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一時休戦
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荷物は一旦玄関の隅に寄せるだけにして、おもむろに冷蔵庫を開ける。まずはお腹を満たさないと。片づけはそれから。何かしら考えようにもこれ以上頭が回らない。無理。現実逃避するなって言われても無理なものは無理。
あー出張の前に冷凍食品もいくつか買っておいて備えておくなんて、私ったら最高。最近ハマっているのはこの冷凍パスタシリーズ。その中からカルボナーラを選んでレンジへと…。
「おいおいおいおい。」
「何よ、お腹すいてるんだから邪魔しないで。あんただってラーメン作ってたじゃない。」
「だからって人の冷蔵庫勝手に開けるかって。」
「冷凍庫だけど?」
「そういうこと言ってんじゃ…いや、もういい。」
盛大にため息をついて頭を抱えている二足歩行の犬を尻目に、説明書通りにカルボナーラを温める。タイマーをセットして、これで良し。後は待つだけ、といったところで何か違和感を覚えた。私の部屋、何か変わった?数日ぶりだからそう感じるだけだろうか。…いや、何かが変わっている。何かが…。
「あっ!私のビールがない!ちょっとあんた、飲んだでしょ!」
「あぁ?ビール?そんなもん最初からねーよ。」
「嘘つくんじゃないわ!この私が買っておいたんだから、勝手になくなるはずないでしょーが!」
「だからここは俺の部屋だって…。第一、俺チューハイ派だからビールなんて飲まないし。自分が飲まないものなんて準備しねぇし。」
「チューハイー?あんな甘ったるいジュースみたいなの飲んでんの。」
「…別にいいだろ。もっと言えば、酒自体あまり飲まない。」
「は、人生損してるのねー。可哀そうな奴ー。」
「その程度で損するような人生観してねぇ。寂しい奴だなお前。」
ホント失礼な奴!呆れたように鼻息をふんと漏らしている。犬面だって分かる。そんな態度とったってごまかされないわ。私が仕事終わりに飲むために、神様へのお供え物よろしく冷蔵庫の上に恭しく乗せておいたものを、いったいどうしてなくなるというのだろうか。…無意識のうちの飲んだ、なんてことないわよね、私…。
「…あっ!」
「何よ、急に。」
私が部屋の中を見回しているのにつられるように、二足歩行の犬も何か変化がないかきょろきょろと確認していると、何かに気が付いたように声を上げた。
「どうりで最近、茶葉の減りが早いと思ったんだ。お前まさか…!」
「ちょっと、人聞きの悪いこと言わないで!私はコーヒー派なの、紅茶なんて買わない…ってそう言われて見れば、私のコーヒーセットがない!私のコーヒーミルちゃんどこにやったのよ!」
「俺は紅茶派だ!コーヒーのセットなんてあるわけないだろ!大体なんだよコーヒーミルって。コーヒーなんて、粉入れてお湯注げばできんじゃねぇか。難しい道具なんて必要ないだろ。」
「はあぁぁ!?あんた全世界のバリスタに土下座して謝りなさいよ!紅茶の方こそ葉っぱ入れてお湯注いで、色が出てきたら完成のくせに!」
「あんだと、香りを楽しむってのを知らねぇのか!?それに見てみろ、この美しいボーンチャイナの色彩を!心が満たされるだろうが!」
「なーにがボーンチャイナよ!中国の骨がどうしたってのよ!そんな周りの物に頼らなくても、コーヒーは苦みの中にある複雑なコクや味わいで勝負してるんですー!そっちの方が武骨でかっこいいでしょ!伝統あるカリタを知らないのぉ?」
「何だと…!」
「何よ!」
チーン。
睨み合いの中に響く間抜けな音。カルボナーラの完成をレンジが告げている。それと同時においしそうな香りも漂ってくる。そういえば、私お腹がすいているんだった。
「…まぁ、食うか。」
「そ、そうね、冷めたら元も子もないし。」
舌戦は一時休戦。まずは腹ごしらえだ。
あー出張の前に冷凍食品もいくつか買っておいて備えておくなんて、私ったら最高。最近ハマっているのはこの冷凍パスタシリーズ。その中からカルボナーラを選んでレンジへと…。
「おいおいおいおい。」
「何よ、お腹すいてるんだから邪魔しないで。あんただってラーメン作ってたじゃない。」
「だからって人の冷蔵庫勝手に開けるかって。」
「冷凍庫だけど?」
「そういうこと言ってんじゃ…いや、もういい。」
盛大にため息をついて頭を抱えている二足歩行の犬を尻目に、説明書通りにカルボナーラを温める。タイマーをセットして、これで良し。後は待つだけ、といったところで何か違和感を覚えた。私の部屋、何か変わった?数日ぶりだからそう感じるだけだろうか。…いや、何かが変わっている。何かが…。
「あっ!私のビールがない!ちょっとあんた、飲んだでしょ!」
「あぁ?ビール?そんなもん最初からねーよ。」
「嘘つくんじゃないわ!この私が買っておいたんだから、勝手になくなるはずないでしょーが!」
「だからここは俺の部屋だって…。第一、俺チューハイ派だからビールなんて飲まないし。自分が飲まないものなんて準備しねぇし。」
「チューハイー?あんな甘ったるいジュースみたいなの飲んでんの。」
「…別にいいだろ。もっと言えば、酒自体あまり飲まない。」
「は、人生損してるのねー。可哀そうな奴ー。」
「その程度で損するような人生観してねぇ。寂しい奴だなお前。」
ホント失礼な奴!呆れたように鼻息をふんと漏らしている。犬面だって分かる。そんな態度とったってごまかされないわ。私が仕事終わりに飲むために、神様へのお供え物よろしく冷蔵庫の上に恭しく乗せておいたものを、いったいどうしてなくなるというのだろうか。…無意識のうちの飲んだ、なんてことないわよね、私…。
「…あっ!」
「何よ、急に。」
私が部屋の中を見回しているのにつられるように、二足歩行の犬も何か変化がないかきょろきょろと確認していると、何かに気が付いたように声を上げた。
「どうりで最近、茶葉の減りが早いと思ったんだ。お前まさか…!」
「ちょっと、人聞きの悪いこと言わないで!私はコーヒー派なの、紅茶なんて買わない…ってそう言われて見れば、私のコーヒーセットがない!私のコーヒーミルちゃんどこにやったのよ!」
「俺は紅茶派だ!コーヒーのセットなんてあるわけないだろ!大体なんだよコーヒーミルって。コーヒーなんて、粉入れてお湯注げばできんじゃねぇか。難しい道具なんて必要ないだろ。」
「はあぁぁ!?あんた全世界のバリスタに土下座して謝りなさいよ!紅茶の方こそ葉っぱ入れてお湯注いで、色が出てきたら完成のくせに!」
「あんだと、香りを楽しむってのを知らねぇのか!?それに見てみろ、この美しいボーンチャイナの色彩を!心が満たされるだろうが!」
「なーにがボーンチャイナよ!中国の骨がどうしたってのよ!そんな周りの物に頼らなくても、コーヒーは苦みの中にある複雑なコクや味わいで勝負してるんですー!そっちの方が武骨でかっこいいでしょ!伝統あるカリタを知らないのぉ?」
「何だと…!」
「何よ!」
チーン。
睨み合いの中に響く間抜けな音。カルボナーラの完成をレンジが告げている。それと同時においしそうな香りも漂ってくる。そういえば、私お腹がすいているんだった。
「…まぁ、食うか。」
「そ、そうね、冷めたら元も子もないし。」
舌戦は一時休戦。まずは腹ごしらえだ。
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