脳内殺人

ふくまめ

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沈め、お局③

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「私たちの誰が、大久保さんに環境整備のお仕事をお願いしたんです。環境を整えるために、全員が厳しく指導してほしいと、いつ依頼したんです?…全部あなたが勝手にやったことですよ。」
「…。」
「あなたが勝手にやって、勝手にみんなが協力してくれないと怒って、雰囲気を悪くしていることに気がつきませんか?ポットのお湯が無かったら、その時に水を淹れますよ。沸くまで少し待ったらいい、それだけです。お客様を待たせるかもしれない?それが起きる可能性がどれだけありますか。備えあれば憂いなしとは言いますが、それは個人で名指ししてまですることですか?」
「…。」
「あなたがやっていることで、誰が心地よく過ごせるんです?…あなたですよね。あなたが、誰かに指示を出して、その指示通りに動いていることで満足しているんじゃないんです?」

大久保さんは瞬き一つしない。私がそうするよう想像しているからだ。現実ではありえない、大久保さんが黙って此方の話を聞いているという状況。言いたいことが溜まりに溜まっている私の口は、なかなか強い口調で大久保さんに向けられる。本物に届かないというのに。

「…。」
「誰も求めていませんよ、そんなこと。あなた一人がやっている分にはどうぞご勝手に。でもあなたがやりたいことを、私たちに強制しないでくださいよ。勝手に期待して怒られるのは、はっきり言って迷惑です。…あぁ、でももし私たちのことを思ってくれているんだとしたら、一つお願いしたいことがあります。」

お願い。そう言った瞬間、大久保さんが立っている場所に巨大なポットが出現する。私の身長よりも大きなポット。ここから中身を見ることはできないが、中には大久保さんが入っている。私がそう想像したから。
フタは空いたままだが、大久保さんの声が聞こえてくることはない。そうこうしている間に、今度は室内であるにもかかわらず雨が降って来る。天井はある。見上げてみても雲はない。それでも雨はかなり局所的で、ポットの大きさと同じ範囲にだけ降っている。そして、雨水は順調にポットの中へと溜まっていく。

「そんなにポットのお湯が気になるなら、どうぞ管理を専門に行ってください。」

バシャバシャと水が跳ねる音がする。もはや雨の勢いは、滝のようになっていた。
水量を示すメーターが満水を示した時、唐突に雨が止む。次に出現させたのは脚立。それをポットの横に配置する。

「…アンタ、それで何するの?」
「中を確認するの。」

脚立が安定していることを確認し、一歩一歩慎重に段を上がってポットの中身を確認する。覗いてみても、そこに大久保さんの姿は見当たらない。
自分が想像した状況とはいえ、それを確認してゆっくりと降りていく。

「これで、よしっと。」
「よしじゃないわよ。どうなってんのよ、あのお局様どうしちゃったの?」
「あまりにポットに執着するから、本人がお湯になってくれたらいいと思って。」
「…アンタ、夢の世界に慣れ過ぎて結構過激になってきてない?」
「そう?まぁでも、現実に何の影響も出ないんでしょ?」
「それもそうね。」

最後の仕上げにポットのフタを閉める。
やれやれ、これで次の人は安心だというわけ、ですよね?
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