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じゃじゃ馬娘の嫁入り⑦
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手紙の返事が来てから数日後、エナの方から親父さんに説明する約束を取り付けることができたと伝言があった。もちろんそれを蹴るわけにもいかず、オレは約束した当日とんでもなく重い足で指定された場所に向かった。
「…ここ、か…?」
指定された場所は、以前聞いていたエナの家ではなく、所有している牧場に来るようにとのことだったが…。想像していたより何倍もでかい敷地じゃねぇか…!
「…あ、来たわ!お父さん、あの人が今日一緒に説明してくれるギルドの人。」
「ん、どれどれ…って!」
「?」
「お、男じゃないかエナ!ギルドの職員だっていうから、てっきりユイちゃんだと思っていたのに…。いつの間にあんなどこの馬の骨とも分からない奴と知り合いになったんだ!なんということだ、うちの可愛いエナが…!」
「もうお父さん!話聞いて!アタシの考えた新規事業の話を聞いて、力になってくれるって言ってくれたの。誤解されるようなこと言わないで!」
「う、うぐ…。」
「…たった今紹介があったが、オレはレイ。ギルド冒険者の人間で、間違ってもそちらのお嬢さんと心配されるような関係じゃない。先に約束していたように、新規事業に関して協力できる部分があるんじゃないかと説明しに伺った。」
「…うむ…。話は聞こう、こっちだ。」
商人街でおっちゃんがぼやいていたのは本当だったんだな…。男が訪ねて来ただけでこんな反応をするとは、エナが真っ先に婿探しをしているなどと依頼してこなくてよかった。…まぁ万が一依頼してきたとしても、顔見知りのユイがいれば話を聞いて取り下げさせただろうが。…もしかして、真っ先にユイに話が回った方が話が早かったんじゃねぇか?オレ、もしかしなくても苦労損なのでは…。
「さて…。さっそくで悪いが話といこう。…うちの娘とどこで出会ったんだ。」
「お父さん!」
「…いや、すまん。ゴホン!新規事業、馬を売買するのではなく貸し出すという話だな。これに関する問題点は指摘したはずだが、エナ?」
「そ、それに関して、こちらのレイさんに…。」
「問題点として挙げられていたのは、馬を用意しておくための新しい土地についてだと伺った。実はオレたちの故郷に、今使っていない土地と少し古いが小さな家がある。そこを候補地として提案させていただいている。」
「ふむ…。しかしそこで牧場なりなんなりすることで、我々に利はあるかな?…口ぶりからするにもとは別の用途で使っていたのだろう。今後大規模に手を入れるとなると、その分の資金だってバカにならんのでね。」
「うっ…。」
「…資金や実際の敷地なんかは、その目で見てもらって見積もってもらう他ないが…。提案したことがまだある。」
「ほう?」
席に案内されるなり、新規事業の話をするよう急かされる。…少々親ばかな面が顔をのぞかせている気がしないでもないが、ここまで来たら無視していいだろう。ともあれ、話の内容自体はシビアなもんだ。この仕事で飯食っていくってことは、相当に慎重にならざるを得ない。…大事な娘や家族がいるならなおさらな。
「新規事業に手を出すにあたって、人材の確保は必須。そのための資金だって考えなきゃならない。そこで、村の人間を雇うようにすれば、手っ取り早くていいんじゃないかと思ってな。」
「…ふん、何かと思えば。結局は故郷に仕事を引っ張ってきたいということか。そう簡単にはいかんぞ、若造。仕事というものは、そう簡単にはいかないもんだ。」
だろうな。
「仕事っていうもんは、互いに利がある話が一番いいもんだと思ってる。…こちら側にもうま味がないとな。」
「…ふむ…。」
「仮に新規事業を開始するとして、初めから大規模に行うのは現実的じゃない。まずは小規模で始めて様子見、これが定番。」
「…。」
「小規模であれば、負債が出ても最小限に収めやすいし手を引くのも簡単。その候補地にどうかって話だ。幸い土地の持ち主は自由に使っていいと言っている。…もう戻る気もないだろうしな。」
「持ち主…その人物と知り合いか?」
「レイさんの友人で、アタシもこの前会ったわ。…何か事情があるようだったけど。」
「ほう、そのあたりの話も聞かせてもらえるか。何か問題のある土地を掴まされるわけにはいかないしな。」
「…心配するような内容じゃないんだが…。少し長い話にはなるが、まぁご希望なら。」
何か勘違いしているらしい2人に、ウィルが戻らないと決めているわけを説明することになった。本人であるウィルがいないところで話すのは少々気が引けるが…致し方ないだろう。オレたちが旅に出ることになった理由、ウィルが故郷と決別する決意をした理由を静かに話し始めた。
「…ここ、か…?」
指定された場所は、以前聞いていたエナの家ではなく、所有している牧場に来るようにとのことだったが…。想像していたより何倍もでかい敷地じゃねぇか…!
「…あ、来たわ!お父さん、あの人が今日一緒に説明してくれるギルドの人。」
「ん、どれどれ…って!」
「?」
「お、男じゃないかエナ!ギルドの職員だっていうから、てっきりユイちゃんだと思っていたのに…。いつの間にあんなどこの馬の骨とも分からない奴と知り合いになったんだ!なんということだ、うちの可愛いエナが…!」
「もうお父さん!話聞いて!アタシの考えた新規事業の話を聞いて、力になってくれるって言ってくれたの。誤解されるようなこと言わないで!」
「う、うぐ…。」
「…たった今紹介があったが、オレはレイ。ギルド冒険者の人間で、間違ってもそちらのお嬢さんと心配されるような関係じゃない。先に約束していたように、新規事業に関して協力できる部分があるんじゃないかと説明しに伺った。」
「…うむ…。話は聞こう、こっちだ。」
商人街でおっちゃんがぼやいていたのは本当だったんだな…。男が訪ねて来ただけでこんな反応をするとは、エナが真っ先に婿探しをしているなどと依頼してこなくてよかった。…まぁ万が一依頼してきたとしても、顔見知りのユイがいれば話を聞いて取り下げさせただろうが。…もしかして、真っ先にユイに話が回った方が話が早かったんじゃねぇか?オレ、もしかしなくても苦労損なのでは…。
「さて…。さっそくで悪いが話といこう。…うちの娘とどこで出会ったんだ。」
「お父さん!」
「…いや、すまん。ゴホン!新規事業、馬を売買するのではなく貸し出すという話だな。これに関する問題点は指摘したはずだが、エナ?」
「そ、それに関して、こちらのレイさんに…。」
「問題点として挙げられていたのは、馬を用意しておくための新しい土地についてだと伺った。実はオレたちの故郷に、今使っていない土地と少し古いが小さな家がある。そこを候補地として提案させていただいている。」
「ふむ…。しかしそこで牧場なりなんなりすることで、我々に利はあるかな?…口ぶりからするにもとは別の用途で使っていたのだろう。今後大規模に手を入れるとなると、その分の資金だってバカにならんのでね。」
「うっ…。」
「…資金や実際の敷地なんかは、その目で見てもらって見積もってもらう他ないが…。提案したことがまだある。」
「ほう?」
席に案内されるなり、新規事業の話をするよう急かされる。…少々親ばかな面が顔をのぞかせている気がしないでもないが、ここまで来たら無視していいだろう。ともあれ、話の内容自体はシビアなもんだ。この仕事で飯食っていくってことは、相当に慎重にならざるを得ない。…大事な娘や家族がいるならなおさらな。
「新規事業に手を出すにあたって、人材の確保は必須。そのための資金だって考えなきゃならない。そこで、村の人間を雇うようにすれば、手っ取り早くていいんじゃないかと思ってな。」
「…ふん、何かと思えば。結局は故郷に仕事を引っ張ってきたいということか。そう簡単にはいかんぞ、若造。仕事というものは、そう簡単にはいかないもんだ。」
だろうな。
「仕事っていうもんは、互いに利がある話が一番いいもんだと思ってる。…こちら側にもうま味がないとな。」
「…ふむ…。」
「仮に新規事業を開始するとして、初めから大規模に行うのは現実的じゃない。まずは小規模で始めて様子見、これが定番。」
「…。」
「小規模であれば、負債が出ても最小限に収めやすいし手を引くのも簡単。その候補地にどうかって話だ。幸い土地の持ち主は自由に使っていいと言っている。…もう戻る気もないだろうしな。」
「持ち主…その人物と知り合いか?」
「レイさんの友人で、アタシもこの前会ったわ。…何か事情があるようだったけど。」
「ほう、そのあたりの話も聞かせてもらえるか。何か問題のある土地を掴まされるわけにはいかないしな。」
「…心配するような内容じゃないんだが…。少し長い話にはなるが、まぁご希望なら。」
何か勘違いしているらしい2人に、ウィルが戻らないと決めているわけを説明することになった。本人であるウィルがいないところで話すのは少々気が引けるが…致し方ないだろう。オレたちが旅に出ることになった理由、ウィルが故郷と決別する決意をした理由を静かに話し始めた。
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