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ある冒険者の話~相棒➁~
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数日後、俺は再び狩りへと向かっていた。
普段であれば、生活に困らないだけの獲物がとれていたらしばらく狩りにはいかずに休むんだが…。
今回は特別だ。
「ザギル、珍しいねぇ!この間狩りから戻って来たばかりじゃなかったかい?」
「あぁ、ほら…。ジェズのとこ、もう少しで生まれるってんだろ?その前にな。」
「…祝いの品ってことかい!いいねぇ~、青春だねぇ!」
「おいおい、俺たちもう青春なんて年じゃねぇぜ…。」
「年齢なんて関係ないよ!相棒のために獲物を取ってくる。優しいねぇ。」
支度をして村を出ようとすると、厄介な人に出くわしちまった。
俺たちのことを昔から知っているお姉さまで、この人はいつまでたっても俺たちを子ども扱いしてくる。
間違えても『おばさん』と呼んではいけない。
「あー俺もう行かないと。頼むから、ジェズの奴には教えないでくれよ?」
「心得てるよ!気をつけて行っといで!」
正直、お姉さま方の井戸端会議で話題になることは避けられないので、
せめてジェズに知られなければいいかとその部分関しては釘をさして村を出る。
彼女たちの会議で取り扱っている内容には、この村の情報が全て詰まっていると言っても過言ではない。
…やっぱりジェズに知られるのも時間の問題のような気がするので、
早く狩りを済ませようと自然と足の進みが早くなった。
―――
「…ったく、てこずらせやがって…。」
結局、狩りが思った以上に長引いてしまった。
勘違いしないでいただきたいのだが、決して獲物が取れなかったわけではない。
そこそこの獲物をしとめるまでは順調だったのだが、
ジェズに渡すようないいやつかっていうとそうでもないかなと…。
もう少し、もう少しと粘っている間にこんなことに…って誰に言い訳しとるんだ俺は。
ともかく、何とか納得のいく獲物が仕留められたんだ。こいつを持って帰れば、問題ないだろ。
仕留めた獲物を手早く荷物に括り付けて、村への帰りを急ぐ。
できるだけ早く帰らねぇと、俺の目論見がジェズの耳に入っちまうからな。
「…何だ?騒がしいな…。」
村に帰って来ると、少なくとも含み笑いを携えたお姉さま方に迎えられると思っていたのだが、
出迎えは一人もおらず、あちこちで大人達が子供を家に帰すよう促す声や、
男たちが慌ただしく人を集めるように叫んでいる声が聞こえる。
何があったってんだ?
「あぁ、ザギル!あんた無事だったんだね!」
「いったい何だよ、この騒ぎは。俺の帰りをみんなで祝ってくれてるって雰囲気じゃないな。」
「ふざけてる場合なんかじゃないよ!…ジェズが…!」
「…あいつが何だって?」
事情を聞いた俺は、苦労して仕留めた獲物も荷物も投げ出して走り出した。
走っていく先々で、皆が急げ急げと道を開けてくれる。
向かう先は、この村唯一の診療所だ。
自分も何度も世話になっている。近道だって知っている。それでも、そこまでの道のりが遠く思えて仕方がない。
そこらの建物を壊してでも直行できたらいいのに。
「ジェズ!!」
「静かにせんか!」
「うるせぇ!じじい!どこだ!!ジェズは!?」
診療所のドアを蹴破って中に入ると、そこはたくさんの人が詰めかけていた。
この診療所の主、医者のじいさんを探すが、周りの奴らに羽交い絞めにされる。
そいつらを引きずってでもじじいのところまで行こうとすると、向こうの方から出向いてきやがった。
「じじい!ジェズはどうなった!?ここに来てんだろ!」
「…。」
「おい!」
「聞こえとるわい。…みな、騒がせたな。もう…、大丈夫じゃ。」
「…。」
「ザギル、お前はわしと来い。」
「…何だよじじい。もったいぶるな。」
「…こっちじゃ。」
普段は俺の暴言にすかさず言い返してくる爺だが、今日は何だか大人しい。
あまりの雰囲気の差に高ぶっていた気が静まっていく。集まっていた奴らも、静かに帰路についている。
何だ。嫌な予感がする…。いや、考えるな!考えたところで何も分かんねぇだろ!
頭を振って気持ちを切り替える。じいさんの後について診療所の奥へと進んでいく。
じいさんの足取りは、驚くほどゆっくりだった。
「ここじゃ。」
「ここって…。」
じいさんのたどりついた先は、ここによく来ている俺でも立ち寄ったことのない部屋だった。
しかし何をする部屋なのかは知っている。
ここは…。
「じじい…。遺体安置室って、なんの冗談だ…!
俺は!ジェズが大けがしたって聞いて来たんだぞ!それで案内した先がここかよっ…!」
「…入れ。落ち着いてな。」
そう、俺は帰って来て早々にジェズが大けがして帰ってきたことを聞かされたのだ。
診療所に担ぎ込まれたものの、かなり危険な状態だったと。
じじいは何も答えないまま、安置室の中に入っていった。
俺は事情がよく分からないまま、安置室のドアをくぐった。
「…っ。」
安置室に入った瞬間に感じたのは、生々しい血の匂い。
俺が狩りをしている際にも感じる、生き物の匂い。命が、流れ出ている匂い。
死の匂い。
一段と匂いが強いそこには、袋に入ったナニカが横たわっていた。
いや、ナニカじゃない。そうだ。俺はそれを確かめなければならない。
しかし、体がそれを拒むように動かない。頭が現実を理解することを拒否している。
目を背けてしまいたい。出口に向かって走り出したい。布団をかぶっていつもの明日が来ることを願って眠りたい。
…しかしじじいがそれを許さない。静かに、俺を見ている。
俺は、震える足で横たわっているナニカに近づき、袋を縛っている紐に手を伸ばした。
普段であれば、生活に困らないだけの獲物がとれていたらしばらく狩りにはいかずに休むんだが…。
今回は特別だ。
「ザギル、珍しいねぇ!この間狩りから戻って来たばかりじゃなかったかい?」
「あぁ、ほら…。ジェズのとこ、もう少しで生まれるってんだろ?その前にな。」
「…祝いの品ってことかい!いいねぇ~、青春だねぇ!」
「おいおい、俺たちもう青春なんて年じゃねぇぜ…。」
「年齢なんて関係ないよ!相棒のために獲物を取ってくる。優しいねぇ。」
支度をして村を出ようとすると、厄介な人に出くわしちまった。
俺たちのことを昔から知っているお姉さまで、この人はいつまでたっても俺たちを子ども扱いしてくる。
間違えても『おばさん』と呼んではいけない。
「あー俺もう行かないと。頼むから、ジェズの奴には教えないでくれよ?」
「心得てるよ!気をつけて行っといで!」
正直、お姉さま方の井戸端会議で話題になることは避けられないので、
せめてジェズに知られなければいいかとその部分関しては釘をさして村を出る。
彼女たちの会議で取り扱っている内容には、この村の情報が全て詰まっていると言っても過言ではない。
…やっぱりジェズに知られるのも時間の問題のような気がするので、
早く狩りを済ませようと自然と足の進みが早くなった。
―――
「…ったく、てこずらせやがって…。」
結局、狩りが思った以上に長引いてしまった。
勘違いしないでいただきたいのだが、決して獲物が取れなかったわけではない。
そこそこの獲物をしとめるまでは順調だったのだが、
ジェズに渡すようないいやつかっていうとそうでもないかなと…。
もう少し、もう少しと粘っている間にこんなことに…って誰に言い訳しとるんだ俺は。
ともかく、何とか納得のいく獲物が仕留められたんだ。こいつを持って帰れば、問題ないだろ。
仕留めた獲物を手早く荷物に括り付けて、村への帰りを急ぐ。
できるだけ早く帰らねぇと、俺の目論見がジェズの耳に入っちまうからな。
「…何だ?騒がしいな…。」
村に帰って来ると、少なくとも含み笑いを携えたお姉さま方に迎えられると思っていたのだが、
出迎えは一人もおらず、あちこちで大人達が子供を家に帰すよう促す声や、
男たちが慌ただしく人を集めるように叫んでいる声が聞こえる。
何があったってんだ?
「あぁ、ザギル!あんた無事だったんだね!」
「いったい何だよ、この騒ぎは。俺の帰りをみんなで祝ってくれてるって雰囲気じゃないな。」
「ふざけてる場合なんかじゃないよ!…ジェズが…!」
「…あいつが何だって?」
事情を聞いた俺は、苦労して仕留めた獲物も荷物も投げ出して走り出した。
走っていく先々で、皆が急げ急げと道を開けてくれる。
向かう先は、この村唯一の診療所だ。
自分も何度も世話になっている。近道だって知っている。それでも、そこまでの道のりが遠く思えて仕方がない。
そこらの建物を壊してでも直行できたらいいのに。
「ジェズ!!」
「静かにせんか!」
「うるせぇ!じじい!どこだ!!ジェズは!?」
診療所のドアを蹴破って中に入ると、そこはたくさんの人が詰めかけていた。
この診療所の主、医者のじいさんを探すが、周りの奴らに羽交い絞めにされる。
そいつらを引きずってでもじじいのところまで行こうとすると、向こうの方から出向いてきやがった。
「じじい!ジェズはどうなった!?ここに来てんだろ!」
「…。」
「おい!」
「聞こえとるわい。…みな、騒がせたな。もう…、大丈夫じゃ。」
「…。」
「ザギル、お前はわしと来い。」
「…何だよじじい。もったいぶるな。」
「…こっちじゃ。」
普段は俺の暴言にすかさず言い返してくる爺だが、今日は何だか大人しい。
あまりの雰囲気の差に高ぶっていた気が静まっていく。集まっていた奴らも、静かに帰路についている。
何だ。嫌な予感がする…。いや、考えるな!考えたところで何も分かんねぇだろ!
頭を振って気持ちを切り替える。じいさんの後について診療所の奥へと進んでいく。
じいさんの足取りは、驚くほどゆっくりだった。
「ここじゃ。」
「ここって…。」
じいさんのたどりついた先は、ここによく来ている俺でも立ち寄ったことのない部屋だった。
しかし何をする部屋なのかは知っている。
ここは…。
「じじい…。遺体安置室って、なんの冗談だ…!
俺は!ジェズが大けがしたって聞いて来たんだぞ!それで案内した先がここかよっ…!」
「…入れ。落ち着いてな。」
そう、俺は帰って来て早々にジェズが大けがして帰ってきたことを聞かされたのだ。
診療所に担ぎ込まれたものの、かなり危険な状態だったと。
じじいは何も答えないまま、安置室の中に入っていった。
俺は事情がよく分からないまま、安置室のドアをくぐった。
「…っ。」
安置室に入った瞬間に感じたのは、生々しい血の匂い。
俺が狩りをしている際にも感じる、生き物の匂い。命が、流れ出ている匂い。
死の匂い。
一段と匂いが強いそこには、袋に入ったナニカが横たわっていた。
いや、ナニカじゃない。そうだ。俺はそれを確かめなければならない。
しかし、体がそれを拒むように動かない。頭が現実を理解することを拒否している。
目を背けてしまいたい。出口に向かって走り出したい。布団をかぶっていつもの明日が来ることを願って眠りたい。
…しかしじじいがそれを許さない。静かに、俺を見ている。
俺は、震える足で横たわっているナニカに近づき、袋を縛っている紐に手を伸ばした。
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