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じゃじゃ馬娘の嫁入り⑧
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「そっ…そんな理由がっ…!なんて…なんて辛い現実…!それでいて、温かい村の人たちの思いやりなんだっ!」
「…えーと…。」
「…気にしないでください。お父さん、こう見えて涙もろいんです。」
オレたちの故郷で起きたこと、オレたちの旅、…ウィルの思い。そんなことを話す間、エナの父さんーガーディさんーは黙って聞いていてくれたのだが…。話し終わったとたん、大号泣で幼い時に親と死に別れるなんて辛すぎる、子供ながら1人で生きていこうとする覚悟の強さ、静かに見守る村の人の温かさよ…!と止まらない。
「うぅ…すまねぇ…。お前さんの話を聞いてたら、ついな…。俺も人の親。子供と生き別れるなんて、想像するだけで寒気がする。…さぞ無念だっただろうな、そのご両親は…。」
「…。」
「お父さん…。」
「レイさんよ、その元の持ち主と会わせててくれないか?この話を聞いちまった以上、挨拶の1つでもしとかにゃ気が済まねぇ。」
「それは大丈夫だと思うが…。本人には話をしておくから、ギルドの方に顔を出してもらえれば。大概そこで仕事してるだろうし。」
「ありがとよ。今度顔出させてもらうぜ。」
「…ってことは、お父さん…!」
「こんな世の中だ。この中で精一杯生きてきた人たちが繋いできたもんを使わないかって言ってくれてんだ、これにこたえるのが人情ってもんだ!」
「…えっと…。」
「気にしないでください。お父さん、こう見えて苦労してきた人や困っている人を放っておけないんです。」
「はぁ…。」
「こんな時代で生きていくにゃ、人と人とが手を取り合っていかなきゃな!なぁレイさんよ!」
「そ、そう、だな…。」
その考え自体は賛同したいのだが、いかんせん初対面時の娘大好き頑固じじいの印象からの方向転換がきつすぎてな…。ちょっと頭の中が整理できない。…まぁ意外と人情を大事にしてくれている人ってことで、いいんだろうか。そんな人間だから、商人街で世話になっているおっちゃんも娘であるエナにも良くしてくれているんだろうな。」
「とにかく、正式な契約はその持ち主の人に挨拶してからだな。」
とにかくその日は説明を終え、そのままオレはギルドへ報告に戻った。想像していたものとは違うが、まぁなかなかの好感触だったのではないだろうか。そして、ガーディさんがウィルに会いたがっていることを話した。
「そうなんだ…。俺の方は構わないよ、できるだけギルドに待機しておくようにする。」
「確かに、何回かお酒の席では泣き上戸だって聞いてはいたけど…。普段でも涙もろいのね。」
「話し終わったらおいおい泣き出すもんだから、調子狂っちまったぜ。…いい人だとは思うけどな。」
後日、ガーディさんはエナを引き連れてギルドを訪れたようだ。ようだ、ってのは、オレはちょうど外に出てたもんだから立ち会えなかったんだ。だが戻ってきたとたん、例の客人が来たんだなってことはすぐに分かった。なんでかっていうとだな…。
「たっだいまー!って何よこれ!?」
「あ、ユイさん。お帰りなさい。」
「お帰りなさい、じゃないわよ!どうしたのこれ…。」
「どうしたもこうしたも、こないだのガーディさんがあいさつに来たんだよ。みりゃ分かるだろ?」
「だからって…。」
入口の扉を開けたらいたるところに馬に関係する品々、テーブルの上には菓子の山。極めつけにウィルの腕いっぱいに花束ときた。…ウィルの話を聞いてた時もなかなか反応でかいなと思ったが、本人を目の前にしたらこんなになっちまうのか、あの親父さんは。前々から知っているユイも、さすがに開いた口が塞がらないようだ。
「たくさん話をされていったよ。…レイの言うように、おいおい泣いてた。」
「やっぱりか。」
「それにしたって、これはやりすぎじゃない…?」
「幸運のお守りだって馬蹄もくれたよ。馬の貸し出し事業を始めたら、その馬蹄を見せてくれたら一番いい馬を貸してくれるって。」
「大判振る舞いだな。ん?ってことは…。」
「うん。貸し出し事業、やってみてくれるって。視察にも早速行くって、そういう話だったよ。」
「…ここまでとんとん拍子だと、なんだか不安になるわね…。」
「まぁなんにせよ、ここから先は素人にはどうにもできんだろ。専門家がどう判断するかだ。」
「…そうね。あたしたちにできることは、やったわよね。」
オレたちにできることはここまでだろう。
「あ、そうだ。レイ、村の案内を君にお願いしたいって、ガーディさん言ってたよ。」
「はい!?」
「あらら…。よかったじゃない、気に入られたみたいで。」
いいわけあるか!
「…えーと…。」
「…気にしないでください。お父さん、こう見えて涙もろいんです。」
オレたちの故郷で起きたこと、オレたちの旅、…ウィルの思い。そんなことを話す間、エナの父さんーガーディさんーは黙って聞いていてくれたのだが…。話し終わったとたん、大号泣で幼い時に親と死に別れるなんて辛すぎる、子供ながら1人で生きていこうとする覚悟の強さ、静かに見守る村の人の温かさよ…!と止まらない。
「うぅ…すまねぇ…。お前さんの話を聞いてたら、ついな…。俺も人の親。子供と生き別れるなんて、想像するだけで寒気がする。…さぞ無念だっただろうな、そのご両親は…。」
「…。」
「お父さん…。」
「レイさんよ、その元の持ち主と会わせててくれないか?この話を聞いちまった以上、挨拶の1つでもしとかにゃ気が済まねぇ。」
「それは大丈夫だと思うが…。本人には話をしておくから、ギルドの方に顔を出してもらえれば。大概そこで仕事してるだろうし。」
「ありがとよ。今度顔出させてもらうぜ。」
「…ってことは、お父さん…!」
「こんな世の中だ。この中で精一杯生きてきた人たちが繋いできたもんを使わないかって言ってくれてんだ、これにこたえるのが人情ってもんだ!」
「…えっと…。」
「気にしないでください。お父さん、こう見えて苦労してきた人や困っている人を放っておけないんです。」
「はぁ…。」
「こんな時代で生きていくにゃ、人と人とが手を取り合っていかなきゃな!なぁレイさんよ!」
「そ、そう、だな…。」
その考え自体は賛同したいのだが、いかんせん初対面時の娘大好き頑固じじいの印象からの方向転換がきつすぎてな…。ちょっと頭の中が整理できない。…まぁ意外と人情を大事にしてくれている人ってことで、いいんだろうか。そんな人間だから、商人街で世話になっているおっちゃんも娘であるエナにも良くしてくれているんだろうな。」
「とにかく、正式な契約はその持ち主の人に挨拶してからだな。」
とにかくその日は説明を終え、そのままオレはギルドへ報告に戻った。想像していたものとは違うが、まぁなかなかの好感触だったのではないだろうか。そして、ガーディさんがウィルに会いたがっていることを話した。
「そうなんだ…。俺の方は構わないよ、できるだけギルドに待機しておくようにする。」
「確かに、何回かお酒の席では泣き上戸だって聞いてはいたけど…。普段でも涙もろいのね。」
「話し終わったらおいおい泣き出すもんだから、調子狂っちまったぜ。…いい人だとは思うけどな。」
後日、ガーディさんはエナを引き連れてギルドを訪れたようだ。ようだ、ってのは、オレはちょうど外に出てたもんだから立ち会えなかったんだ。だが戻ってきたとたん、例の客人が来たんだなってことはすぐに分かった。なんでかっていうとだな…。
「たっだいまー!って何よこれ!?」
「あ、ユイさん。お帰りなさい。」
「お帰りなさい、じゃないわよ!どうしたのこれ…。」
「どうしたもこうしたも、こないだのガーディさんがあいさつに来たんだよ。みりゃ分かるだろ?」
「だからって…。」
入口の扉を開けたらいたるところに馬に関係する品々、テーブルの上には菓子の山。極めつけにウィルの腕いっぱいに花束ときた。…ウィルの話を聞いてた時もなかなか反応でかいなと思ったが、本人を目の前にしたらこんなになっちまうのか、あの親父さんは。前々から知っているユイも、さすがに開いた口が塞がらないようだ。
「たくさん話をされていったよ。…レイの言うように、おいおい泣いてた。」
「やっぱりか。」
「それにしたって、これはやりすぎじゃない…?」
「幸運のお守りだって馬蹄もくれたよ。馬の貸し出し事業を始めたら、その馬蹄を見せてくれたら一番いい馬を貸してくれるって。」
「大判振る舞いだな。ん?ってことは…。」
「うん。貸し出し事業、やってみてくれるって。視察にも早速行くって、そういう話だったよ。」
「…ここまでとんとん拍子だと、なんだか不安になるわね…。」
「まぁなんにせよ、ここから先は素人にはどうにもできんだろ。専門家がどう判断するかだ。」
「…そうね。あたしたちにできることは、やったわよね。」
オレたちにできることはここまでだろう。
「あ、そうだ。レイ、村の案内を君にお願いしたいって、ガーディさん言ってたよ。」
「はい!?」
「あらら…。よかったじゃない、気に入られたみたいで。」
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