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人類の進歩③
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どこか薄暗く感じる道を抜け、町の奥の方へとやってきた。ここまで通ってきた道、この町の大通りのはずだったのに…。
「ここです。ここが、以前お世話になった方のお宅です。」
「ここが…。」
「…崩れたりは、していないようだな。」
記憶を辿り、かつての面影を残しながらも影を感じるような館へとやってきた。
綺麗に手入れをされていた庭は草が伸び放題。
館の壁にはツタが絡みついている。
誰かいるのか察することが難しいほど、館の中は静まり返っている。
窓は幕でもかけているのか、明かりが漏れてくることはなく不気味だ。
「…まぁ、ここで立っていても仕方がないし、まずは俺様が伺ってきますかね。」
「え、でも…。」
「万が一、ここが危険な場所になってしまっていたとしても、問題ないな。」
「お、俺様頼りにされちゃってる?」
「見捨てて撤退すればいい。」
「お前今日の宿の手配できたとしても外にたたき出してやるからな。」
『はーやだやだ…』とぶつぶつ文句を言いながらも、館のドアノックに手をかけるロランさん。ゴツゴツと来客を告げるが、中から返事はない。再度ノックをしてみるも、結果は変わらなかった。
「…留守か?」
「それとも、そもそもすでに人が住んでいないか。」
「…。」
おじさん、やっぱり…。
「…とにかく、いったん戻るか。」
「メアリちゃん、あまり気を落とさないで。たまたま外に出ているのかもしれないし。また時間見て来てみようよ。」
「…はい。」
無駄足だったかと、来た道を戻ろうと踵を返す。その視線の先には、こちらを見ている男の人が。口元を布で覆っていて、肩から下げられたカバンは何が詰まっているのかパンパンだ。商人か何かだろうか。だとしたら、この館で商売をするつもり…?であれば、やはりここには誰かが住んでいる?
話を聞くべきなのか道を譲るべきなのか。
「メアリ?」
「え。」
どうしようかと立ち尽くしていると、向こうから話しかけてきた。しかも、私の名前…。空気が張り詰める。ギルさんが半身を引く。ロランさんが静かに私のそばへとやって来る。
だけど私は、その男の人から目が離せなかった。
「…ロロ、おじさん?」
「あぁ、メアリ…!本当にメアリなんだな!」
口元の布を下ろしながら駆け寄ってくるおじさんに、私も笑顔で答える。
髭も伸び、少し痩せたように見えるが、間違いなく私を可愛がってくれたロロおじさんその人だった。
おじさん、本当に良かった…!
「両親ことは知っている。だけど君のことはいつまでたっても消息が知れなかったから、来る日も来る日も心配だった…。」
「はい…。おじさんも無事だったんですね。」
「…あぁ。」
「私、何とか逃げて旅をしていたんです。この二人は、その道中でお世話になっている方です。ギルさんと、ロランさんです。」
「…。」
「…どーも。」
「そうか…。この子が世話になったようで。私にとっては娘も同然なんだ、本当にありがとう。」
「ま、成り行きみたいなもんだからな。俺様も一人旅より楽しくやらせてもらってるよ。ここ、あんなの家なんだってな。邪魔していいかい?」
「あぁもちろん。大したもてなしはできないが…。ぜひゆっくりしてほしい。」
おじさんは快く館の中へと案内してくれた。記憶の中では明るく迎えてくれたエントランスも、おじさんがともした小さな燭台の光でかすかに照らされる程度で心もとない。あの頃とは、やはり変わってしまっている。
案内された談話室も、かつて飾られていた装飾品の姿も見えずがらんとしている。腰を掛けるソファやいすは辛うじて整えられているが、棚の上には埃が溜まっているのが見える。
「お恥ずかしい、私は家事が苦手でね。こうしてゆっくりと客人を迎えるのも久しぶりなんだ。」
「まぁ、外観から大体察しはついていた。気遣いは無用だ。」
「男所帯じゃあな、こんなもんだろ。」
「…え?あの、おじさん。ルナおばさんは…?」
「…。」
ルナおばさん。ロロおじさんの奥様。かつて私がお世話になった時も、二人の間に子供がいないということもあってかかなり可愛がってくれた。料理上手なおばさん、いつも温かく迎え入れてくれた。
その人の姿が、ここにはない。俯くおじさんの姿が、意味することは…。
「ルナは…、妻はもう、いないんだ。」
「…それは…。」
「こんなご時世だ。珍しいことじゃない。…だが、やはりなかなかに堪えるものだね…。」
「おじさん…。」
「私は研究ばかりしてきた人間だったから、生活全般、妻に任せっきりだったんだ。…こんなことになるなんてな…。こんなことでは、叱られてしまうな。」
寂しそうに笑うおじさん。おばさんはこの混乱の最中、この世を去ってしまったというのか。まるで実感がない。実の母親とはまた違った、温かな笑顔を思い出す。あのおばさんが…。
「だが、こうしてメアリに会うことができた。話したいことがたくさんある、今日はここに腰を落ち着けてくれないだろうか。」
そう言ってくれたおじさんに甘え、私たち三人は頷きで返すのだった。
「ここです。ここが、以前お世話になった方のお宅です。」
「ここが…。」
「…崩れたりは、していないようだな。」
記憶を辿り、かつての面影を残しながらも影を感じるような館へとやってきた。
綺麗に手入れをされていた庭は草が伸び放題。
館の壁にはツタが絡みついている。
誰かいるのか察することが難しいほど、館の中は静まり返っている。
窓は幕でもかけているのか、明かりが漏れてくることはなく不気味だ。
「…まぁ、ここで立っていても仕方がないし、まずは俺様が伺ってきますかね。」
「え、でも…。」
「万が一、ここが危険な場所になってしまっていたとしても、問題ないな。」
「お、俺様頼りにされちゃってる?」
「見捨てて撤退すればいい。」
「お前今日の宿の手配できたとしても外にたたき出してやるからな。」
『はーやだやだ…』とぶつぶつ文句を言いながらも、館のドアノックに手をかけるロランさん。ゴツゴツと来客を告げるが、中から返事はない。再度ノックをしてみるも、結果は変わらなかった。
「…留守か?」
「それとも、そもそもすでに人が住んでいないか。」
「…。」
おじさん、やっぱり…。
「…とにかく、いったん戻るか。」
「メアリちゃん、あまり気を落とさないで。たまたま外に出ているのかもしれないし。また時間見て来てみようよ。」
「…はい。」
無駄足だったかと、来た道を戻ろうと踵を返す。その視線の先には、こちらを見ている男の人が。口元を布で覆っていて、肩から下げられたカバンは何が詰まっているのかパンパンだ。商人か何かだろうか。だとしたら、この館で商売をするつもり…?であれば、やはりここには誰かが住んでいる?
話を聞くべきなのか道を譲るべきなのか。
「メアリ?」
「え。」
どうしようかと立ち尽くしていると、向こうから話しかけてきた。しかも、私の名前…。空気が張り詰める。ギルさんが半身を引く。ロランさんが静かに私のそばへとやって来る。
だけど私は、その男の人から目が離せなかった。
「…ロロ、おじさん?」
「あぁ、メアリ…!本当にメアリなんだな!」
口元の布を下ろしながら駆け寄ってくるおじさんに、私も笑顔で答える。
髭も伸び、少し痩せたように見えるが、間違いなく私を可愛がってくれたロロおじさんその人だった。
おじさん、本当に良かった…!
「両親ことは知っている。だけど君のことはいつまでたっても消息が知れなかったから、来る日も来る日も心配だった…。」
「はい…。おじさんも無事だったんですね。」
「…あぁ。」
「私、何とか逃げて旅をしていたんです。この二人は、その道中でお世話になっている方です。ギルさんと、ロランさんです。」
「…。」
「…どーも。」
「そうか…。この子が世話になったようで。私にとっては娘も同然なんだ、本当にありがとう。」
「ま、成り行きみたいなもんだからな。俺様も一人旅より楽しくやらせてもらってるよ。ここ、あんなの家なんだってな。邪魔していいかい?」
「あぁもちろん。大したもてなしはできないが…。ぜひゆっくりしてほしい。」
おじさんは快く館の中へと案内してくれた。記憶の中では明るく迎えてくれたエントランスも、おじさんがともした小さな燭台の光でかすかに照らされる程度で心もとない。あの頃とは、やはり変わってしまっている。
案内された談話室も、かつて飾られていた装飾品の姿も見えずがらんとしている。腰を掛けるソファやいすは辛うじて整えられているが、棚の上には埃が溜まっているのが見える。
「お恥ずかしい、私は家事が苦手でね。こうしてゆっくりと客人を迎えるのも久しぶりなんだ。」
「まぁ、外観から大体察しはついていた。気遣いは無用だ。」
「男所帯じゃあな、こんなもんだろ。」
「…え?あの、おじさん。ルナおばさんは…?」
「…。」
ルナおばさん。ロロおじさんの奥様。かつて私がお世話になった時も、二人の間に子供がいないということもあってかかなり可愛がってくれた。料理上手なおばさん、いつも温かく迎え入れてくれた。
その人の姿が、ここにはない。俯くおじさんの姿が、意味することは…。
「ルナは…、妻はもう、いないんだ。」
「…それは…。」
「こんなご時世だ。珍しいことじゃない。…だが、やはりなかなかに堪えるものだね…。」
「おじさん…。」
「私は研究ばかりしてきた人間だったから、生活全般、妻に任せっきりだったんだ。…こんなことになるなんてな…。こんなことでは、叱られてしまうな。」
寂しそうに笑うおじさん。おばさんはこの混乱の最中、この世を去ってしまったというのか。まるで実感がない。実の母親とはまた違った、温かな笑顔を思い出す。あのおばさんが…。
「だが、こうしてメアリに会うことができた。話したいことがたくさんある、今日はここに腰を落ち着けてくれないだろうか。」
そう言ってくれたおじさんに甘え、私たち三人は頷きで返すのだった。
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