平和の狂気

ふくまめ

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人類の進歩⑩

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「こんにちは!おじさま、おばさま!」
「いらっしゃーい、メアリちゃん!待ってたのよ!」
「よく来たね、メアリちゃん。ご夫妻も元気そうで。」
「えぇ、そちらもお変わりないようで。」
「お招きいただきありがとうございます。…でも、よかったんですか?私たちだけでなくメアリまで…。」
「もちろんよ!もはや今日という日はメアリちゃんに会うために存在するようなものだもの!」
「この後に役人たちも来ること、忘れないでくれよ…?」

待ちに待ったメアリちゃんが来る日!あまりの興奮具合に、メアリちゃんが視界に入ってきた瞬間抱き着いてしまった。本人が嫌がっていないからいいものの、これでは完全に不審者である。ご両親もアラアラ…ぐらいでこちらを咎めてくる様子はない。
そんな具合で天使のようなメアリちゃんが変な輩に絡まれたりするのを防げるのだろうか…。と、すでに不審者の動きを取ってしまっている私が心配するのもおかしい話なのだが。
もはや役人が来ることなんて、ロロの指摘がなければ忘れたままだっただろう。

「研究の紹介の場に、私たちも立ち会わせていただけるということでしたが…。メアリはこのようにまだ小さいので、さすがに同席させるわけには。」
「だったら私と一緒に遊んで待っていましょうよ、メアリちゃん!」
「え、いいんです?今回の研究はルナさんも多く関わっていると聞きましたが…?」
「そちらは夫に任せます!」
「ほ、本気だったのかい…?」
「どうしましょう…。メアリ、あなたはどうしたい?」
「どう?どうって?」
「パパとママと一緒に、お話を聞いたり勉強したりするのと…。」
「おばさんと一緒に遊びながらパパたちを待っているの!どっちがいい?」

確かに幼い子供にとって、あの時間は退屈以外の何物でもないだろう。正直私も面倒に思っている。だから今回も夫に任せるのだが。
みんなで説明の場に参加するのか、それとも私と遊んで待っているか。どちらを選ぼうか、大人たちの顔色を窺うようにきょろきょろと見比べているメアリちゃん。とってもかわいい。こういったしぐさを見ていると、普段の生活でも周りの様子を伺いながら行動していることが察せられる。頭がいいのだろうということはもちろんだが、かなり気を使っているのだろう。両親はともに研究者。私たちと同じように研究で忙しい身であることは分かりきっている。誰が悪いということはないが、年相応にわがままを言ったりすることがあるのかと、余計な心配をしてしまうのは、私に子供がいないせいもあるのだろうか。

「…みんな、はなしをききにいくの?」
「お父さんとお母さんは聞きに行こうかと思っているの。」
「メアリちゃんが待っている間、私は一緒に遊んであげられるわ!」
「おばさまが?…じゃあ、まってる。」
「はーい、一緒に待ってましょうね!お茶会の準備もしてあるんだから。」
「まったく…メアリちゃんを付き合わせるのも、ほどほどにしておくんだぞ。…申し訳ない、お嬢さんに相手をしてもらって。」
「いえいえ!メアリもこちらにお邪魔するのを楽しみにしていたんですよ。よっぽど良くしてもらって…。」
「私たちももっと一緒にいてあげられたら、寂しがらせることもないだろうと思うこともあるのですが…。」
「…研究に身を置く人間として、なかなか時間が取れないことはお察ししますよ。であればこそ、我が家でよければ存分に羽を伸ばしていただきたい。」
「ありがとうございます。」
「本当に…。それじゃあメアリ、お父さんとお母さんは行ってくるから。ルナさんに迷惑をかけないように、いい子でね?」
「うん。」

ロロとともに役人たちの出迎えに向かう両親を、メアリちゃんは手を振って見送った。聞き分けがよく、いい子なのだけれど、その表情に寂しさが浮かんでいることは明らかだ。研究に身を置く者の端くれとして、私自身心苦しく思う部分もあるが…。

「…さ!私たちも行きましょう。今日はメアリちゃんに見せたいものがあるの!」
「みせたいもの?」
「そう。前にお話しした絵の話、覚えているかしら?」
「おばさまがあこがれているって、いってた?」
「そう!その絵がね、完成したの。夫は人の目に触れるところに飾らないようにって言ってたんだけど…私の夢を聞いてくれていたメアリちゃんには、ぜひ見てほしくって!私の自慢話になっちゃうけど…それでもいい?」
「うん。」

はー本当にいい子!こんなどうでもいい夢なんて適当に流していても構わないでしょうにねぇ!…でも、私のささやかな、と言っていいかは分からないが、憧れを共有してくれるのは嬉しかった。
メアリちゃんの手を取って部屋へと案内しながら、おしゃべりのお供にどんな焼き菓子を選ぼうか思考を巡らせた。
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