某勇 ~一方その頃、編~

ふくまめ

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じゃじゃ馬娘の嫁入り⑪

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「えぇ、私とレイは兄妹だけど…。それが何か?」
「え、いえ、その…。」
「何だよ。前に妹に手紙出してるって言っただろ。」
「そ、そうよ、妹って言ってたから…てっきり…。」
「もっと小さい子を想像してた?」
「そりゃ悪かったな。オレたち、双子なんだ。こんなんだが、オレが兄貴でこいつが妹だ。正真正銘な。」

何だよ、ちょっと様子がおかしいと思ったら、オレたちが兄妹って分かんなかったのか。まぁ確かにあまり似ているとは思えないが、いくら双子だろうが男女じゃこんなもんだろ。…だからって様子が変だった理由にならないか。

「ごめんなさいね、先に説明しておけば…。紛らわしかったわね。改めまして、レイの双子の妹のルーナです。」
「え、エナです…!ルーナさん謝らないでください、元々アタシが勝手に…。」
「そうだぜ、こいつが勝手に勘違いしてただけだろ。こっちがどうかしたわけじゃなし、謝る必要なんかねぇ…イテッ!」
「何よ、自分でも分かってるわよ!悪かったわね!」
「レイ!何てこと言うのよ、エナさんに失礼でしょ!」

おいおいこっちは手どころか足出されてるっていうのに、オレが謝んなきゃなんないってのかよ。女ってのはおっかないぜ、まったく…。

「責任取って、この後しっかり村の中を案内しなさいよね。」
「え?」
「あぁ?何だよ、話聞いてたのかよ。」
「会合が終わるまで、どっちにしろ暇なんでしょ?」

確かにそうだし、ルゥに言われなくてもそのつもりだったが…。まぁそれでエナの気が済むってんなら。

「しょうがねぇな、犬に噛まれたとでも思って付き合ってやるよ。」
「誰が犬ですってぇ!?」
「イッテ!」
「…犬に噛まれたというより、馬に蹴られたと思った方がいいんじゃない?」
「…お前それ、面白いと思って言ってんのか…?」
「別に?じゃ、私はお父さんから用事言付かってるから行くわ。」

ちょっとふざけただけですぐに足が飛んできやがる。この調子じゃ、村を回りきる前にオレの体がもつかどうか怪しいぜ。焚きつけたルゥは、言うだけ言ってお使いがあるからとさっさとどこかへ行ってしまった。薄情な奴め。

「…オレたちも行くか。」
「…そうね。」

大して見て回るものなんてないとは思うが、普段賑やかな街で過ごしているエナにとっちゃ逆に新鮮かもな。とりあえず、適当にぶらぶら歩き回ってみるか。特に当てもなく歩きだしてみたが、さっきの様子から一変して大人しくついてきた。

「…ここが診療所だな。オレ、ウィル、アレックスの3人でこの村を出たんだが、そのアレックスっていうやつがここの次男坊なんだ。…会ったことあったか?」
「ううん、ここの話をしたことがあるのはウィルさんとあなただけ。」
「そうか。街に戻ったら紹介してやるよ、オレたちの中で一番体がでかいくせに一番ビビりだからな。」
「どんな紹介の仕方よ…。」
「まぁ正直一番いいやつだよ。旅をしている最中も、あいつの手当ての技術や知識によく助けられたもんだ。」
「そう…。アタシ、街から出たことなんてほとんどないから、たった3人で旅をすることがどれだけ大変なことか、想像もできない。」
「ま、それはいいことだろ。平和に過ごしているって証拠だ。」
「…。」

可愛い子には苦労をさせるべきだ、なんて言うやつもいるが、この子の親に限っちゃそんな考えは微塵も思ったりしねぇんだろうな。苦労なんかからは全力で、何が何でも遠ざけさせるに違いない。オレも苦労なんかしなけりゃしないに越したことはねぇと思うがな。エナはなんだか不満顔だ。

「…アタシ、周りにかなり可愛がられているって自覚あるの。自慢とかじゃなくって、なんていうかこう、物事に挑戦する機会がないっていうか…。苦労や失敗はないけれど、何かを成功させたっていうこともない気がするの。」
「…なるほど。」
「だから!今回初めてアタシの提案したものが通って、とっても嬉しかった。…ありがと、助けてくれて。」
「なんだよ、改まって。…まぁオレたちにとっても1つの区切りになったしな、お互いいい機会だったってことだろ。ありがとな。」
「…うん。」

適当に見て回るっていっても、こう広くもない村じゃすぐに1周できてしまう。最後のアレックスの実家である診療所にもたどり着いてしまった。ケガか何かあった時に来れるように、ここはちゃんと覚えておいてもらった方がいいからな。…まぁ村の人間に聞けばすぐに来れるだろうがな。念のためだ。…後でアレックスの親父さんたちにも顔出しとかないとな。

「さて、こんなもんだろうな。そろそろオレの家まで戻るぞ。」
「うん。」

その日の夜、この村に新規事業として外からの手が加わることに関する会合が開かれた。その結果は翌日伝えられるとのことで、オレは早々に休むことにした。久しぶりに入った自分の部屋は、きれいにされていたが物の配置は全く変わっていなくて、柄にもなく泣きそうになってしまった。
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