12 / 84
ある魔女の話~過去と未来⑫~
しおりを挟む
その後、あたしはエリザさんの下で仕事を続け、
所謂のれん分けのような形で別の町に自分の店を持つことを目指し、独り立ちすることになった。
いや、実際はジークを伴っていたので独りではなかったのだけれど。
いくつか町を転々とし、最終的にこの王都に腰を据えることになったのだ。
―――
「…先輩、何考えこんどるんじゃ?」
「…昔のこと思い出してたんだ。最近じゃ、今さっきの出来事すら曖昧なんだ。
昔の事ならなおさら思い出さないと、何も分からなくなっちまうよ。」
「違いない!」
互いにすっかり年を取ったが、顔をくしゃくしゃにして笑うジークは昔と変わらないように思えた。
そんなことを考えていると、ふいに店のドアがガチャリと開いた。
「こ、こんにちは…。」
「ん?お前は確か…。田舎から来た3人組の。」
「え、そうですけど…。あ、街の入り口にいた、おじいさん…?」
「そうじゃ!」
「ん~?何の用事だい?レイじゃないなんて、珍しいじゃないか。」
「レ、レイは別の用事があって…。代わりに、箱の中身を取りに…。」
「そうかい。勝手に入って持ってきな。」
「あ、ありがとうございます。」
大きな体を可能な限り小さくしながら、アレックスはドアをくぐって箱へと向かう。
彼らが設置したなんちゃら箱は、じわじわと注目されるようになってきている。
「お、お邪魔します…。あれ、これって軟膏、ですよね?この花を入れるなんて、聞いたことないなぁ…。」
「…あんた、これが軟膏の材料だって…。」
「ち、違いましたか?ごめんなさい…!火傷に効く、軟膏の材料だと、思ったんです、けど…。」
「…。」
ごにょごにょと尻すぼみになって最後まで聞き取れなかったが、
この男、アレックスは薬の材料から作っている薬、しかも効能まで当てたというのか。
多少薬草の知識があったからといって分かるものではない。
香り付け用の花が、薬の作成自体には必要のないものであることも気づいている。
「…あんた、この鍋を混ぜな。」
「え!?で、でも…。」
「混ぜるだけだから大丈夫だよ。年寄りにはきつい力仕事なんだ、代わりな。」
「は、はい…。」
何だかよく分からないうちに、鍋をかき混ぜる役をさせられてしまったアレックス。
やっと重労働から解放されたと、あたしは肩をもみながらお茶の準備でもしようかと戸棚に向かう。
その途中でジークにひどいのー勝手に押し付けるなんて、と小声で責められるが無視をする。
あたしはここまでたくさんの人にお世話になって生きてきた。
特に薬の師匠ともいえる店長とエリザさんには感謝しかない。そして、ジークにも。
かつて見習いだったあたしが、いつか弟子を持つ日が来るかもしれないと考えながらも、
そういった存在がいたことはない。
だがもしかしたら、このアレックスがそうなのかもしれない。
あたしに残された時間でできることは、そう多くない。これまで学んだこと、経験したことを次の世代に託す。
それがあたしが残せる唯一の功績。生きた証ともいえるかもしれない。
年のせいか感傷に浸るようになってしまったことに自嘲しながら、3人分のお茶を用意しようと戸棚を開ける。
その奥で、鉱石のスズランがキラリと光っていた。
所謂のれん分けのような形で別の町に自分の店を持つことを目指し、独り立ちすることになった。
いや、実際はジークを伴っていたので独りではなかったのだけれど。
いくつか町を転々とし、最終的にこの王都に腰を据えることになったのだ。
―――
「…先輩、何考えこんどるんじゃ?」
「…昔のこと思い出してたんだ。最近じゃ、今さっきの出来事すら曖昧なんだ。
昔の事ならなおさら思い出さないと、何も分からなくなっちまうよ。」
「違いない!」
互いにすっかり年を取ったが、顔をくしゃくしゃにして笑うジークは昔と変わらないように思えた。
そんなことを考えていると、ふいに店のドアがガチャリと開いた。
「こ、こんにちは…。」
「ん?お前は確か…。田舎から来た3人組の。」
「え、そうですけど…。あ、街の入り口にいた、おじいさん…?」
「そうじゃ!」
「ん~?何の用事だい?レイじゃないなんて、珍しいじゃないか。」
「レ、レイは別の用事があって…。代わりに、箱の中身を取りに…。」
「そうかい。勝手に入って持ってきな。」
「あ、ありがとうございます。」
大きな体を可能な限り小さくしながら、アレックスはドアをくぐって箱へと向かう。
彼らが設置したなんちゃら箱は、じわじわと注目されるようになってきている。
「お、お邪魔します…。あれ、これって軟膏、ですよね?この花を入れるなんて、聞いたことないなぁ…。」
「…あんた、これが軟膏の材料だって…。」
「ち、違いましたか?ごめんなさい…!火傷に効く、軟膏の材料だと、思ったんです、けど…。」
「…。」
ごにょごにょと尻すぼみになって最後まで聞き取れなかったが、
この男、アレックスは薬の材料から作っている薬、しかも効能まで当てたというのか。
多少薬草の知識があったからといって分かるものではない。
香り付け用の花が、薬の作成自体には必要のないものであることも気づいている。
「…あんた、この鍋を混ぜな。」
「え!?で、でも…。」
「混ぜるだけだから大丈夫だよ。年寄りにはきつい力仕事なんだ、代わりな。」
「は、はい…。」
何だかよく分からないうちに、鍋をかき混ぜる役をさせられてしまったアレックス。
やっと重労働から解放されたと、あたしは肩をもみながらお茶の準備でもしようかと戸棚に向かう。
その途中でジークにひどいのー勝手に押し付けるなんて、と小声で責められるが無視をする。
あたしはここまでたくさんの人にお世話になって生きてきた。
特に薬の師匠ともいえる店長とエリザさんには感謝しかない。そして、ジークにも。
かつて見習いだったあたしが、いつか弟子を持つ日が来るかもしれないと考えながらも、
そういった存在がいたことはない。
だがもしかしたら、このアレックスがそうなのかもしれない。
あたしに残された時間でできることは、そう多くない。これまで学んだこと、経験したことを次の世代に託す。
それがあたしが残せる唯一の功績。生きた証ともいえるかもしれない。
年のせいか感傷に浸るようになってしまったことに自嘲しながら、3人分のお茶を用意しようと戸棚を開ける。
その奥で、鉱石のスズランがキラリと光っていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる