海の小舟と君と僕

ふくまめ

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生き方

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「ま、とは言ってもさ、人間ってのはそう単純にはできていないもんだからさ。良太君の抱える気持ちも分からなくはないわけだ。」
「はぁ…。」
「そこで、家族がだめなら仲間はどうだろう、というのが俺の持論だね。」
「…?」
「家族というものに理想を持ちすぎなんだよ。家族で満たされないものがあるなら他で満たせばいい。家族が嫌ならそこを飛び出して、別の場所に行ったらいいのさ!何も家族内ですべてを賄う必要はないんだから。
 仲間ってのは、良太君が欲しがっていた気持ちの繋がりを重視した集団だからね。」

仲間。友達とかもそうなのかな。…僕からしてみたら、友達だって大した違いはないように感じられるけど。
家族だろうが友達だろうが、僕と向き合ってくれる人なんているとは思えなかった。

「仲間はね、そもそも自分と釣り合うような集団を選んで所属することができるのが強みだよ。どんな仲間が欲しいか、自分で考えて選ぶことができるんだよ。そして一旦所属しても、違うなーと思ったら離脱することだって可能なんだから。
 生まれる場所や構成員である家族は選ぶことができないけれど、仲間ならある程度自分で調整することができる。」
「…確かに。」
「だろう?家族なんかにこだわらなくても、君は君自身でいたい場所を選ぶことができるんだよ。
 だからこそ、俺は馴染んだ場所から離れて旅をするのがいいって思うんだ。」

好きな場所に行って、好きな人と交流して、好きなように生きる。最高だ。
そんなことを言って天を仰ぐロイさん。周りを見渡すばかりで気づかなかったが、僕たちの真上には抜けるような青空が広がっていた。

「好きなように生きる…。そんなことができたらな…。」
「できるよ!それができるんだよ良太君。君が望みさえすれば、君の人生は君の物なんだよ。」
「僕の人生は、僕の物…。」
「そうさ。誰も君の生き方を縛る権利なんて持ってない。生き方に息苦しさを感じてしまうのは、君自身が選択肢がないって思いこんでいるからなんだよ。
 世の中で推奨される生き方はもしかしたらあるかもしれない。だけど、それが君にとって最善の生き方であるとは限らない。良太君にとっての最善で最高の生き方ってのは、君自身が選んで掴み取る生き方なんじゃないのかい。」
「…。」

僕が選ぶ、僕の生き方を掴み取る…。僕が生きている中で何となく感じていた生きづらさは、誰かから与えられていたものじゃなくて、僕自身が生み出してしまっていたものだったのかな。
だとしたら、それを断ち切ることができるのは、やっぱり僕自身なんだ。僕だけが、僕を幸福へ導くことができる。

「…僕自身が、生き方を狭めていたんですね…。」
「そう、その通りさ!俺はそんな君を見ていられないのさ!俺は本当に良太君の事気に入っているんだ。」
「僕が…、僕の生き方を決めることができる。」
「そうとも。だからさ、旅をしてみないかい?今の君だったら、きっと楽しくやっていけるよ。」
「旅かぁ…。」
「そうさ!不安に思うことはないよ、俺がいるからさ。」
「ロイさんが…?」
「ああ、もちろん。オレが焚きつけたようなもんだからね。どこへいこうか!君と一緒だったら、きっとどこだって楽しいよ!」

行くとしたら、この国から遠く離れた土地の方が楽しいよね。
あそこはどうだろう、ここも楽しいところだったよ、いっそのこと聞いたことのない場所もいいかもね…。
嬉々とした表情で言葉を投げかけてくるロイさんをぼんやりと眺める。どこかロイさんの言葉が頭の中を上滑りしていく。何かしゃべっているのは分かるけど、話の内容や意味を上手く考えることができない。
旅をするなら、誰かと一緒だった方が安心かなぁ…。
そんなことが頭をよぎった時、ロイさんの手がこの小舟に唯一乗せられていたオールに伸びているのが、僕の目に入った。
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