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ある冒険者の話~相棒➀~
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20年前からすっかりなじみとなった店のドアを開ける。
店の人間はすっかり俺の顔を覚え、接客というよりも友人と雑談するような雰囲気で俺に歩み寄って来た。
「邪魔するぜ、店長。」
「久しぶりですね、ザギルさん。今回はどちらまで行ってたんです?」
「ちょっと野暮用でな。」
既に俺はこの王都に居を構えていたが、この数か月、その住まいを離れていたのだ。
野暮用とは言ったが、この用を済ませる覚悟ができるのに、ずいぶんと長い時間がかかったもんだ。
「店長。今日来たのは、その野暮用を済ませたことで、入用になったもんがあってな…。」
「そうですか。このすずらんにできることなら、協力いたしますよ!」
ガハハと豪快に笑い、事情を深く聞かない店長に感謝しながら店の奥へと案内されていく。
―――
「おい、ザギル!またお前は無茶したんだろ。何だよこのボロボロの装備品…。」
「うるせぇなぁ…。お前は俺のお袋か?いいんだよ、装備品は俺を守って壊れていくもんだろ。」
「そうかもしれないがなぁ…。」
俺はこの村で生活する猟師だ。野生動物を相手にしている以上、怪我をすることだってある。
命を守るためには、しっかりと装備を着込んで挑むわけだが、
幼馴染のこいつに言わせりゃ、何とも危なっかしい格好で戻ってきているんだそうだ。
それで帰ってくるたびにお小言が始まるってわけだ。
「いくら独り立ちした猟師って言ったって、人間であることには変わりないんだからな!
いつか怪我どころじゃすまなくなるかもしれないぞ。今だって体中傷まみれで帰って来るっていうのに…。」
「嫁入り前のお嬢様じゃあるまいし、野郎の体が傷だらけでも問題ねーよ。ったく…。」
「…今度、俺の店の来いよ。新しく作った装備があるんだ。」
「お、そうか!荷物置いたらすぐ行く。」
俺は猟師でこいつは鍛冶屋。昔はこいつも猟師としてやっていたんだが、何を思ったのか転職するって言いだした。
田舎の村とはいえ自分の店を持って、立派になったもんだ。
一緒に猟をしていくもんだと思っていたからそれなりに驚いたが、今となってはありがたいもんだぜ。
何せ、こいつが考えた新しい装備をいち早く試させてもらえるんだからな。
「おーい、ジェズ。来たぜー。今度はどんなもん作ったってんだ?」
「あぁ、ザギル。ちょっと工房の方に回ってくれるか。」
ジェズの店に行くと、店頭に奴の姿は見えなかった。
声をかけると奥にある工房の方から呼ぶ声がするので、大人しくその声に従う。
まだ熱を感じる窯がある工房で、ヴェイルは何かを磨いているようだった。
「それが新しい装備ってやつか?」
「いや、これはまた別。お前に渡すもんはこっちだ。」
そう言って、ゴソゴソとジェズが取り出したのはグローブだった。
ぱっと見はどこにでもあるようなもんに見えるが…。どこが新しいってんだ?
「…それのどこがいいんだ?」
「まったく!ザギルは装備の良さってもんが分かってないなぁ!
いいか?今から説明するから、よく聞いとけよ?」
そうして、俺の時間は順調に奪われていき、
頭上にあったはずの太陽は山の向こうに姿を消してしまう時間になった頃、やっと解放されたのだった。
鍛冶屋ってのは皆こうなのか?
「まぁ、これ使ってみて何か気づいたことがあったら教えてくれよ。」
「あぁ…。」
「頼むぞ?いつもの事だけど、お前が使ってみて感じた部分を改良して商品として売り出すんだからな。
売り出す前に使用感がどんなもんか、確認するのは重要なんだ。」
「分かった分かった!もう十分分かったよ!今度狩りに行くときに使わせてもらうから。」
「おう!よろしくな。」
この使った感じを伝えなきゃなんないってのはちょっと面倒だが、
それを差し引いてもこいつが使う装備品の質が良い。
試作品とはいえ、タダで使わせてもらえるってのは役得だぜ。
「まったく…。お前は俺って存在に感謝しなきゃなんねぇぜ?
新しい装備を試すってのは、一歩間違えば危険な行為なんだからな。」
「最初っから感謝しているよ。俺も現役のままでいれば違ったのかもしれないが…。」
「腕は問題ないだろうが、お前の場合は家庭だろ。か・て・い!
嫁さんがいる奴が、ほいほい危ないことすんなって話よ。嫁さん、調子はどうだ?」
「体調は悪くないみたい。だけど、やっぱり家族が増えるって心配事も増えるってことだからなぁ…。
気持ちの方が大変かもしれないな。」
「おいおい、もう少しで父親になるんだぞ?嫁さんにちゃんと寄り添ってやれって。」
「独り身のお前に言われたくないよ。でも…、そうだな。
いつまでもあまり実感が湧かないってのも、無責任な話だよな。」
「…ま、それぞれの言い分を話し合うことが大事なんだろ。近所のお姉さま方の受け売りだけどな!」
「…お前が井戸端会議に参加しているのを想像したら、笑えるな。」
「うるせぇな!参加したくて参加してるんじゃねぇ!
みんなお前たちを心配しているのに、直接伝えるのも気を遣わせるだかなんだかで俺に言ってくんだよ!
…俺の平穏な生活のためにも、元気な子供産んで、仲良く生活してくれや。」
「分かった。ありがとな。」
「…おう。」
こいつは俺と違って後先考えないで行動する奴じゃないし、うるさく言うこともない気はするけどな。
ったく、最近お姉さま方に口酸っぱく言われていたせいか、俺までお節介なこと言っちまったぜ。
ジェズのところに子供が生まれるのはもう少し先だったか…。
その前にもう一回狩りに出て、でかいやつ仕留めて贈り物にでもしてやるか!
…新しい装備も受け取ったし、その礼も兼ねてな。
店の人間はすっかり俺の顔を覚え、接客というよりも友人と雑談するような雰囲気で俺に歩み寄って来た。
「邪魔するぜ、店長。」
「久しぶりですね、ザギルさん。今回はどちらまで行ってたんです?」
「ちょっと野暮用でな。」
既に俺はこの王都に居を構えていたが、この数か月、その住まいを離れていたのだ。
野暮用とは言ったが、この用を済ませる覚悟ができるのに、ずいぶんと長い時間がかかったもんだ。
「店長。今日来たのは、その野暮用を済ませたことで、入用になったもんがあってな…。」
「そうですか。このすずらんにできることなら、協力いたしますよ!」
ガハハと豪快に笑い、事情を深く聞かない店長に感謝しながら店の奥へと案内されていく。
―――
「おい、ザギル!またお前は無茶したんだろ。何だよこのボロボロの装備品…。」
「うるせぇなぁ…。お前は俺のお袋か?いいんだよ、装備品は俺を守って壊れていくもんだろ。」
「そうかもしれないがなぁ…。」
俺はこの村で生活する猟師だ。野生動物を相手にしている以上、怪我をすることだってある。
命を守るためには、しっかりと装備を着込んで挑むわけだが、
幼馴染のこいつに言わせりゃ、何とも危なっかしい格好で戻ってきているんだそうだ。
それで帰ってくるたびにお小言が始まるってわけだ。
「いくら独り立ちした猟師って言ったって、人間であることには変わりないんだからな!
いつか怪我どころじゃすまなくなるかもしれないぞ。今だって体中傷まみれで帰って来るっていうのに…。」
「嫁入り前のお嬢様じゃあるまいし、野郎の体が傷だらけでも問題ねーよ。ったく…。」
「…今度、俺の店の来いよ。新しく作った装備があるんだ。」
「お、そうか!荷物置いたらすぐ行く。」
俺は猟師でこいつは鍛冶屋。昔はこいつも猟師としてやっていたんだが、何を思ったのか転職するって言いだした。
田舎の村とはいえ自分の店を持って、立派になったもんだ。
一緒に猟をしていくもんだと思っていたからそれなりに驚いたが、今となってはありがたいもんだぜ。
何せ、こいつが考えた新しい装備をいち早く試させてもらえるんだからな。
「おーい、ジェズ。来たぜー。今度はどんなもん作ったってんだ?」
「あぁ、ザギル。ちょっと工房の方に回ってくれるか。」
ジェズの店に行くと、店頭に奴の姿は見えなかった。
声をかけると奥にある工房の方から呼ぶ声がするので、大人しくその声に従う。
まだ熱を感じる窯がある工房で、ヴェイルは何かを磨いているようだった。
「それが新しい装備ってやつか?」
「いや、これはまた別。お前に渡すもんはこっちだ。」
そう言って、ゴソゴソとジェズが取り出したのはグローブだった。
ぱっと見はどこにでもあるようなもんに見えるが…。どこが新しいってんだ?
「…それのどこがいいんだ?」
「まったく!ザギルは装備の良さってもんが分かってないなぁ!
いいか?今から説明するから、よく聞いとけよ?」
そうして、俺の時間は順調に奪われていき、
頭上にあったはずの太陽は山の向こうに姿を消してしまう時間になった頃、やっと解放されたのだった。
鍛冶屋ってのは皆こうなのか?
「まぁ、これ使ってみて何か気づいたことがあったら教えてくれよ。」
「あぁ…。」
「頼むぞ?いつもの事だけど、お前が使ってみて感じた部分を改良して商品として売り出すんだからな。
売り出す前に使用感がどんなもんか、確認するのは重要なんだ。」
「分かった分かった!もう十分分かったよ!今度狩りに行くときに使わせてもらうから。」
「おう!よろしくな。」
この使った感じを伝えなきゃなんないってのはちょっと面倒だが、
それを差し引いてもこいつが使う装備品の質が良い。
試作品とはいえ、タダで使わせてもらえるってのは役得だぜ。
「まったく…。お前は俺って存在に感謝しなきゃなんねぇぜ?
新しい装備を試すってのは、一歩間違えば危険な行為なんだからな。」
「最初っから感謝しているよ。俺も現役のままでいれば違ったのかもしれないが…。」
「腕は問題ないだろうが、お前の場合は家庭だろ。か・て・い!
嫁さんがいる奴が、ほいほい危ないことすんなって話よ。嫁さん、調子はどうだ?」
「体調は悪くないみたい。だけど、やっぱり家族が増えるって心配事も増えるってことだからなぁ…。
気持ちの方が大変かもしれないな。」
「おいおい、もう少しで父親になるんだぞ?嫁さんにちゃんと寄り添ってやれって。」
「独り身のお前に言われたくないよ。でも…、そうだな。
いつまでもあまり実感が湧かないってのも、無責任な話だよな。」
「…ま、それぞれの言い分を話し合うことが大事なんだろ。近所のお姉さま方の受け売りだけどな!」
「…お前が井戸端会議に参加しているのを想像したら、笑えるな。」
「うるせぇな!参加したくて参加してるんじゃねぇ!
みんなお前たちを心配しているのに、直接伝えるのも気を遣わせるだかなんだかで俺に言ってくんだよ!
…俺の平穏な生活のためにも、元気な子供産んで、仲良く生活してくれや。」
「分かった。ありがとな。」
「…おう。」
こいつは俺と違って後先考えないで行動する奴じゃないし、うるさく言うこともない気はするけどな。
ったく、最近お姉さま方に口酸っぱく言われていたせいか、俺までお節介なこと言っちまったぜ。
ジェズのところに子供が生まれるのはもう少し先だったか…。
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