26 / 84
ある王子の話~戦うお姫様⑤~
しおりを挟む
「ほー、今はそんな本が流行っているのか。」
「はい!でも、あたしとしてはご都合主義っぽい話の流れが納得いかないっていうか…、
急につまらなくなっちゃって。」
「ハンナちゃんは難しい言葉を知っているんじゃなぁ。
わしがそのくらいの歳の頃は、本を読むなんてことしとらんかったからのぉ。」
「ほとんど本の受け売りです…。でも、周りの子とはあまり話が合わなくって…。」
「全員と話を合わせるなんてこと、大人だってできんさ。好きなことがあるってことは、素晴らしいことじゃ。」
「そうでしょうか…。」
一体いつから井戸端会議になったんでしょうか。これは取材だったはずでは…?
話が進むにつれ、おじいさんとハンナの会話は日常的な雑談となっていった。
ハンナさん気づいてください、先ほどからあなたの手が全く動いていないことに…!
「ジークさんは、何か好きな本はありますか?」
「うーん、そうじゃなぁ…。料理の本、かの。」
「…料理本、ですか?」
「意外じゃろう?」
「いえ、そんな。」
「いいんじゃ。料理自体が好きなわけじゃないし、得意なわけではないからの!」
ガハハと笑うおじいさんに違和感が残る。料理が好きでも得意でもない人間が、料理本なんて手に取るだろうか。
ハンナもそう思ったのか、軽く首をかしげている。
「あの…、その話詳しく聞いてもいいですか?」
「ん?この話か?そうだな…。」
「あ、無理にとは言いませんので!」
「いやぁ、無理というわけではないんじゃが、ちと長くなりそうでの…。簡単にまとめても?」
「もちろんです!」
「ふむ、では要するにこうじゃ…。」
わしが子供の頃、何と言うか、気になっている人がいての。
その人は周りから浮くくらい読書が好きな人でのー。村にあった小さな図書館によく通っていたんじゃ。
その人に何とか近づけないかと、大して好きでもないのに本を読むという名目で図書館にの…。
だが読書のどの字もない生活を送っていたわしからしてみれば、その人の読んでいる本はちんぷんかんぷんで!
結局共通の話題らしい話題も持つことはできなかったが、苦し紛れに選んだ料理の本が琴線に触れたみたいでの。
良い本を選んでいると褒められたんじゃ!恥ずかしい話、あれは嬉しかったのぅ…。
図書館で会う約束をしたりもして、ずっと待ってはいたもののそれじゃあダメだと思い直しての。
次にした約束は、今度はわしが合いに行く、だから待っていてくれと頼んだんじゃ。
…まぁその約束のこと覚えていてくれているかは、分からんがの。
「…そんな所かの。」
「…それは…。」
「いやぁ、こう改めて人様に話すとなると、なかなかに恥ずかしいもんじゃの!
子供の頃の話とはいえ、まだまだ青臭いというか…。」
「いえ!素晴らしい話です!これはとにかく…、素晴らしいです!」
「ハンナさん?著しく語彙力が低下していますよ?大丈夫ですか?」
「これがロマンス…!」
「違うと思うますが。ってもう聞こえていませんね…。」
「今どきの若者の間隔は複雑怪奇じゃのー。前に話した小僧とは反応が大違いじゃ!
こんな話でも楽しんでくれたなら、幸いだがなぁ。」
想像がはかどっているのか、すごい勢いで手帳に書き込んでいるハンナを見て笑っているおじいさん。
当然のことながら、この人にも子供の頃はあったのだなぁと当たり前のことを考える。
自分もいつか、このくらいの歳になるだろう。
その時に何か面白い思い出話でもできる人生を送れたなら、それは本当に幸せなことだ。
そんな、後悔のない時間を過ごしていたい。
「おじいさん!今聞いた話を作品に活かしてもいいですか!?」
「えぇ?これを使うのか?そんなに楽しい話でもないと思うが…。
まぁハンナちゃんがいいなら使ってくれ。でもそのままってのは勘弁してくれ?恥ずかしいからの。」
「もちろん、当事者が把握できないように少しずつ変えながら使わせていただきます!」
「ハンナちゃんは本当に難しい言葉を知っているのぉ。」
「全体のお話の流れって言うか、約束の内容の変化を通して気持ちの変化や成長を感じさせる…。
そんなところがまたいい…!」
「ハンナさん、本人の前で思い出の評価をするのはいかがなものかと。」
「は!すみません。」
「いやいや。若者の役に立てることは、年寄りの喜び。
ハンナちゃん、もしお話ができたらわしにも見せておくれな。」
「は、はい。ぜひ!」
話を夢中で聞いている間に、頭上で輝いていた太陽がすでに地面と接する頃になってしまっていた。
話をしてくれたおじいさんにお礼を言って別れ、私たちは最初に出会った酒場通りに向かって歩いていた。
結局、今日一日このお嬢さんに付き合うことになってしまったな。
面倒だと思わなかったわけではないが、不思議と悪くはない気分だった。
「…今日の取材はどうでしたか、ハンナさん。」
「面白い話が聞けて楽しかったわ!これで何かお話を書ける、といいな…。」
「そこは何とか書き上げてください。おじいさんにも、書けたら見せると約束しましたし。」
「…うん、そうよね。頑張る。」
「…それはそうと、帰りは大丈夫ですか?親御さんが迎えに来ます?」
「ママが近くのご飯屋さんで働いているの。もうすぐお仕事終わる時間だから、一緒に帰るつもり。」
「そうですか。」
これでやっと安心できる。初めは子供一人で酔っ払いがいる通りをうろついていると、ひやひやしていましたから。
母親が来るという時間まであと少し。残り少ないこの時間を、お嬢さんとゆっくり話す時間として使おうと思う。
「はい!でも、あたしとしてはご都合主義っぽい話の流れが納得いかないっていうか…、
急につまらなくなっちゃって。」
「ハンナちゃんは難しい言葉を知っているんじゃなぁ。
わしがそのくらいの歳の頃は、本を読むなんてことしとらんかったからのぉ。」
「ほとんど本の受け売りです…。でも、周りの子とはあまり話が合わなくって…。」
「全員と話を合わせるなんてこと、大人だってできんさ。好きなことがあるってことは、素晴らしいことじゃ。」
「そうでしょうか…。」
一体いつから井戸端会議になったんでしょうか。これは取材だったはずでは…?
話が進むにつれ、おじいさんとハンナの会話は日常的な雑談となっていった。
ハンナさん気づいてください、先ほどからあなたの手が全く動いていないことに…!
「ジークさんは、何か好きな本はありますか?」
「うーん、そうじゃなぁ…。料理の本、かの。」
「…料理本、ですか?」
「意外じゃろう?」
「いえ、そんな。」
「いいんじゃ。料理自体が好きなわけじゃないし、得意なわけではないからの!」
ガハハと笑うおじいさんに違和感が残る。料理が好きでも得意でもない人間が、料理本なんて手に取るだろうか。
ハンナもそう思ったのか、軽く首をかしげている。
「あの…、その話詳しく聞いてもいいですか?」
「ん?この話か?そうだな…。」
「あ、無理にとは言いませんので!」
「いやぁ、無理というわけではないんじゃが、ちと長くなりそうでの…。簡単にまとめても?」
「もちろんです!」
「ふむ、では要するにこうじゃ…。」
わしが子供の頃、何と言うか、気になっている人がいての。
その人は周りから浮くくらい読書が好きな人でのー。村にあった小さな図書館によく通っていたんじゃ。
その人に何とか近づけないかと、大して好きでもないのに本を読むという名目で図書館にの…。
だが読書のどの字もない生活を送っていたわしからしてみれば、その人の読んでいる本はちんぷんかんぷんで!
結局共通の話題らしい話題も持つことはできなかったが、苦し紛れに選んだ料理の本が琴線に触れたみたいでの。
良い本を選んでいると褒められたんじゃ!恥ずかしい話、あれは嬉しかったのぅ…。
図書館で会う約束をしたりもして、ずっと待ってはいたもののそれじゃあダメだと思い直しての。
次にした約束は、今度はわしが合いに行く、だから待っていてくれと頼んだんじゃ。
…まぁその約束のこと覚えていてくれているかは、分からんがの。
「…そんな所かの。」
「…それは…。」
「いやぁ、こう改めて人様に話すとなると、なかなかに恥ずかしいもんじゃの!
子供の頃の話とはいえ、まだまだ青臭いというか…。」
「いえ!素晴らしい話です!これはとにかく…、素晴らしいです!」
「ハンナさん?著しく語彙力が低下していますよ?大丈夫ですか?」
「これがロマンス…!」
「違うと思うますが。ってもう聞こえていませんね…。」
「今どきの若者の間隔は複雑怪奇じゃのー。前に話した小僧とは反応が大違いじゃ!
こんな話でも楽しんでくれたなら、幸いだがなぁ。」
想像がはかどっているのか、すごい勢いで手帳に書き込んでいるハンナを見て笑っているおじいさん。
当然のことながら、この人にも子供の頃はあったのだなぁと当たり前のことを考える。
自分もいつか、このくらいの歳になるだろう。
その時に何か面白い思い出話でもできる人生を送れたなら、それは本当に幸せなことだ。
そんな、後悔のない時間を過ごしていたい。
「おじいさん!今聞いた話を作品に活かしてもいいですか!?」
「えぇ?これを使うのか?そんなに楽しい話でもないと思うが…。
まぁハンナちゃんがいいなら使ってくれ。でもそのままってのは勘弁してくれ?恥ずかしいからの。」
「もちろん、当事者が把握できないように少しずつ変えながら使わせていただきます!」
「ハンナちゃんは本当に難しい言葉を知っているのぉ。」
「全体のお話の流れって言うか、約束の内容の変化を通して気持ちの変化や成長を感じさせる…。
そんなところがまたいい…!」
「ハンナさん、本人の前で思い出の評価をするのはいかがなものかと。」
「は!すみません。」
「いやいや。若者の役に立てることは、年寄りの喜び。
ハンナちゃん、もしお話ができたらわしにも見せておくれな。」
「は、はい。ぜひ!」
話を夢中で聞いている間に、頭上で輝いていた太陽がすでに地面と接する頃になってしまっていた。
話をしてくれたおじいさんにお礼を言って別れ、私たちは最初に出会った酒場通りに向かって歩いていた。
結局、今日一日このお嬢さんに付き合うことになってしまったな。
面倒だと思わなかったわけではないが、不思議と悪くはない気分だった。
「…今日の取材はどうでしたか、ハンナさん。」
「面白い話が聞けて楽しかったわ!これで何かお話を書ける、といいな…。」
「そこは何とか書き上げてください。おじいさんにも、書けたら見せると約束しましたし。」
「…うん、そうよね。頑張る。」
「…それはそうと、帰りは大丈夫ですか?親御さんが迎えに来ます?」
「ママが近くのご飯屋さんで働いているの。もうすぐお仕事終わる時間だから、一緒に帰るつもり。」
「そうですか。」
これでやっと安心できる。初めは子供一人で酔っ払いがいる通りをうろついていると、ひやひやしていましたから。
母親が来るという時間まであと少し。残り少ないこの時間を、お嬢さんとゆっくり話す時間として使おうと思う。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる