某勇 ~一方その頃、編~

ふくまめ

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ある魔女の話~過去と未来⑫~

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その後、あたしはエリザさんの下で仕事を続け、
所謂のれん分けのような形で別の町に自分の店を持つことを目指し、独り立ちすることになった。
いや、実際はジークを伴っていたので独りではなかったのだけれど。
いくつか町を転々とし、最終的にこの王都に腰を据えることになったのだ。

―――

「…先輩、何考えこんどるんじゃ?」
「…昔のこと思い出してたんだ。最近じゃ、今さっきの出来事すら曖昧なんだ。
 昔の事ならなおさら思い出さないと、何も分からなくなっちまうよ。」
「違いない!」

互いにすっかり年を取ったが、顔をくしゃくしゃにして笑うジークは昔と変わらないように思えた。
そんなことを考えていると、ふいに店のドアがガチャリと開いた。

「こ、こんにちは…。」
「ん?お前は確か…。田舎から来た3人組の。」
「え、そうですけど…。あ、街の入り口にいた、おじいさん…?」
「そうじゃ!」
「ん~?何の用事だい?レイじゃないなんて、珍しいじゃないか。」
「レ、レイは別の用事があって…。代わりに、箱の中身を取りに…。」
「そうかい。勝手に入って持ってきな。」
「あ、ありがとうございます。」

大きな体を可能な限り小さくしながら、アレックスはドアをくぐって箱へと向かう。
彼らが設置したなんちゃら箱は、じわじわと注目されるようになってきている。

「お、お邪魔します…。あれ、これって軟膏、ですよね?この花を入れるなんて、聞いたことないなぁ…。」
「…あんた、これが軟膏の材料だって…。」
「ち、違いましたか?ごめんなさい…!火傷に効く、軟膏の材料だと、思ったんです、けど…。」
「…。」

ごにょごにょと尻すぼみになって最後まで聞き取れなかったが、
この男、アレックスは薬の材料から作っている薬、しかも効能まで当てたというのか。
多少薬草の知識があったからといって分かるものではない。
香り付け用の花が、薬の作成自体には必要のないものであることも気づいている。

「…あんた、この鍋を混ぜな。」
「え!?で、でも…。」
「混ぜるだけだから大丈夫だよ。年寄りにはきつい力仕事なんだ、代わりな。」
「は、はい…。」

何だかよく分からないうちに、鍋をかき混ぜる役をさせられてしまったアレックス。
やっと重労働から解放されたと、あたしは肩をもみながらお茶の準備でもしようかと戸棚に向かう。
その途中でジークにひどいのー勝手に押し付けるなんて、と小声で責められるが無視をする。
あたしはここまでたくさんの人にお世話になって生きてきた。
特に薬の師匠ともいえる店長とエリザさんには感謝しかない。そして、ジークにも。
かつて見習いだったあたしが、いつか弟子を持つ日が来るかもしれないと考えながらも、
そういった存在がいたことはない。
だがもしかしたら、このアレックスがそうなのかもしれない。
あたしに残された時間でできることは、そう多くない。これまで学んだこと、経験したことを次の世代に託す。
それがあたしが残せる唯一の功績。生きた証ともいえるかもしれない。
年のせいか感傷に浸るようになってしまったことに自嘲しながら、3人分のお茶を用意しようと戸棚を開ける。
その奥で、鉱石のスズランがキラリと光っていた。
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