28歳、曲がり角

ふくまめ

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人生設計、早くも破綻の危機

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『30歳は曲がり角』『30過ぎたら違うよ』
事あるごとに聞かされるようになったこの言葉。
20代後半ともなれば、その頻度は爆発的に上がった。もちろん、言っている側に悪気があるわけではないと分かっているし、自分でも学生時代と同じではないお肌の調子や体力に、まぁ確かにそんな感じがするなぁ、なんて同意していた。

だが、私の人生における曲がり角は、少々早めに設定されていたようだ。



「…さん…いさん!ちょっと、兄さん!」

近くで誰かが叫んでいる。…あぁ、これは母さんだな。なぜか兄貴を呼んでいる。何かそんなに急ぐことでもあっただろうか。
なんだかとても眠い。

「兄さん!ちょっと来て!」
「んー…。」
「あ、起きた!?ちょっと大丈夫?」

大丈夫とは何が。…というか、その大丈夫かという問いは私にしているのだろうか。
大丈夫も何も…あぁ、ダメだ、眠い。

「待って待って!そのままはダメ、横になって!兄さん!来てって!!」
「うー…?」

そうだ、私はお昼にカレーを作ろうとして、ニンジンを切っていたら間違って指を少し切ってしまったんだった。それで近くにいた母さんに、絆創膏を貼ってもらおうと思ってイスに座って。指先って自分じゃ貼りづらいから。大した出血じゃなかったけど、テーブルに寄り掛かりながらティッシュで指先を押さえて、…それから?
強烈な眠気に逆らえず、もう少しだけ寝ようとテーブルに伏せようとしたとき、母さんに全力で止められる。再び兄貴を大声で呼び始め、脇を抱えられて移動したのはリビング横にある母さんの部屋。そこのベッドに寝かされる。
はぁ…だいぶ楽だな。

「…何?」
「今、今ハルカが…。」

兄貴が二階から降りてきた。状況を聞こうとするも、少々慌てている母さんに首をかしげている。どうやら私に関することらしいとこちらをのぞき込むが、私にも何が何だか。おそらく当事者であろうが、へらりと適当に笑うことしかできなかった。

少しして、母さんから聞かされた話としてはこうだ。
料理中に指を切ってしまった私に頼まれ、母さんは絆創膏を準備していた。その時私は自分でしっかり歩いてイスへと向かい、指先を押さえながら待っていたという。そしていざ貼ろうと私の隣に立つと、いきなり私が寄り掛かってきたのだという。初めはふざけているのだと思い、貼りづらいから起きるように声をかけたが返事がない。よくよく見ると意識がなかった。それで慌てて兄さんを呼んだ、ということらしい。
…うーん…?

「…気絶?」
「私としては、急に眠くなって寝ちゃったって感じなんだけども。」
「指切った人間が急に眠くなるって、おかしいでしょ。」
「…確かに。」
「…救急車?」
「えー?そんなにかなぁ?ただ眠いだけだし…今もう、だいぶいいけど。」
「救急車呼ぶべきかどうか、相談できる番号あるんじゃねっけ?」
「あー聞いたことある。」
「…何番?」
「「知らない。」」
「…。」

素直に病院に電話して聞いてみた。
本人に意識があって意思疎通も可能ということ、誰かが送迎可能という状況から普通に受診してみたらいいのでは、という見解だった。私にとってみれば、まぁそうなるよな、受診だって大げさだと思う、といった感想だ。他二名は少々悩むように横になっている私の顔をのぞき込んでくる。…私の顔、何か変です?
それはそれとして、病院に行くのであれば保険証を持ってこなくては。そう思って自分の部屋に向かおうとすると、母さんが兄貴についていくように指示を出す。何で?と振り返ると、階段の途中で倒れたらどうする、と返ってきた。なるほど。背後に兄貴を引き連れ、無事に保険証を回収。何の問題もなく戻ってきた私を、今度は母さんが車で病院へと送っていく。そういえば、今日は夜勤だった。そう口にすると、早く職場に電話して状況伝えて勤務を交換してもらえ!と。そこまでする必要が…?と渋っている私にいいから早くしろ!と急かしてくる。正直どう伝えたもんか、と思いつつも、指切ってなんか意識失ったっぽくて念のため病院行きます、なんて恥ずかしすぎる説明を何とかこなす。

これが、私が28歳になって約一か月後のことだった。
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