平和の狂気

ふくまめ

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人類の進歩⑥

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結局、若干集中力が切れかかりながらも掃除を続行。しかしすでに外もすっかり暗くなってしまったので、夕食の支度を始めることにした。キッチンも散らかってはいるものの、最低限の炊事はできる程度にはスペースが確保されていた。
さすがのおじさんもここは何とかしていたみたいね。ゆくゆくはここも掃除しないといけないだろうけど。

「…こんな感じかな。」
「メアリちゃーん!俺様に何か手伝えることある?」
「ロランさん、お疲れ様です。そうですね、食器を準備してもらっていいですか?」
「お安い御用!と言いたいんだけども、ここの食器って探すところから始まるから一苦労よー。数もバラバラだし。俺様の美的センスが悲鳴を上げているのよ…。」
「そこを何とか。ロランさんの美的センスでよさげな食器を探し当ててください、お願いしますね。」
「メアリちゃんのお願いだったら断るわけないじゃない!任せといてよ!」
「…騒々しいな、早く探せ。」
「お前は欠けた食器で十分か?突っ立ってないで手伝えよ。」
「分かったよ…。」

一段落つきそうかという頃、外からロランさんとギルさんが戻ってきた。屋敷の中を片付けたのはいいのだが、それに比例するように積み重なっていくゴミ、ゴミ、ゴミ…。初めのうちは空き部屋の片隅に寄せていたのだが、それも手狭になってしまい庭に移動させてもらうことにしたのだ。
…とはいえ、その庭でさえ荒れ放題になっていたので庭を片付けることにもなってしまって、二人にはより重労働をお願いすることになってしまった。私も手伝おうかと言ったのだが、結構背が高い草も生えてしまっていて危ないと、二人から許可が下りず…。こうして引き続き屋内での作業を続けていたのだった。

「適当に食器を探してはきたが…。」
「何で応接間の片隅に積まれているのか分からんねぇ、このお屋敷は。」
「…もしかしたら、おじさんも片付けている途中だったのかもしれませんね。」
「そして挫折したと。」
「…そうかもしれませんね…。」
「少なくとも成功しているようには見えないな。」

家事ができないと自分でも言っていたおじさんの言葉は、正しく自己分析されていたというわけだ。
食器か…おばさんは綺麗な食器を集めるのが趣味だったな。古市なんかに出かけたら、必ずと言っていいほど食器を買ってしまうから増えすぎて困っていると苦笑していたおばさんを思い出す。困っているとは言ってはいるが、食器を眺めているおばさんはとっても幸せそうだった。
ぼんやりと食器を眺めていると、玄関の方から物音がする。どうやらおじさんも帰ってきたようだ。

「おじさん、お帰りなさい。お疲れ様です。」
「…あぁ…。皆も、掃除をお願いしてしまってすまなかったね。大変だっただろう。…何か、あったかな?」
「なーんにも。やれどもやれどもゴミの山よ。」
「ちょっと!ロランさん!」
「あはは、申し訳ない。」
「すみません、おじさん…!あ、でもこれ!さっき見つけたんです。夕食の時に使わせてもらおうかと思って…。」

おじさんへの失礼な物言いに慌てながらも、おばさんの思い出の品とも言える食器を見せた。これで少しでも、楽しかった頃を思い出してもらえればいいのだが。

「へぇ、こんなものがあったなんて知らなかったな。自由に使ってくれていいよ。」
「…え、と…。おじさん。これ、おばさんが集めていた食器なんです。…見覚えありませんか?」
「そうなのかい?確かにそういったものを趣味にしていたとは思ったが…私はあまり興味がなくてね。」
「…そう、ですか…。」
「…。」
「ま、俺様こう見えていろんなところで商売をしてきたわけなんだが、見つけた食器は品のいい物ばかりだったぜ。高級品ばっかりってわけじゃないが、奥さんセンス良かったんだろうな。」
「そうですか、もしよろしければ持って行ってください。その方がいいでしょう。」
「…考えとくよ。」
「…食事にしよう、せっかく作ってもらったしな。」
「あ、はい、そうですね!お口に合うといいんですが!」
「何から何まですまないね、ごちそうになるよ。」

大喜びしてもらうつもりはなかった。感謝されるつもりも。だけど、興味関心がないからって、亡くなってしまった奥さんの趣味の品に対して、あんな反応になるものだろうか。確かに、埋もれさせておくよりロランさんのように価値の分かる人に引き取ってもらう方がいいのかもしれない。おばさんも、使ってもらった方が喜んでくれるのかもしれない。でも…。
持って行っていいだなんて、おじさんの反応が少し寂しかった。
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