某勇 ~一方その頃、編~

ふくまめ

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「…よし、みんな画材は持ったね?」
「えぇ。」
「「…。」」

人数分の画材を準備して帰ってきたウィル。その嬉しそうな顔と言ったら…。
まじでぶん殴りたい。

「題材にするのは風景画ね。」
「うん。絵を描くのって結構時間かかるから、人物とか生き物を題材にするのは結構大変だと思うし。」

オレたちは以前ハナビとやらが打ち上げられた、あの広場に来ていた。とはいえ、あの時とは違ってまだ明るい時間帯なので、ちらほらと子供連れの家族なんかが遊んでいる。のどかな風景だ。
これからこの平和な景色が地獄絵図と化してしまうのか…。

「…っていっても、私は本当に初心者なのよね。何かコツとかってある?ウィル。」
「心のままに手を動かせばいいと思うよ。」
「おいユイ、言っただろ。センスゼロのこいつに助言を求めたところで、まともなもんなんて返ってくるわけねぇよ。」
「うるさいな、レイ。お前は黙って描いてればいいだろ。」
「へいへい。」

ユイとの会話を邪魔されたのが気に障ったのか、ウィルの奴睨んできやがった。
これ以上なんか突っかかられる前に適当に描いちまおう。アレックスの奴はできるだけウィルの描いている絵を見たくないのか、完全にこっちに背中を向けて作業に入ってしまっている。正しい判断だ。



「…よし、これくらいでいいんじゃないかしら!みんな、出来上がりはどう?できた?」
「うん、俺もいい感じになったよ。」
「ぼ、僕もできた、かな。」
「こんなもんでいいだろ。…約一名心配な奴がいるけどな。」
「…じゃあ、順番に見せ合っていこうかしら。言い出しっぺで申し訳ないんだけど、私あまり自信ないのよね、どう描いたらいいのかもよく分からないし。最初でもいい?」
「う、うん、いいと思うよ…。」
「大丈夫だよ、ユイさん。」
「早く楽になっちまえ。」
「私は犯罪者か何か?…まぁ、こんな感じだけど…。」

くるり、とユイが抱えていた紙をひっくり返す。

「上手だね、ユイさん!」
「…あー。」
「…なるほど。」
「何よ!言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ!!」
「別に…。何というか、初心者って感じの絵だな。」
「本当に初心者なんだからいいでしょ!」
「ま、まぁまぁ…。」

ユイの描いた絵は、まぁ無難というか。あ、この人あまり絵描かないんだなーっていうのが感じ取れるような具合だ。見たものそのまま絵にしようとしているのだろうが、絶妙に奥行きとかが表現しきれておらず遠近感がつかめずに違和感が残る、そんな感じ。下手というか、慣れてないんだなーって感じの絵だ。

「じゃ、じゃあ、次は僕でいいかな、残っているメンバーが、メンバーだから…。」
「別にいいけど…何?レイも下手なの?」
「言ってろ。」
「ユイさん?『も』ってことは俺も下手扱いなの?」
「ぼ、僕は、こんな感じ…。」

恐る恐る、アレックスは描いた絵を差し出してきた。

「…え、上手いじゃないアレックス!」
「うんうん、よく描けてるよ。」
「どの口が言ってんだ。」
「あはは…。」

アレックスの描いた絵は、適度に簡略化されていてこの広場の状況が分かりやすくなっている。絵を見ている人間に伝える情報を取捨選択しているような印象だ。そのうち、絵本なんか書くようになってたりしてな。ま、そんな風に思わせるようなとっつきやすい画風ってことだな。

「んじゃ、トリはウィルに任せるから、オレの番だな。」
「トリだなんて…。」
「いいからさっさと見せなさいよ。」
「き、きっとびっくりするよ。」
「え?」

ぺらり、と描き終わった絵を三人に渡す。

「…え、ん?」
「何だよ、なんか文句あるのか?」
「…これ同じ時間で描いてる?実は昨日から準備してたとか?いや実はアンタが描いた絵じゃないんでしょ!そうなんでしょ!?」
「お、落ち着いて…!」
「ユイさん、皆で絵を描こうって言いだしたのユイさんなんだから。事前準備なんてできないと思うよ。」
「そ、それもそう、よね…。でも、同じ風景を題材にしてて使っている道具だって同じ、描いている時間だって同じなのに…。何でこうも違うのよ!陰影や奥行き、風が吹いていることが感じられるような躍動感、どうなってるの!?やっぱりアンタが描いたのって嘘なんでしょ!」
「お前それ褒めてんのか怒ってんのか、どんな感情なんだ…。」

悔しがってるのよ!と吠えるユイを尻目に、自分が描いた絵を改めて確認してみる。うん、なかなかいい感じに描けてるんじゃないか?
子供の頃から面倒な妹の面倒な頼まれごとに巻き込まれていたせいで、ある程度のことはそこそこできるようになったと自負している。その中でも絵は周りの大人からもそれなりに好評だった。
少なくとも今日トリを飾る人間よりは上手い自信がある。
というか事実なんだがな。
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