某勇 ~一方その頃、編~

ふくまめ

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じゃじゃ馬娘の嫁入り⑩

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「そうですか、そうですか!そんな悲しいことが、この村で起きていたなんて…!」
「えぇ…。あの時の皆の悲しみ様と言ったら…。今思い出しても涙が出そうです。」
「そうでしょうとも…!」
「…なんだ、あの2人。」

無事に村に到着し、さっそく村長の家、つまりはオレの家に向かうことになった。挨拶も兼ねているので、心なしか引き締まった顔で向かったガーディさんだったが、新規事業に関する話もそこそこに、この村であった出来事に話が移ると、いい歳した大人が涙を浮かべながら当時を振り返っている。ある意味オレも当事者になるだろうから複雑な気分だが、今回はそういう話をしに来たわけじゃねぇから。しっかりしてくれ。

「ちょっとお父さん。ガーディさんは世間話をしに来たわけじゃないでしょ。…父が申し訳ありません、新しく始める事業のために、この村を視察しに来たと伺っていましたが。」
「あ、あぁそうだ。それでは、本題の方に…。」

しびれを切らしてルゥの奴が間に入って話を仕切り始めた。手紙で聞いてはいたが、親父について回って、この村を取り仕切っていく手伝いをしているってのは、本当だったんだな。見ている限り、そつなくこなしていて少しホッとする。

「…ねぇ、あの人誰?」
「え?あの人って、ルゥのことか?」
「…随分親しそうに呼ぶのね。手紙のやり取りもしていたんだって?」
「そうだな…ってそれがなんだよ。」
「別に…。」
「レイ。」
「んぁ?」
「黙ってないで話に加わってよ。あんたがこの村を勧めてくれたんでしょ?…ウィルさんは、どう言ってたの?」
「ウィルの奴は全面的に賛成している。ガーディさんとも顔合わせ済みだ。…これ、ウィルから。」

ルゥに話を振られ、ウィルから預かってきていた手紙を出す。親父はそれを丁寧に開けて静かに目を通している。さすがに中身を読んじゃいないが、本人に大体の内容を事前に聞いていた。本来であれば直接出向くべきところを手紙で済ませてしまうことの謝罪、住んでいた家や土地を整備し続けてくれたことへの感謝、そしてその土地を自由に使わせてやってほしいとのお願い、だそうだ。読み終えたらしい親父が、丁寧に手紙を封筒に戻して眦を拭っている。

「…ウィルは、元気でやっているか。」
「あぁ…。」
「そうか…それなら、いいんだ。…ガーディさん、土地の持ち主であるウィルが了承していることは分かりました。しかし、私たちも人間。村の皆の意見も聞かなければ。」
「そうでしょうな、当然です。我々としても、強引に着手するつもりは毛頭ありません。土地を見させていただくのも、村の皆さまの意見が固まり次第行いたいと思います。」
「心遣い感謝いたします。急ぎ皆に知らせてきますので、少々お待ちいただけますか。今日にでも会合を行って判断しますので。」
「もちろんです。」
「この村には小さいものですので、宿なんかはないのです。滞在中は我が家に止まっていただければ。」
「何から何まで…申し訳ありません。」
「いえいえ。ではこれからの動きについてなのですが…。」

どうやらこれからの具体的な動きについて話し合うようだ。ここから先は、オレの出る幕じゃないだろう。ここらでお役御免ってわけだ。さて、これからどうしようか。

「…ねぇ。」
「ん?どうかしたか?」
「この後…何か用事ある?アタシ、この村を見て回りたいんだけど。」
「見て回りたい?この村にゃ、子供が見て楽しいもんなんてないけどなぁ。」
「子ども扱いしないで!用事があるの、ないの?どっちなの!」
「特にねぇけどよ…。まぁいいか、どうせオレも暇だし、村の中一緒に見て回るか。…オレも、久しぶりに帰ってきたわけだしな。」

ぼんやりとしていると、同じように暇を持て余している様子のエナが話しかけてきた。要するに、暇つぶしに村を見て回りたいってことなんだろうが、こんな田舎の村に面白いもんなんてありはしねぇが…。ここにいても何もすることはねぇし、付き合ってやろうかと腰を上げる。そこに話しかけてくる人間がもう1人。

「レイ、ちょっといい?」
「ん?何だ、ルゥか。」
「何だじゃないでしょ!久しぶりに会ったっていうのに、挨拶もなしなわけ?」
「久しぶりって…手紙でやり取りしてただろ。」
「それはそれ、これはこれでしょ!」
「そうかぁ…?」
「そうよ!…って失礼しました、こちらは手紙で聞いていたエナさんね。初めまして。」
「あ、は、初めまして…。」
「こんなに若いのに、しっかりしてるわね!手紙で聞いたけど、今回の新規事業もあなたの提案なんですって?すごいわね!」
「いえ…そんな。皆さんに助けていただけなかったら、この話は実現しませんでしたし…。」
「謙虚ねぇー。あんたも見習って、もう少し振る舞いを考えたらどうなの、レイ。」
「うるせー。」
「…お二人は、仲がいいんですね。」
「え?」
「うーん、まぁ生まれてからの付き合いだからな、嫌でも多少やり取りはこなれてくるってもんだろ。」
「嫌でもってなによー!兄妹に向かってぇ!」
「そう思うなら、お前の方こそ振る舞いを考えろってんだよ。主に子供の頃にな!」
「あれはその、子供の頃なんだからいいでしょ!」
「え、ちょっと待って、キョウダイ?」

あまりにオレがいじられるもんだから、つい子供の頃ルゥの奴に振り回されっぱなしだったことを思い出しちまった。その頃を思えば、今は一端に親父の手伝いして村を取りまとめる勉強してるってんだから、随分と成長したもんだ。手紙で聞いていたとはいえ、この目で見て安心したぜ。そのやり取りを見ていたエナは、なぜだか驚いた表情をしている。この程度の喧騒なんて、街の方じゃ日常茶飯事だろうにどうしたってんだ。
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