某勇 ~一方その頃、編~

ふくまめ

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赤い衣を纏いし使者④

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「それじゃ、みんな元気でな。」
「お兄さん、お姉さんの言うことを聞いて、いい子にするんだよ?」
「「はーい!」」
「またね来てね!」
「ありがとー!」
「ばいばーい!」

孤児院総出で見送られながら、オレとユイは馬とともに帰路に就く。やれやれ、やっと終わったか。

「いやーあんなに喜んでもらえてよかったわね!」
「よかったじゃねーよ。オレにばっかり働かせやがって…。」

あの計画の場に立ち会ってしまったばっかりに、オレはそこから贈り物の下調べや手配、今日のサンタだかの役で参加させられる羽目になってしまったのだ。ただ配り歩くだけで終わりかと思えば、その後には遊び相手だと振り回されるし。髭を取られそうになるのを阻止するのに随分と体力をそがれてしまった。

「でも、私も贈り物してもらっちゃったしなぁ。」
「…。」

そりに腰かけてユイが眺めているのは、小さく折りたたまれた紙。そこに書かれたものを見てにこにこと笑っている。それを見てオレも懐にそっと手をかける。遊んでいる途中に半ば押し付けられるように渡されたものだが、中には『ありがとう』『だいすき』とたどたどしいカラフルな字で書かれている。子供たちからの感謝の手紙だった。

「こんなのもらっちゃったら、来年も行かなきゃなー。ねぇ?」
「…ふー…。」

これは反対したところで実行に移すだろう。…反対する理由もないが。やれやれと思いながらも空に向かって白い息を吐き出す。さっき終えたばかりだというのに、来年はどんなものを送ればいいか、ごちそうは何を準備しようか、あれこれと口に出して考え始めたようだ。

「小さい子への贈り物は思いつきやすいけど、それなりに大きくなった子への贈り物はちょっと難しいわよね。」
「まぁ、だんだん好みも出てくるだろうしな。」
「何が欲しいか、事前に調べておかないとね…。あ!孤児院の内装も飾りつけなんてしてみたらどうだろう!子供たちみんなで作って、好きなように飾っていくの!」
「あー自分たちも参加するのは、楽しいかもな。」
「そうなれば!私たちの衣装にも気合が入るわよね!」
「…はい?」

こういった催し物は、何回かこなしていくうちに参加者の中から開催する側に興味を持つやつも出てくるもんだ。そういうやつには、何かしらの役割を持たせる形で参加させた方が満足するだろう。…決してルゥの奴を思い出したりはしていない。
すでに今後何度も行うことを自然と想像してしまっていることに自分でもため息が出そうになるが、徐々に熱が入っていくユイに嫌な予感がする。

「贈り物を持ってくる私たちの姿が半端だったら、締まらないじゃない。よりみんなで楽しめるような雰囲気づくりの一環として、必要でしょ!」
「いやー必要か…?オレはいらないと思うけどなぁ。」
「いーえ、必要です!…まぁ正直な話、ギルドのみんなで大規模にできたら最高なんだけど。」
「人数増やすつもりかよ!?」
「あ!そうそう忘れてた。今回断念したんだけど、本来そりを引くのは馬じゃなくてトナカイって生き物なんだって。」
「はぁ、トナカイねぇ…。」
「大きな角が生えていて、鼻先が赤いんだそうだから…。来年は馬用の衣装も用意しないとね!」

勘弁しろ、というように本日の功労馬はぶしゅんと息を吐いた。
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