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じゃじゃ馬娘の嫁入り⑥
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おっちゃんと言い合っていると、村から荷駄を運んできたという青年が、話しかけづらそうに報告しに来た。村の様子は相変わらずといったようだが、手紙の返事も預かってきたようだ。
「返事、何だって?」
「うっせぇな、のぞくなよおっちゃん。…詳しくは後で読むよ。嬢ちゃんが来たら、都合いい時にギルドに来るように言っといてくれ。」
「おう、頼まれた。…直接話に行かなくていいのか?」
「…家にまで押し掛けた変質者だって言われ始めたらたまんねぇからな。」
「…そこまでとは思ってねぇよ、悪かったな。」
まぁ手紙には個人的な内容も書いているし、これからゆっくりと読むつもりだ。エナに来てもらうのはそれからでも遅くはない。向こうにとってはどうか知らないが、オレにとっては急ぎの内容じゃねぇしな。オレはそのまま商人街を後にした。
「こ、こんにちは!先日のお話の、返事が、来たって…!ゲホッゴホッ!」
「え、エナちゃん!確かにそうなんだけど、とにかく今はお水お水。」
「あ、ありがとうございます…。」
その日の夕方。ギルドをそろそろ閉めようかと思っていた頃にエナが転がり込んできた。相当急いできたのか、息も絶え絶えだ。
「…落ち着いた?聞いたと思うけど、レイの手紙の返事が来たの。詳しい内容はこれから聞くんだけど。」
「レイ、結局どうだった?…俺の家、どうなってるって?」
「…まぁ想像していた通り、それなりに傷んではいるみたいだが…。その、実は村のみんなが、お前の家の周りを定期的に手入れしてくれていたみたいでな。」
「え…?」
「そのまま放置するのも気が引けたみたいだ。…お前の両親が亡くなった時何もしてやれなかったこと、気にしてる奴らもいるんだとさ。」
「…。」
「…ま、おかげで家も普通に使う分には問題なさそうだとさ。多少掃除は必要だろうがな。土地に関しては、荒れ放題って程ではないが、何に使うかによって整備するのは必須になるだろう、って話だ。」
「…そっか。」
「ウィル…。」
「なんだが、不思議な気持ちだよ。俺、逃げ出して来たも同然だと思ってたのにさ。」
「…村の奴らは、そう思ってなかったんだろうぜ。」
「…あ、あの…。」
「あ、ご、ごめんよ!こっちの話ばかり…。土地を使ってもらう話は大丈夫だよ。家も使えるみたいだから好きにしてくれていい。」
「で、でも、村の皆さんがウィルさんのために…。」
「…いいんだ、俺は戻る気はないから。村のみんなの気持ちはありがたいけど、あそこには思い出がありすぎるから。」
「…ウィル。」
「だからさ、ぜひ使ってほしいよ。みんな整備してくれたのに、このままだと本当に無駄にしてしまうから。」
「…村の奴らは、お前に戻ってきてほしくてやっているわけじゃないだろうしな。ルゥも今まで何も言ってこなかったし…。みんな、気持ちの整理のためにやっているんだろうさ。」
「…でも、村の人たちに前もって話をしておいた方がいいかもしれないわね。静かに整えてきた場所にいきなり上がり込むなんて、反発を招きかねないわ。」
「そこでだ。オレに1つ提案があるんだが。」
「提案…?」
村のみんながウィルの住んでいた家や土地を整備し続けていたことは、予想外だった。…今までルゥと手紙のやり取りをしている中で1度も触れられることはなかったのだ。オレたちに、どうこうしてほしくてやっているわけではないのだろう。ウィルがあの家を出て、オレたちと旅に出たことは自暴自棄になったからではなく、本人の決意があってだ。お互いわだかまりがあるわけではないだろうが、村の側からしたら何か思うところがあるんだろうな。
「エナ、お前ウィルの土地で要は馬を育てたいって話なんだよな?」
「ま、まぁそうだけど。それが何か?」
「その仕事、村の奴らにやらせればいいんじゃないか?」
「えぇ?」
「…村に仕事を作ろうってことね!新規事業開拓には人材の確保も必要になるし、悪くない発想だと思うわ。」
「で、でもその話、アタシにできるか…。」
「何言ってんだ。この話を思いついたのはお前なんだから、自信持て。…心配すんな、オレたちが協力する。」
「…分かった。」
「よし。後の問題は、村とお前の親父さんに話が通るかどうかだな。」
「この話をはじめにした時、納得してもらえなかったんだっけ?」
「はい…。あの時より具体的になっているし、提案できる部分もあるし、大丈夫、だと、思うんですけど…。」
「…心配そうだね。」
「だがここは、考案者に懸け橋になってもらわねぇとな…。」
「…レイ、あんた一緒に行って説明してあげたら?」
「はぁ?何でオレが。」
「考案者が懸け橋になるんでしょ?この新規事業の考案者はエナちゃんでも、ウィルの家や土地の活用、村の人たちを雇用するって提案はあんたのでしょ。」
「う…。」
ここでまさかの墓穴を掘ってしまったようだ。しかもそれに気が付いたのがユイとは…。もはやお決まりというか、嫌な予感しかしない。
「何か反論でもある?無いわね?ハイ決まり!じゃあエナちゃんと一緒にもう一度新規事業に関して説明してくること。いいわね?」
「…。」
「返事は?」
「わぁかったよ!行ってくればいいんだろ、どうなってもしらねぇからな…。」
「え、えっと…。」
「大丈夫だよエナさん。レイはこう見えて面倒見がいいんだ。ちゃんとやってくれるよ。」
「適当なこと言うな、ウィル。…おい、エナ。今度説明に行くから親父さんに約束取り付けとけよ。」
「え、分かった…!」
まったく、本当に面倒なことになった…。適当に話を投げておけばよかったのかもしれないが、それはそれで寝覚めが悪い。…はぁ、本当に気が重いぜ…。
「返事、何だって?」
「うっせぇな、のぞくなよおっちゃん。…詳しくは後で読むよ。嬢ちゃんが来たら、都合いい時にギルドに来るように言っといてくれ。」
「おう、頼まれた。…直接話に行かなくていいのか?」
「…家にまで押し掛けた変質者だって言われ始めたらたまんねぇからな。」
「…そこまでとは思ってねぇよ、悪かったな。」
まぁ手紙には個人的な内容も書いているし、これからゆっくりと読むつもりだ。エナに来てもらうのはそれからでも遅くはない。向こうにとってはどうか知らないが、オレにとっては急ぎの内容じゃねぇしな。オレはそのまま商人街を後にした。
「こ、こんにちは!先日のお話の、返事が、来たって…!ゲホッゴホッ!」
「え、エナちゃん!確かにそうなんだけど、とにかく今はお水お水。」
「あ、ありがとうございます…。」
その日の夕方。ギルドをそろそろ閉めようかと思っていた頃にエナが転がり込んできた。相当急いできたのか、息も絶え絶えだ。
「…落ち着いた?聞いたと思うけど、レイの手紙の返事が来たの。詳しい内容はこれから聞くんだけど。」
「レイ、結局どうだった?…俺の家、どうなってるって?」
「…まぁ想像していた通り、それなりに傷んではいるみたいだが…。その、実は村のみんなが、お前の家の周りを定期的に手入れしてくれていたみたいでな。」
「え…?」
「そのまま放置するのも気が引けたみたいだ。…お前の両親が亡くなった時何もしてやれなかったこと、気にしてる奴らもいるんだとさ。」
「…。」
「…ま、おかげで家も普通に使う分には問題なさそうだとさ。多少掃除は必要だろうがな。土地に関しては、荒れ放題って程ではないが、何に使うかによって整備するのは必須になるだろう、って話だ。」
「…そっか。」
「ウィル…。」
「なんだが、不思議な気持ちだよ。俺、逃げ出して来たも同然だと思ってたのにさ。」
「…村の奴らは、そう思ってなかったんだろうぜ。」
「…あ、あの…。」
「あ、ご、ごめんよ!こっちの話ばかり…。土地を使ってもらう話は大丈夫だよ。家も使えるみたいだから好きにしてくれていい。」
「で、でも、村の皆さんがウィルさんのために…。」
「…いいんだ、俺は戻る気はないから。村のみんなの気持ちはありがたいけど、あそこには思い出がありすぎるから。」
「…ウィル。」
「だからさ、ぜひ使ってほしいよ。みんな整備してくれたのに、このままだと本当に無駄にしてしまうから。」
「…村の奴らは、お前に戻ってきてほしくてやっているわけじゃないだろうしな。ルゥも今まで何も言ってこなかったし…。みんな、気持ちの整理のためにやっているんだろうさ。」
「…でも、村の人たちに前もって話をしておいた方がいいかもしれないわね。静かに整えてきた場所にいきなり上がり込むなんて、反発を招きかねないわ。」
「そこでだ。オレに1つ提案があるんだが。」
「提案…?」
村のみんながウィルの住んでいた家や土地を整備し続けていたことは、予想外だった。…今までルゥと手紙のやり取りをしている中で1度も触れられることはなかったのだ。オレたちに、どうこうしてほしくてやっているわけではないのだろう。ウィルがあの家を出て、オレたちと旅に出たことは自暴自棄になったからではなく、本人の決意があってだ。お互いわだかまりがあるわけではないだろうが、村の側からしたら何か思うところがあるんだろうな。
「エナ、お前ウィルの土地で要は馬を育てたいって話なんだよな?」
「ま、まぁそうだけど。それが何か?」
「その仕事、村の奴らにやらせればいいんじゃないか?」
「えぇ?」
「…村に仕事を作ろうってことね!新規事業開拓には人材の確保も必要になるし、悪くない発想だと思うわ。」
「で、でもその話、アタシにできるか…。」
「何言ってんだ。この話を思いついたのはお前なんだから、自信持て。…心配すんな、オレたちが協力する。」
「…分かった。」
「よし。後の問題は、村とお前の親父さんに話が通るかどうかだな。」
「この話をはじめにした時、納得してもらえなかったんだっけ?」
「はい…。あの時より具体的になっているし、提案できる部分もあるし、大丈夫、だと、思うんですけど…。」
「…心配そうだね。」
「だがここは、考案者に懸け橋になってもらわねぇとな…。」
「…レイ、あんた一緒に行って説明してあげたら?」
「はぁ?何でオレが。」
「考案者が懸け橋になるんでしょ?この新規事業の考案者はエナちゃんでも、ウィルの家や土地の活用、村の人たちを雇用するって提案はあんたのでしょ。」
「う…。」
ここでまさかの墓穴を掘ってしまったようだ。しかもそれに気が付いたのがユイとは…。もはやお決まりというか、嫌な予感しかしない。
「何か反論でもある?無いわね?ハイ決まり!じゃあエナちゃんと一緒にもう一度新規事業に関して説明してくること。いいわね?」
「…。」
「返事は?」
「わぁかったよ!行ってくればいいんだろ、どうなってもしらねぇからな…。」
「え、えっと…。」
「大丈夫だよエナさん。レイはこう見えて面倒見がいいんだ。ちゃんとやってくれるよ。」
「適当なこと言うな、ウィル。…おい、エナ。今度説明に行くから親父さんに約束取り付けとけよ。」
「え、分かった…!」
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