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第四章 百鬼夜行
第23話 頼むからそうして
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八月に入ってからも、相変わらず暑い日が続いていた。
蝉すら鳴かない茹だるような午後の表参道を、御堂と二人並んで歩く。
「あの店だよ。早く早く」
「引っ張るなよ、痛いから」
力強く腕を引いて店の前に立ったものの、表参道の立地と大人っぽいカフェの雰囲気に気圧された紗良は、この期に及んで御堂の背中に隠れた。
「御堂くん、やっぱり先に入って」
「何だよ、ここまで勢いよく来たくせに」
クスクス笑いながら御堂がカフェの扉を開ける。その瞬間、店内にいた客の視線が集まった。
被害妄想だと自覚しているが、値踏みされるようなこの瞬間が嫌でたまらない。それでも紗良はうつむきたいのを我慢して、思い切り背筋を伸ばした。
御堂と不釣り合いだと思われたとしても、みっともなく背を丸めずに、せめて胸は張っていたい。
案内されたのは通りに面した窓際の席で、表参道のお洒落な景色と道行く人が良く見えた。
オーダーを済ませると、御堂は改めて店内を見まわす。
「確かに洒落てるね。自分の部屋が和室じゃなかったら、こんな風にしたいかも」
「でしょう。前に七海と買い物帰りに見つけたんだけど、大人っぽ過ぎて入る勇気がなかったよ」
コンクリート打ちっぱなしの壁にはモノトーンで揃えられた絵が飾られていて、椅子は全て黒の革張りのソファだった。冷たい印象になりそうなインテリアのチョイスだが、ヴィンテージ風の電気ランプの優しい明りと、使い込まれた風合いの木のテーブルのおかげで無機質な感じは全くしない。
「俺となら来れるんだ?」
「御堂くんとなら、臆することなくどこにでも行けそうな気がする」
なんだそれ。と、御堂が肩を揺らして笑った。
「お茶するだけで良かったの? 映画とかじゃなくてさ。この後行こうか?」
「ううん。もっと御堂くんの事知りたい。だから今日はずっとおしゃべりしてようよ。と、言うわけで御堂くんの誕生日はいつ?」
「一月」
「まだまだ先かぁ。一緒にお祝いしたいね。クリスマスもバレンタインも楽しみだな」
「……そうだね」
唇は笑みの形を作ってはいたが、なぜか酷く悲しそうに見えた。
「誕生日か。俺、次に生まれ変わるならやっぱり人間が良いな。そうしたら、真宮は生まれ変わった俺を見つけてくれる?」
「えっ? どうしたの、急に」
「いや、なんとなく」
ゆっくりと紗良から目を逸らし、運ばれてきたばかりのアイスコーヒーに視線を落とす。銅製のマグカップの側面から水滴が流れ落ちて、よく冷えている事が一目でわかった。一口飲んだ御堂が再び紗良に視線を戻すと、何事もなかったかのようにふわりと笑う。
「髪、伸びたね。あと、今日はいつもと少し雰囲気が違う」
「うん。御堂くんに釣り合うように頑張ったよ。自分が持ってる服で、一番大人っぽいの選んだ。ダイエットもしようかな」
蝉すら鳴かない茹だるような午後の表参道を、御堂と二人並んで歩く。
「あの店だよ。早く早く」
「引っ張るなよ、痛いから」
力強く腕を引いて店の前に立ったものの、表参道の立地と大人っぽいカフェの雰囲気に気圧された紗良は、この期に及んで御堂の背中に隠れた。
「御堂くん、やっぱり先に入って」
「何だよ、ここまで勢いよく来たくせに」
クスクス笑いながら御堂がカフェの扉を開ける。その瞬間、店内にいた客の視線が集まった。
被害妄想だと自覚しているが、値踏みされるようなこの瞬間が嫌でたまらない。それでも紗良はうつむきたいのを我慢して、思い切り背筋を伸ばした。
御堂と不釣り合いだと思われたとしても、みっともなく背を丸めずに、せめて胸は張っていたい。
案内されたのは通りに面した窓際の席で、表参道のお洒落な景色と道行く人が良く見えた。
オーダーを済ませると、御堂は改めて店内を見まわす。
「確かに洒落てるね。自分の部屋が和室じゃなかったら、こんな風にしたいかも」
「でしょう。前に七海と買い物帰りに見つけたんだけど、大人っぽ過ぎて入る勇気がなかったよ」
コンクリート打ちっぱなしの壁にはモノトーンで揃えられた絵が飾られていて、椅子は全て黒の革張りのソファだった。冷たい印象になりそうなインテリアのチョイスだが、ヴィンテージ風の電気ランプの優しい明りと、使い込まれた風合いの木のテーブルのおかげで無機質な感じは全くしない。
「俺となら来れるんだ?」
「御堂くんとなら、臆することなくどこにでも行けそうな気がする」
なんだそれ。と、御堂が肩を揺らして笑った。
「お茶するだけで良かったの? 映画とかじゃなくてさ。この後行こうか?」
「ううん。もっと御堂くんの事知りたい。だから今日はずっとおしゃべりしてようよ。と、言うわけで御堂くんの誕生日はいつ?」
「一月」
「まだまだ先かぁ。一緒にお祝いしたいね。クリスマスもバレンタインも楽しみだな」
「……そうだね」
唇は笑みの形を作ってはいたが、なぜか酷く悲しそうに見えた。
「誕生日か。俺、次に生まれ変わるならやっぱり人間が良いな。そうしたら、真宮は生まれ変わった俺を見つけてくれる?」
「えっ? どうしたの、急に」
「いや、なんとなく」
ゆっくりと紗良から目を逸らし、運ばれてきたばかりのアイスコーヒーに視線を落とす。銅製のマグカップの側面から水滴が流れ落ちて、よく冷えている事が一目でわかった。一口飲んだ御堂が再び紗良に視線を戻すと、何事もなかったかのようにふわりと笑う。
「髪、伸びたね。あと、今日はいつもと少し雰囲気が違う」
「うん。御堂くんに釣り合うように頑張ったよ。自分が持ってる服で、一番大人っぽいの選んだ。ダイエットもしようかな」
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