平和の狂気

ふくまめ

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人類の進歩②

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「…とにかく、ここでの宿を探さないとなぁ。」
「…はい。」
「…。」

ここで立ち止まっていても、何も始まらない。町の入口で立ち尽くしている三人組、というだけでも悪目立ちしてしまいそうだが、それがなさそうなほど人通りがない。誰が私たちを見ているのかと、開き直ってしまいそうになる。
町の中に足を踏み入れるが、見れば見るほど閑散としている。元の姿を知ってしまっているだけに、この静けさは悲しく、不気味だった。

「…メアリちゃん、ショックを受けているとこ悪いんだけど、前に来た時に泊まった宿泊施設なんて、覚えてたりしないかな?」
「以前は薬品を研究されている方のご厚意で、その方のお宅や研究施設にお邪魔していたので…。」
「あーそっかー、そういうこともあるのね。」
「…それに、この様子だとまともに宿屋も営業しているか…。」
「うーん…。」

薬の町だというのに、相場の値段の数倍で売買されている内容の看板を思い出し、肩を落とす。もし宿屋が開いていたとしても、そこがまともな営業をしているとは考えにくい。薬同様、宿代が跳ね上がっているか、宿の環境が劣悪か…。とにかく、一般的な利用は難しいだろう。この町の状況からして、兵士が駐屯していなさそうなことも違和感が残るが、それは自由に行動できるから良しとしよう。治安の面では心配だが、私たちのような犯罪者扱いを受けている人間にしてみれば好都合でもある。もしかしたら、すでに廃墟同然のような町になってしまっているから駐屯する必要なし、ということなのだろうか。
どういう状況であれこの様子では、思い出の町であるとはいえ、滞在することはできないかもしれない。そう思ったが…。

「じゃあ、その時世話になった人間を訪ねてみればいいんじゃないか?」
「え?」
「は?」
「この町がどう扱われているのかは今のところ分からないが、もし当時の人間が残っているとしたら、俺たちと違って戦犯として手配されなかったということだろう。上手く立ち回れたということだ。話を聞けるのなら、今後の行動の指針になるかもしれない。」
「そっか…そっか、なるほど!でしたら、案内できます。その時お世話になった方のお宅、覚えてます!」

当時の思い出がよみがえる。まだ幼かった私は、大した手伝いができるわけでもなかったが両親にくっついて施設内を巡っていた。私はそれで充分楽しかったのだが、小さな子にはつまらないだろうと可愛がってくれた研究者の方々がいたのだ。その中でも、私たち一家を自宅に招待してくださった方がいた。ロロ、というこの町でも名の知れた研究者で、私はおじさんと呼んで慕っていた。おじさんも、薬の話ばかりで飽きないように私を気にかけてくれた。
もしかしたらおじさんは、まだこの町に…。

「…おいギル。この状況で町にいる人間なんざ、まともなわけねぇだろ。」
「分かっている。」
「だったら何でわざわざメアリちゃんが傷つきそうなことすんだよ。子供の頃に世話になった人間が、とんでもなく堕落してたらショックだろが!」
「この町の光景だけであの様子だからな…。だが万が一彼女の味方になってくれるなら儲けもの。すでに身柄を拘束されていて空き家だったら、一時的にでも滞在する宿として場所を拝借できる。」
「…もしやべー奴になってそこで生活してたら?」
「答えは決まっているな。」
「お前ってば、ホントに逞しいよ…。」

先導する私の後ろで、二人はこそこそと何やら話し合っていた。正直、知り合いに会えるかもしれないという期待で少なからず舞い上がっていた私には、その内容は全く聞き取れていなかった。
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