルのおかげで無機質な感じは全くしない。

「俺となら来れるんだ?」
「御堂くんとなら、臆することなくどこにでも行けそうな気がする」

 なんだそれ。と、御堂が肩を揺らして笑った。

「お茶するだけで良かったの? 映画とかじゃなくてさ。この後行こうか?」
「ううん。もっと御堂くんの事知りたい。だから今日はずっとおしゃべりしてようよ。と、言うわけで御堂くんの誕生日はいつ?」
「一月」
「まだまだ先かぁ。一緒にお祝いしたいね。クリスマスもバレンタインも楽しみだな」
「……そうだね」

 唇は笑みの形を作ってはいたが、なぜか酷く悲しそうに見えた。

「誕生日か。俺、次に生まれ変わるならやっぱり人間が良いな。そうしたら、真宮は生まれ変わった俺を見つけてくれる?」
「えっ? どうしたの、急に」
「いや、なんとなく」

 ゆっくりと紗良から目を逸らし、運ばれてきたばかりのアイスコーヒーに視線を落とす。銅製のマグカップの側面から水滴が流れ落ちて、よく冷えている事が一目でわかった。一口飲んだ御堂が再び紗良に視線を戻すと、何事もなかったかのようにふわりと笑う。

「髪、伸びたね。あと、今日はいつもと少し雰囲気が違う」
「うん。御堂くんに釣り合うように頑張ったよ。自分が持ってる服で、一番大人っぽいの選んだ。ダイエットもしようかな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

処理中です...