海の小舟と君と僕

ふくまめ

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ふるさと

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「俺は海が見えることろの出身なんだ。青い海に白い街並み。綺麗なところだよ。
 気持ちのいい風が吹いていてさ、よく仲間たちと海に出ていたよ。」
「へぇ、やっぱり海外の出身なんですね。」

海によく出かけていたというなら、船で漂うなんて状況にも慣れているのかもしれない。
山育ちの僕にはほとんどなかった経験だから、あまり共感できない感覚かも。
海岸線を見ただけでテンション上がるけど、海に入ったら足がつかなくなるところからは何となく不安で進めない。
泳げないわけじゃないけれど、海はなぜか漠然とした恐ろしさを感じてしまうのだ。

「そうだね。地中海、と言ったら分かるかなぁ。大体そのあたりさ。
 住んでいる人たちも穏やかで、時間がゆっくり過ぎているように感じるのさ。」

地中海。聞いただけでもおしゃれな響き、かっこいい!
街並みの話からしてギリシャかな…。あまり地理に詳しくないし、自信はないけれど。
ギリシャと言ったら白い建物が建っていることとヨーグルトのイメージしかない。

「昔はたくさんの船乗りたちが行き交っていたんだ。そういった人たちと遊ぶのも楽しかったね。
 彼らは遠い土地にも行くから、いろんな話を知っているんだ。それからかな、話を聞くのが好きになったのは。」

コミュニケーション能力も高いなんてステキ、爆発しろ!
イケメンで、一緒に遊ぶ仲間たちがいて、初対面の人たちとも和やかに会話ができるなんて…。
完全無欠だなんて、神様はなんて不公平なんだ!ちくしょう!

「…まぁ最近は、あまりみんな話をしてくれなくなったけどね。忙しいのさ。
 みんな生きていくのに忙しくて、他にかまけている時間がないみたいでね。寂しいことだよ。」
「…ま、ロイさんの故郷だけじゃなく、世界中どこもそうだと思いますけどね。
 どこもかしこも、みんな生活のために必死ですよ。」
「そうか…。良太君も、そうなのかい?」
「それは…。」

そうだ。僕だって、本当は就活をしなければいけない時期に差し掛かっている。
社会の授業で「就職氷河期」なんてことをかつて聞いたが、
現代の僕たちにとってはまさに今、自分たちがその渦中にいるような感覚だ。
大学の就職担当の先生へは学生が列をなしているし、ハローワークの面接練習の予約はいつもいっぱいだし、
大学の講義にも説明会や面接の帰りなのか、スーツ姿で参加している同級生たちもよく見かけるようになった。
それなのに僕はまだ、自分が何をしたいのかすら分からないままだ。
そんな状態では、どうやったって焦らないわけにはいかないだろう。
だけど、どう焦って行動したらいいのかも分からない。

「この国の人はみんな忙しそうにしているよね。もう少し、肩の力を抜いてもいいと思うくらいさ。」
「…みんな不安で、自信がないんですよ。今の世の中何があるか分からないから。」
「何があるか分からない、ねぇ…。そんなのは今も昔も一緒さ。
 むしろ、昔の方が分からないことが多くて大変だっただろうな、とは思わないかい?
 だって風呂に入ったら病気になる、何て言われた時代だってあったんだよ?」
「…今からすると信じられませんね。」
「そうだろう?そんな時、当時の人間は何を思って生活していたと思う?」
「え?…さ、さぁ…。」
「良太君、何でもいいんだよ。正解を言おうとしなくていい。面白いことを言おうとしなくていい。
 君が思ったこと、感じたことを教えてくれよ。」
「…そ、そうですね。そうですよね…。」

ただのおしゃべりじゃないか、こんなの。何を僕は真剣に聞いているんだ。
どうせ正解も、面白いことも思いつかないんだから、適当に言ってやればいいじゃないか。

「当時の人は、何が何だか分からな過ぎて、考えても無駄だしーみたいな感覚だったんじゃないです?」
「…。」

あ、あまりにも適当すぎたかな…。
どれくらい昔の話か分からないが、間違ってもこんなギャルみたいな人はいなかっただろうに。

「いいね、その想像。確かに考えても分からないことをいつまでも悩んでいたりしないよねぇ。
 他の人がそう言っているんだったら、みんなそうしているんだったら…。
 自分も周りにならって同調してしまうだろう。
 今以上に周りの人間と助け合いながら生活していた時代だ。
 周りの人間と違った考えを持つことは、なかなかに危険だったろうね。」
「は、はぁ…。」

何だかよく分からないが、僕の適当な答えがロイさんにはささったようだ。
思った以上の反応が返ってきてちょっと引いてしまう。
やっぱりイケメンの考えていることは、凡人の僕には理解できないのだった。
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