某勇 ~一方その頃、編~

ふくまめ

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あるのっぽの話~兄弟⑥~

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僕たちが約束を交わしてから、5年の月日が経った頃。年に1度の村の祭りが行われていた。1年間村が平和であったことの感謝と、次の1年も豊かなものであるようにと村総出で祝うのだ。5年前は、とてもじゃないが開催することができなかったが、幸い魔獣被害も比較的落ち着きつつあり、今年も祭りを行うことができた。
みんないつもこの祭りを心待ちにしていて、今日のために何日も前から準備をしていたのだ。皆、今日という日をめい一杯楽しんでいる。

「よう、アレックス。楽しんでるか?」
「レイ。うん、楽しいよ。レイは?」
「オレはとにかく疲れたぜ。やっと祭りができたって感じだな。」
「レイはおじさんの手伝い大変そうだったもんね。お疲れ様。」
「まったくだぜ。」

この5年。僕たちは穏やかに過ごしてきたと思う。僕は相変わらず、診療所で働く皆を支えるために雑用や家事をしていたし、レイは嫌々ながらおじさんの仕事に連れまわされているようだった。レイは、自分には向いていないって言っていたけど、僕はなかなか様になっているんじゃないかなって思う。そしてウィルは…。

「ウィルはまだ仕事してんのか?」
「屋台の何軒か、食材を卸してくるって言ってたから…。そろそろ終わるんじゃないかな。」

ウィルは両親の葬儀を終えてから、本当に1人で暮らし始めた。ある程度自分でできるとはいえ、村の人の手助けがありながらだったけど、自分で仕事をして、生活して。本当にすごいと思う。僕も何か手伝えないかと思って、作る野菜なんかを一緒に考えたりもした。レイも販売に関する部分はおじさんから学んだこともあって、ウィルが出荷する時なんかは協力していたみたい。最初はうまくいかない事や失敗もたくさんあったけど、いろんな人の助けがあって何とかやっていくことができた。

「…祭りの時くらい、全部忘れられたらいいのにな。」
「…そうだね。」

僕たちの側を子供たちが走り抜けていく。あの頃の僕たちと、同じくらいの年頃だろうか。15歳になったら働く子がほとんどだから、無邪気に遊びまわれる最後の年は、皆ああして全力で楽しむのだ。僕たちには、訪れることのなかった時間。

「…あ、あれ。ウィルじゃない?」
「ん、そうみたいだな。おーい!」

子供たちが駆けていく先に、屋台の人と話しているウィルの姿が見えた。手を振って呼べば、僕たちに気づいて片手を軽く上げて応える。僕たちに向かって歩いてくる側を、子供たちはすり抜ける。ウィルがその姿を目で追うことはなかった。

「お疲れ。もう上がりか?」
「うん。今の屋台で最後だよ。レイはあいさつ回りとか、いいの?」
「そんなもんはオレがいなくたっていいんだよ。親父もいるしな。」
「アレックスは?手伝いとか…。」
「…僕は、邪魔になっちゃうから。」
「…そっか。」

村が祭りで賑わっていようと、診療所は年中無休だ。小さい頃から、村で催し物があっても父さんは仕事にかかりきりで外で見かけることはなかった。今は、兄さんがその役目を務めている。兄さんは、父さん以上に僕を診療所に近づけようとしない。最近はもっぱら母さんが担当している薬品作りに必要な薬草を乾燥させるくらいしか、家事以外の手伝いはしていない。それでさえ、手伝っているところを兄さんに見られたら睨まれるのだ。

「…それでよ、準備はどうなったんだ。行けるのか?」

僕たちは、この祭りが始まる数日前にウィルからある話をされていたのだ。

『準備は整った。祭りが終わったら、この村を出る。』

ウィルはこの5年、ご両親のことを考えなかった日はなかったと思う。毎日毎日、魔獣と戦うには何が必要か、魔獣を殺すにはどうしたらいいかを考えながら生きてきた。
その決意が、時と共に家の片隅に増えるお手製の不格好な木刀が物語っていた。この木刀は、もともとご両親が育てていた果樹たちだ。ウィル一人では世話をするのは難しいと諦めたのだが、それをウィルは木刀へと加工していた。その木刀たちも、自己流の鍛錬の結果すべて折れてしまっている。

「俺はもちろんできているよ。」
「オレも。あとは家から物を取って来るだけだ。」
「アレックスは?」
「…僕も、荷物はまとめてあるよ。」
「…無理に付き合う必要はないんだよ、アレックス。レイだって…。」
「この期に及んで何言ってんだよ。俺はお前と行くって決めたんだ、自分でな。」
「…僕だって、2人と一緒に行くよ。そう決めたんだ。」
「…ありがとう。」

僕たちは、最後になる祭りを3人で回った。あの頃のように無邪気ではいられなかったけど、村の姿を目に焼き付けておきたかったのだ。
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