脳内殺人

ふくまめ

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消滅しろ、ハラスメント野郎④

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「なかなかいいわね!やるじゃない!」
「…ちょちょちょちょっと、そんなこと言ってる場合じゃ、って…え?」

興奮が冷めないのかネオンのように光り輝く毛並みに、ちぎれるのではと心配になるほど振られる尻尾。そんなペルの様子をまともに確認することなく、安田が突き破っていった窓に駆け寄る。
ここはビルの四階。まずもって無事ではいられないだろう。
飛び散ったガラスの破片に構わず外へと身を乗り出すと、そこに安田の姿はなく、ただ真っ白いだけの空間が広がっていた。

「何…これ。」
「あーアンタ外の世界までは想像してなかったのね。まぁここから出ない分には支障はないし、いいけど。」
「…ここも私の想像でどうにかなるの?」
「なるわ。それこそ、飛び出していった安田がこの後どうなるかなってのも…いえ、やめましょう。変な汁を垂れ流している安田の姿なんて、見たくもない。」

変な汁って…。口ぶりから察するに、私の想像次第で安田の安否が変わるということなのだろうが…。

「…まぁ、考えなくていいなら、考えないに越したことはないか。」
「そうね。それにしても、ずいぶんと飛んでいったわねー。不満溜まりすぎなんじゃない?」
「まぁね。現実を生きる社会人には苦労が多いの。」
「アタシを夢の世界の住人だと思って舐めてる?」
「まさか。…現実世界にいないよね?」
「アタシぐらい毛並みを綺麗にできる存在がいるっていうなら、ぜひお目にかかりたいものね。」
「そうですか…。」

それってつまり現実にはいないって言っているようなもの、だよね…?
そもそも毛並み以前にこんな流暢に言葉を話す猫がいたら、世界中が大騒ぎになると思うけど。

「ま、これでここが夢の世界だって信じる気になったでしょ?ここじゃ、アンタが想像した通りになるの。最高よね。」
「最高…かは分からないけど。…まぁ、うん、さすがに現実ではないってことは、理解しました。」
「よろしい。」

満足げに、ふすーと鼻息を漏らすペルに思わず笑いそうになる。夢の中とはいえ、職場の上司を窓の外に吹っ飛ばしたというのに、我ながら呑気なものだと思う。

「…これ、安田は無事、なんだよね?えと、現実の方の…なんだけど。」
「現実は夢と違って、そう簡単に想像通りになんかいかないわ。人様を自分の思い通りにしようなんておこがましい。安田はどうせ今頃、お腹出していびきかいて寝てるわよ。」

ひどい偏見である。

「ここで起こったことは、良くも悪くも何の影響も出しはしないわ。」

だから上手く使うように。
ペルの言葉を聞き流しながら、割れた窓から外へと体を乗り出してみる。どこからか吹きつける風が、みかんのようなさわやかな甘みの香りを運んでくる。この風も、私が無意識に求めたものなのだろうか。
あぁ、これはやはり最高かもしれない。
ここ最近、ぺしゃんこになっているように感じていた体のどこかに空気を入れ込むように、目を閉じて思い切り深呼吸した。
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