某勇 ~一方その頃、編~

ふくまめ

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ある魔女の話~過去と未来⑦~

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村長の家から辛うじて燃えずに済んだ本が買い取られ、荷馬車が去っていった日、あたしは心に決めていた。
少しでも早く自立してこの村から出て行ってやろうと。

「店長、この調合に必要な薬草についてなのですが…。」
「うーん…。アメリア?ここのところ、ちゃんと休んでいるかい?顔色あまり良くないよ…。」
「…問題ないです。体調も悪くないですし。」
「そうはいってもねぇ…。」

あたしが自立するにはこの方法しかない。早く薬を作れるようになって、薬屋として生計を立てるのだ。
自分の興味のあることを勉強するのは苦にならないし、店長には質問し放題だし。
何より、最近は店長のご厚意で危険な薬品でなければ、閉店後に薬作りを実践させてもらっている。
店長は何だかんだであたしに甘い。そこにありがたく甘えさせてもらっている。

「俺はね、アメリア。君に無理をさせるために薬作りを許可しているわけじゃないんだよ。
 君の知識はすごいし、早く自立したいって気持ちも分かるつもり。
 でもね、自分のことをまず大事にしないと。大切な人を悲しませることになってしまうよ。」
「…。」
「勉強熱心なのは素晴らしいよ。でも今日のところは休みなさい。また今度、機材使わせてあげるから。」
「…はい。」

店長にここまで言われてしまっては引き下がるほかない。
またあたしは子ども扱いされてしまう。確かに最近睡眠時価を削って勉強していたけれど…。
自分では体調管理できているつもりだったけど、心配されてしまうなんて恥ずかしい。
今日のところは大人しく帰るとしよう。
家で今日作るつもりだった薬について復習しておこうと考えながら店から出ると、
後ろから勉強して夜更かししないようにね!と店長から釘を刺されてしまった。
…今日のところは、大人しく休むとしよう。

「…あ、先輩!今帰りですか?お疲れ様です!」
「…ジーク。」

家へと歩いている途中、どこからかジークが駆け寄ってきた。
火事で体のあちこちを火傷して包帯だらけだったジークだが、
既に治りかけている部分には特に処置をしていないようだ。
しかし…。

「…その、気分を害したら、悪いんだけど…。」
「何です?」
「…顔の、火傷の。痛くないの?」
「あぁ。皆に言われるんですよね、これ。」

ジークの額の右側。そこには火傷したことによるケロイドが残っていた。
本を抱えて外に出ようとしていた時に燃え落ちた木材が崩れて当たってしまい、
手がふさがっていたために払うことを後回しにしてしまったのだという。
本人は特に気にしていないのか、隠すような包帯や帽子も身に着けてないし、
恐る恐る聞いたあたしの様子に笑っている。こっちの気も知らないで。

「ちょっと目立ってますけど、痛くはないですよ。
 ちょっと突っ張れるっていうか…。違和感はあるにはありますけどね。」
「…ごめん。」
「何で先輩が謝るんですか!俺が、勝手にやったことですから。」
「…。」
「元気ないですね、先輩。どこか悪いんですか!?」
「そういうんじゃない。」
「じゃあよかった!」

ころころと表情が変わるジークにため息が出てしまいそうだ。
本来であれば、具合が悪いのはあんたの方でしょうに…。
少し呆れながらもごそごそとカバンを漁る。
中身が気になるのか、ジークもカバンを覗き込もうとするが、睨んで止めさせる。

「…これ、よかったら。」
「これ、何です?」
「…軟膏。火傷に効くから。」
「…ありがとうございます!!」

取り出したのは小さな缶。中には火傷に効く軟膏が入っている。
あたしが初めて作った薬だ。

「先輩の手作りですかこれ!」
「どうだっていいでしょ…。
 店長に見てもらったから問題ないと思うけど、効き目は、まだ保証できないから…。」

つけるのに抵抗があるんだったら捨ててもらっていいと続けようとすると、早速缶を開けて匂いを嗅いでいる。
だから犬かっていうのよ、そういうところ。

「…なんか、いい匂いします。」
「効き目に支障が出ない程度に、だけど…。匂いがきついとつけにくいかと思って。」
「先輩みたいな匂いします。」
「え”。」

あたし、そんなに薬臭い…?
確かに薬草・薬品に囲まれて生活しているようなもんだけど…、地味にショックだわ…。
いいけど…。いいんだけどさ…。

「先輩、はい。」
「え?あ、はい?」

意識が少し遠くに離れようとしていたところに、ジークが軟膏入りの缶をズイと突き出してくる。
やっぱりいらなかったのかと思い受け取ると、今度は顔を近づけてきた。
意図が分からず思わず一歩引いてしまうと、向こうも一歩近づいてくる。

「え、何?何なの?」
「先輩、その軟膏、塗ってください。」
「あたしが!?」
「だって、俺自分のおでこ見えないし。」
「…今すぐ塗れって話じゃないんだけど。」
「あーなんだか火傷したところが痛くなってきた気がするなー。イタター。」
「…。」

わざとらしく痛がるふりをするジークを睨みながらも、渋々缶の蓋を開ける。
薬臭さが少しマシになるように考えた、花の香りがうっすらと香る。
今考えると、この香りはあたしの好みにしてしまった気がするけれど、まぁいいか。
入っている白い軟膏を少し掬い取って、大人しく顔を差し出しているジークの額に触れる。
火傷したところに軟膏を塗り広げていくが、他人に触られるのがくすぐったいのか、
くふくふとジークが笑って揺れるので塗りづらい。
その笑顔に少し腹が立って、黙っていろとでもいうようにガッと顎を抑えつけた。
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