異世界距離恋愛 (修正版)

ふくまめ

文字の大きさ
上 下
22 / 25

保護者はつらいよ

しおりを挟む
「やったー!じゃあ決まりね!今日は遅くまで語り明かすぞー!」
「おー!」

流された気がしないでもないが、今日はナインの家にお泊りだ!いやこの場合は釣られたというべきか?

「おい。」
「「ぴぇ。」」

何の作品について話すー?それとも鑑賞会から?自分のお勧めする作品の布教とか?と二人してきゃいきゃいと盛り上がっていると、頭上から低い声が降り注ぎ頭をがしりと掴まれる。思わずナインと一緒に出したことのない短い悲鳴を上げてしまう。あのすみません、掴まれている頭から冷えてくる気がするのですが。

「俺はな、ナイン。友達を紹介するために今日来たわけじゃないんだ。分かるか?」
「はぃ、もちろんです…。」
「新島さん、アンタも自分の状況分かってるか?アンタは訳も分からない状況に放り出されて、それを解明できるきっかけがないかってところなんだぞ?」
「はぃ、あの、その節は、大変お世話になりまして。」
「…二人してはしゃぎ過ぎ。」
「「すみません。」」

いけないいけない。社会人の端くれとして、あまりにも羽目を外し過ぎてしまっていた。郡司さんの言っていることが正論。反省。

「じゃ、俺も泊まるぞ。」
「えぇ!?」
「健人も?僕はいいけど、何でまた。」
「…新島さんを保護したのは俺だし、途中で放り出すのもな…。」
「ぐ、郡司さん、私十分お世話になってしまいましたし、これ以上迷惑をかけるわけには…。」
「別に迷惑なんて思ってない。…それに、これは単に俺の自己満足だし。」
「はぁ…。」
「…うんうん、分かったよ。今日はみんなでパジャマパーティと行こうじゃない!」
「だからそういう目的で来たんじゃないって言ってるだろ。」

何だかんだで郡司さんもこのお泊りに参加することになってしまった。これでは郡司さんの負担を減らすという目的が達成できず、本末転倒になってしまうのでは…。そう思うも、この家の主であるナインがオーケーを出している以上何も言うことはできない。

「あ、でも健人。明日仕事なんじゃないの?」
「…ここから出勤する。」
「そう?大丈夫?」
「大丈夫。…多分。」

少し不安になってきた。



「それじゃ、改めまして!ユキさんの歓迎会を開催したいと思います!」
「わーい…。」
「ようこそー…。」
「もう!ノリが悪いなぁ!それもこれも片づけを再開したせいなんだからね!」
「お前が普段から整頓してなかったせいだろうが!」

そう、私たちはお泊り会を決定したのはいいものの、重要なことを忘れてしまっていたのだ。ここはナインの家。…お分かりだろうか。部屋は無数にあれど、そこが機能できる状態にあるとは一言も言ってはいないのだ。
テーブルには再度注文したピザやらポテトやら唐揚げやらが所狭しと並べられていたが、私と郡司さんが真っ先に注文したのが飲み物だったのは想像に易いだろう。

「とにかくさ、これで泊まる部屋は確保できたんだから結果オーライでしょ!」
「そうそう、ナインだって分別頑張ってたし!」
「「ねー!」」
「…二人して懐かしいマンガだの何だのを読んでサボっていたことは許さんからな。」
「「…えへ。」」
「はぁ…。」

だって見つけてしまったものは仕方がない。本の片づけって読み出しちゃうところが怖いよね、止まらないんだもの。進まないんだもの。吸引機能でも搭載されているのか?ってくらい手から離れないんだもの。
本の魔力はかくも恐ろしい…。
そのせいか、私たちが足止めを食らってしまったマンガたちは仲良く紙紐でギッチギチにまとめられてしまっている。歪んでしまった表紙の主人公の顔が直視できない。…ごめんなさい、助けることができなくて。

「さぁさ、まずはお疲れ様の気持ちを込めて。カンパーイ!」
「カンパーイ!」
「乾杯。」

各々の飲み物を掲げて喉を潤す。非常に残念ではあるが、私の手に握られているのはアルコールではない。明日仕事だという郡司さんはもちろん、ナインもお酒はあまり好まないのだという。…まぁ見た目的にもアウトな感じするもんね。いくら実年齢的に大丈夫だとしても、あまり勧める気にもならない。年齢確認をする店員さんが気の毒になってくるくらい少年な見た目してるもの。
そんなこんなで自分だけお酒を飲むのもな、と思い有名バリスタ監修のコーヒーを頼んでもらった。うん、いい香り。
こうして、野菜を食べるようにナインに勧める郡司さんの声をBGMになかなかに濃かった一日が終わりに向かうのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...