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ある魔女の話~過去と未来⑪~
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その後、あたしは無事にエリザさんのもとにたどりついたわけなんだけども、
迎えてくれたエリザさんは真っ赤な目をしたあたしにかなり驚いていた。
店長からは大人しい、冷静な子だからと聞いていたようで、想像と違っていたと。
泣いていたのは家族やお世話になった人と離れることが寂しくて、ということにした。
エリザさんは深くは聞かないまま、温かいお茶を飲みながら話を聞いてくれた。
「そっか、新しい環境は緊張するかもしれないけど、少しずつゆっくりやっていこうね!」
「…はいっ。よろしく、お願いします…。」
「もーかわいい顔が涙で台無しよー?ハンカチどうぞ。
…それはそうと、その手に持っているものは何?ちょっと気になるんだけど。」
「え?あ、これは…。」
エリザさんが指さしているのは、あたしの手の中にある、ジークから渡されたもの。
結局、ジークと別れてから泣き崩れてしまったので、いったい何を渡されたのか確認しないままだった。
テーブルの上に置いて、改めて2人で確認する。
「…これは…。」
「これ、ずいぶん珍しい鉱石ね!あなたたちの村の近くで採れることがあると聞いたことはあるけれど…。
髪飾りに加工してあるのね。形は…スズラン、かしら?」
「…。」
「…アメリア。スズランの花言葉、知ってる?」
「え?」
「いくつかあるけれど、『純粋』『純潔』『再び幸せが訪れる』そして『愛らしさ』」
「!」
「愛されているのね~。」
―――
それからあたしはエリザさんの下で働きながら勉強する日々を送った。
村よりもたくさんのお客さんが来たし、難しい症例の病気に使用する薬なんかも作る必要があって、
村にいたころとは比べ物にならないくらい忙しかった。
失敗もたくさんしたけれど、エリザさんがいつもサポートしてくれて様々なことを学ぶことができた。
数年が経った今も、ジークとの再会はできていない。
「アメリアちゃん、いつもその髪飾りしているけれど、いい人でもいるのかい?」
「…いえ、そんな。」
「そうかい?似合っているから、相当アメリアちゃんのことを考えて用意したもんだと思ったんだけどなぁ。」
「ありがとうございます。」
「ま、こんなかわいこちゃん男が放って置かないから、
そんなやつがいるんならはやいとこ会いに来ないとやばいだろうけどな!」
ガハハと笑って常連のおじさんが帰っていくのを見送って、小さくため息をつく。
数年を経て、かつて頭でっかちだと馬鹿にされていた本の虫は、知性をたたえた大人の女性へと成長していた。
同世代の青年たちからはお近づきになりたい存在ナンバーワン。
年下の男の子たちからは憧れの存在として周知されるまでになっていた。
もちろん、本人は興味がないので知りようもないことなのだが。
『カランカラン』
エリザさんが薬を届けに行っている間に傷薬を補充しようと、
材料を並べて準備していると店のドアに取り付けられているチャイムが鳴った。
誰かお客さんが来たようだ。
「はい、いらっしゃいませ。」
「こんにちは。」
見たことのないお客さんだな。フードを被った、旅人然とした青年に見えるが。
大きな荷物を担いで、店内をキョロキョロと見回している。
「何をお求めでしょうか。」
「えっと…。じゃあ、軟膏、ありますか?」
「軟膏でしたら、こちらになります。」
「…この軟膏、お姉さんが作ったんですか?」
「そうですが…。」
この店では、薬と共に効用を記載した紙を一緒に張り付けている。
傷薬などの常備薬の購入をスムーズに行うためだ。
軟膏も例に漏れず乾燥に効くものや切り傷に効くもの、それぞれ効能が書かれた紙を張り付けている。
軟膏は用途に合わせて数種類用意してあるが、彼が手に取ったのは火傷に効くもの。
記載してある情報を読んでいたと思ったら、製作者はあたしかって…。
「何か気になることでも?」
「あ、いえ…。」
「…。」
「…あの。お姉さん、その髪飾り…。」
「これですか?これが何か…?」
今日は髪飾りに注目される日だな。…これが何だというのだろうか。
「…気づかないかなぁ。」
「はい?」
フードがばさりと下りる。あたしと同世代くらいの若い青年だった。
精悍な顔つきをしているが、目鼻立ちよりも先に目を引くのは、右額の火傷の…。
「…ジーク?」
「やっと気づいてくれましたね、先輩。」
「…ほんとに?」
呆然としているあたしに苦笑で返す青年は、思い出の中の姿よりも逞しく成長していた。
あたしよりも低かった目線は高くなり、大きな荷物を背負っている広い肩は男性であることを意識させられる。
「髪飾り、付けていてくれたんですね。」
「…うん。約束、したから。」
「嬉しいです。時間かかったけど、俺も約束果たせました!」
聞けば、彼はどこかに就職したわけではなく、あちこち冒険して鉱石や薬草を収集して町に卸す。
そういったことをして生計を立てているのだという。
どのような職業かはっきりとした名前は決まっていないが、冒険者だと自称しているそうだ。
「中途半端な感じで会いに行きたくなくて…。結構遅くなっちゃいました、すいません。」
「ううん。…そっか、冒険者ね…。」
「…それで、先輩。俺、あの時の約束は守れたわけですけど、先輩にまた約束してほしいことがあって。」
「また?次々によく思いつくね。今度は何?」
「…今度どこかに行くときは、絶対俺に教えてください。俺を、一緒に連れて行ってください。」
「…うん。」
その言葉の真意が分からない程、子供でいるつもりはなかった。
でも、あたしはその約束を受け入れて、2度とジークを置いて行かないことを約束した。
結果としてあたしが冒険に出るジークを待つ側になったわけだけど、
ジーク曰く、待つだけでいるのはもうやめにした、とのことだ。
迎えてくれたエリザさんは真っ赤な目をしたあたしにかなり驚いていた。
店長からは大人しい、冷静な子だからと聞いていたようで、想像と違っていたと。
泣いていたのは家族やお世話になった人と離れることが寂しくて、ということにした。
エリザさんは深くは聞かないまま、温かいお茶を飲みながら話を聞いてくれた。
「そっか、新しい環境は緊張するかもしれないけど、少しずつゆっくりやっていこうね!」
「…はいっ。よろしく、お願いします…。」
「もーかわいい顔が涙で台無しよー?ハンカチどうぞ。
…それはそうと、その手に持っているものは何?ちょっと気になるんだけど。」
「え?あ、これは…。」
エリザさんが指さしているのは、あたしの手の中にある、ジークから渡されたもの。
結局、ジークと別れてから泣き崩れてしまったので、いったい何を渡されたのか確認しないままだった。
テーブルの上に置いて、改めて2人で確認する。
「…これは…。」
「これ、ずいぶん珍しい鉱石ね!あなたたちの村の近くで採れることがあると聞いたことはあるけれど…。
髪飾りに加工してあるのね。形は…スズラン、かしら?」
「…。」
「…アメリア。スズランの花言葉、知ってる?」
「え?」
「いくつかあるけれど、『純粋』『純潔』『再び幸せが訪れる』そして『愛らしさ』」
「!」
「愛されているのね~。」
―――
それからあたしはエリザさんの下で働きながら勉強する日々を送った。
村よりもたくさんのお客さんが来たし、難しい症例の病気に使用する薬なんかも作る必要があって、
村にいたころとは比べ物にならないくらい忙しかった。
失敗もたくさんしたけれど、エリザさんがいつもサポートしてくれて様々なことを学ぶことができた。
数年が経った今も、ジークとの再会はできていない。
「アメリアちゃん、いつもその髪飾りしているけれど、いい人でもいるのかい?」
「…いえ、そんな。」
「そうかい?似合っているから、相当アメリアちゃんのことを考えて用意したもんだと思ったんだけどなぁ。」
「ありがとうございます。」
「ま、こんなかわいこちゃん男が放って置かないから、
そんなやつがいるんならはやいとこ会いに来ないとやばいだろうけどな!」
ガハハと笑って常連のおじさんが帰っていくのを見送って、小さくため息をつく。
数年を経て、かつて頭でっかちだと馬鹿にされていた本の虫は、知性をたたえた大人の女性へと成長していた。
同世代の青年たちからはお近づきになりたい存在ナンバーワン。
年下の男の子たちからは憧れの存在として周知されるまでになっていた。
もちろん、本人は興味がないので知りようもないことなのだが。
『カランカラン』
エリザさんが薬を届けに行っている間に傷薬を補充しようと、
材料を並べて準備していると店のドアに取り付けられているチャイムが鳴った。
誰かお客さんが来たようだ。
「はい、いらっしゃいませ。」
「こんにちは。」
見たことのないお客さんだな。フードを被った、旅人然とした青年に見えるが。
大きな荷物を担いで、店内をキョロキョロと見回している。
「何をお求めでしょうか。」
「えっと…。じゃあ、軟膏、ありますか?」
「軟膏でしたら、こちらになります。」
「…この軟膏、お姉さんが作ったんですか?」
「そうですが…。」
この店では、薬と共に効用を記載した紙を一緒に張り付けている。
傷薬などの常備薬の購入をスムーズに行うためだ。
軟膏も例に漏れず乾燥に効くものや切り傷に効くもの、それぞれ効能が書かれた紙を張り付けている。
軟膏は用途に合わせて数種類用意してあるが、彼が手に取ったのは火傷に効くもの。
記載してある情報を読んでいたと思ったら、製作者はあたしかって…。
「何か気になることでも?」
「あ、いえ…。」
「…。」
「…あの。お姉さん、その髪飾り…。」
「これですか?これが何か…?」
今日は髪飾りに注目される日だな。…これが何だというのだろうか。
「…気づかないかなぁ。」
「はい?」
フードがばさりと下りる。あたしと同世代くらいの若い青年だった。
精悍な顔つきをしているが、目鼻立ちよりも先に目を引くのは、右額の火傷の…。
「…ジーク?」
「やっと気づいてくれましたね、先輩。」
「…ほんとに?」
呆然としているあたしに苦笑で返す青年は、思い出の中の姿よりも逞しく成長していた。
あたしよりも低かった目線は高くなり、大きな荷物を背負っている広い肩は男性であることを意識させられる。
「髪飾り、付けていてくれたんですね。」
「…うん。約束、したから。」
「嬉しいです。時間かかったけど、俺も約束果たせました!」
聞けば、彼はどこかに就職したわけではなく、あちこち冒険して鉱石や薬草を収集して町に卸す。
そういったことをして生計を立てているのだという。
どのような職業かはっきりとした名前は決まっていないが、冒険者だと自称しているそうだ。
「中途半端な感じで会いに行きたくなくて…。結構遅くなっちゃいました、すいません。」
「ううん。…そっか、冒険者ね…。」
「…それで、先輩。俺、あの時の約束は守れたわけですけど、先輩にまた約束してほしいことがあって。」
「また?次々によく思いつくね。今度は何?」
「…今度どこかに行くときは、絶対俺に教えてください。俺を、一緒に連れて行ってください。」
「…うん。」
その言葉の真意が分からない程、子供でいるつもりはなかった。
でも、あたしはその約束を受け入れて、2度とジークを置いて行かないことを約束した。
結果としてあたしが冒険に出るジークを待つ側になったわけだけど、
ジーク曰く、待つだけでいるのはもうやめにした、とのことだ。
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