異世界距離恋愛 (修正版)

ふくまめ

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頑張ったご褒美

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「はー疲れた!これにて検査は無事終了!」
「…ありがとうございました…。」
「ほんとにな。」
「血液の分析やら何やらで…結果は明日になるかな。」
「え、そんなに早いの?健康診断の結果って、忘れた頃に届くイメージなんだけど。」
「まぁそこらへんは使っている機械によって多少差があるとは思うけど…。一番は僕の腕の良さだね!」
「腹減ったな。」
「うわ、もうこんな時間になってたの?そりゃお腹も空くわ…。」
「無視しないで!?」

本日最大の山場を越えて、緊張が解けたせいか急に空腹を感じる。かなり遅いお昼になってしまった。何か食べたい気持ちはあるが…。

「中華だったか?食べたいの。」
「…無理。そんな気分じゃない。」
「…まぁ、そうかもな。」

さっきまでの戦いの後遺症か、体はすでに限界を訴えている。空腹とはいえ、ここから店までの移動、そして食べるものの内容は味の濃い油もの、なんてことになるのはさすがに…と体が待ったをかけている。私は適当なイスに腰かけて力なく天を仰いだ。それを見ている二人はさっきの私の様子から呆れながらも納得しているようだ。

「あ、じゃあ出前でも取ろうよ!そうすれば待っているだけでいいし。今からお店探すのだって面倒でしょ?」
「…それもそうか。」
「え、何でも頼んでいいの?」
「いいよー。ここは僕が奢っちゃう!」
「やった!ありがとうナイン!ごちそうさまです!」
「…お前何か企んでないだろうな。」
「ひどいなぁ。健人は僕に対して大抵辛辣だけど、今日はいつにも増して辛辣だよ。特に理由なんてないよ。しいて言えば…さっきの注射があまりにも哀れでね…。」
「あぁ…。」

この時二人に憐憫を含んだ眼差しで見られているとは、何を頼もうかと能天気に考えている私は気が付かないのであった。

「何がいいかなぁ…。よし、ミートドリアにしよう!」
「本当に中華じゃないのにするんだな。…俺は、カツサンドにするか。」
「あ、いいなー!僕は…うーんそうだなぁ…。」

それぞれのメニューをナインに一括して注文してもらう。ゴチになります!見た目は完全に年下、というかもはや子供にたかっている大人というダメな図だが、ナインは私たちより年上だということなので甘えさせてもらおう。いやーエルフってやっぱりすごいんだなぁ。



ピンポーン

『こんにちはー!注文の品お届けに来ましたー!』
「はーい!今行きまーす!」

程なくして注文したご飯たちが到着した。私たちは家でダラダラしているだけで商品が届いちゃうなんて、いい時代になったもんだわ。もはや何だって選べちゃうし。ありがとうお店の人。ありがとう配達してくれる人。ありがとう科学技術。

「はーい、お待ちどうさまー!ミートドリアにカツサンド、そしてストロベリーチョコクレープ!」
「飯じゃねぇのかよ!」
「僕も最初はそう思ってたんだよ?でも何がいいかなーって探しているうちに、このクレープが目に入っちゃってさぁ!見てよクリームたっぷり!」
「…そうだな。」

ご飯時だというのにクリームとイチゴたっぷりのクレープを選ぶとは…。さすがナイン、おいしそう。人が食べているととてもおいしそうに見えてくるのって、何でだろうね。郡司さんは食事代わりに甘いものなんて、という気持ちが前面に押し出されたような表情をしている。表現するとしたら、うへぇ…って感じの顔。
各々注文した商品を食べ終え人心地着いた頃、そういえば、とナインが切り出した。

「今日から二人、どうするの?」
「へ?」
「…どうするって、何が。」
「だってユキさんってこっちに来てから健人のところにお世話になっているんでしょ?いい歳した独り者の男のところにいい年頃の女性が生活するって…何かあるの?」
「な、ないないない!何にもないよ!大体、何かって何。」
「…俺はただ単に保護しただけだ。」
「ふーん。だったらさ、ユキさんここに泊まりなよ!」
「え!?」
「ここだったら部屋もたくさんあって不便しないよ。健人のところは普通のアパートでしょ?女性がそんな環境で、見知らぬ男と寝泊まりするって、何かあるわけじゃないにしても結構大変じゃない?」
「…うーん。」

正直に言ってしまえば、気を使わないわけでもない。郡司さんはいい人だし、仕事で家を空けているうちはそこまでかもしれないけど、よそ様の家に上がり込んでしまっているという事実は変わらないのだ。…何より異性だし。郡司さんも気を使ってあまり口を出さないようにしてくれているだけで、本当は私の行動に物申したいところを我慢しているのではなかろうか。初対面の時の紅茶へのこだわりを思い出す。あの時は何を言っているのか分からなかったんだけども…。あの様子からするに、本来は身の回りのことに関してもこだわりを持っていると考えて妥当だろうし。

「二人が無理をしているとまでは言わないけどさ、それなりの年齢の男女のプライベート空間は分けて確保できた方が、精神衛生上いいんじゃない?」
「…確かに。」
「ね?ここだったらそれが可能だよ。」
「そうだねぇ…。」

ナインの言い分はもっともだし、納得できるんだけども…。私にとってみればよそ様の家から別のよそ様の家にお邪魔することになるってだけなわけで…。郡司さんに迷惑をかけ続けていいとは思わないけど、今度はナインにおんぶにだっこ状態になるのは、それはそれでいかがなものかと思いもする。

「今ならなんと!三食昼寝付き、マンガ読み放題アニメ見放題までついてくる!」
「よろしくお願いします!」
「おい!!」

それでいいのかと毛を逆立てている郡司さんを背に、ナインに向かって九十度に頭を下げる。
さっそく今日からお世話になります!
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