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愛してる④
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ドンドンドン!!
「…ねぇ、ニコ。大丈夫?」
「正面に男がいる。そいつが叩いているんだろう。…子供を一人連れてはいるが。」
「!サンゴ!」
「あ、ちょっと!」
だんだんと強くなるノックに、さすがにただことではないと思い始める。ニコの顔色だって悪いし…。
周囲を確認していたギルさんが、ノックをしているであろう男の存在と、そばに子供がいることを告げるとニコは血相を変えて入口へと走り出す。
何がそうさせたのかは分からないが、外にいる男が私たちを探しているような人間だったら非常にまずい。そう思って引き留めようと追いかけるが、すんでのところで間に合わずニコとほぼ同時に自分まで外に出てしまった。
非情にまずい。
「やっぱりここにいたか、ニコぉ…。三人連れが宿をとったって聞いてなぁ、帰りが遅いから心配してたんだぜぇ?」
「ご、ごめんなさい…。」
「サンゴだって、帰りを待ってたんだ。…それで?成果はどうだったんだ、ん?こんだけ時間かかったんだから、それはいい稼ぎがあったんだろぉ?」
「それが…。」
「うん?」
「…なくて。」
「んん?」
「売り上げ、なくて…。」
「はぁあぁぁ!?こんだけ時間かかって何にも売れなかったってのか、あぁ!?この愚図が!」
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
「ったくよぉ…!…ん?何見てやがんだテメェ。」
「っ…!」
外にいた男とニコとのやり取りに、呆気に取られてしまっていたが、これは確実に友好的な関係にない相手だろう。そしてその男の背後にいる子供。ニコと同じように汚れたぼろきれが体のあちこちに巻かれている。顔色も悪くふらついている。あれで治療のつもりなのだろうか。
そんな男の視線を受けると、反射的に体が強張ってしまう。
「見世物じゃねぇんだぞ!…まさかお前、この宿取ったっていう旅人か?」
「そ、そうですが、何か?」
「…女か、ったく。…いや待て。お嬢ちゃん、騒がしくして悪かったな。俺たちも生きていくのに必死なんだ。分かってくれるよな?」
「…はぁ。」
「こんなご時世にガキ二人連れた男が一人。苦労すんのも当然、なぁ?」
「…それは、まぁ…。」
「だからこいつらも、仕事して稼いでるってわけなんだよ。食っていくためによぉ。…分かるよな?こいつらのために、よぉ。」
「…。」
「はいはいストップ。これ以上は売込みじゃなくてただの押し売りだから、勘弁してくれるか?」
「ロランさん…。」
イラついたまま話しかけられたかと思えば、急にニヤつきながら話してくるものだから、別の意味で体を引いてしまいそうになる。
何だろうか。この男の話は、何かを含んでいるような…。
どう返したらいいものかと言葉に詰まっていると、ロランさんが外に来て話を遮ってくれた。その後に出てきたギルさんは静かに剣の柄に手をかけている。
「んん…?残りの旅の連れかぁ?ちょうどよかった。なぁ、こいつらから何か買ってやってくれよ。売り上げがねぇと、生きていけねぇんだからよぉ。」
「…悪いけど、俺様慈善事業はやってないの。他を当たってくれる?」
「何だよ、こいつらが野垂れ死んだっていいってのかよ。情ってもんがないねぇ…。」
「貧乏過ぎて鏡がねぇのか屑野郎。人情で生きてるツラじゃねぇだろテメェ。」
「あぁ?…あぁそうか、こんな貧相なガキじゃ物足りねぇってか。だったらこいつもオマケしてやるよ、おら。」
「うわっ…。」
「サンゴ…!」
毅然とした、というか完全に敵意を持って接しているであろうロランさんの態度に、男の顔からニヤつきが消える。私たちから何が何でも金銭を巻き上げたいのか、後ろにいた子供を前に突き出してきた。もともと体調がよくなさそうだったが、男の突き飛ばすような力につんのめって倒れてしまう。それに寄り添うようにニコが慌てて駆け寄る。
怯えたように私たちと男を見上げる二人の表情は、よく似ていた。
「…ねぇ、ニコ。大丈夫?」
「正面に男がいる。そいつが叩いているんだろう。…子供を一人連れてはいるが。」
「!サンゴ!」
「あ、ちょっと!」
だんだんと強くなるノックに、さすがにただことではないと思い始める。ニコの顔色だって悪いし…。
周囲を確認していたギルさんが、ノックをしているであろう男の存在と、そばに子供がいることを告げるとニコは血相を変えて入口へと走り出す。
何がそうさせたのかは分からないが、外にいる男が私たちを探しているような人間だったら非常にまずい。そう思って引き留めようと追いかけるが、すんでのところで間に合わずニコとほぼ同時に自分まで外に出てしまった。
非情にまずい。
「やっぱりここにいたか、ニコぉ…。三人連れが宿をとったって聞いてなぁ、帰りが遅いから心配してたんだぜぇ?」
「ご、ごめんなさい…。」
「サンゴだって、帰りを待ってたんだ。…それで?成果はどうだったんだ、ん?こんだけ時間かかったんだから、それはいい稼ぎがあったんだろぉ?」
「それが…。」
「うん?」
「…なくて。」
「んん?」
「売り上げ、なくて…。」
「はぁあぁぁ!?こんだけ時間かかって何にも売れなかったってのか、あぁ!?この愚図が!」
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
「ったくよぉ…!…ん?何見てやがんだテメェ。」
「っ…!」
外にいた男とニコとのやり取りに、呆気に取られてしまっていたが、これは確実に友好的な関係にない相手だろう。そしてその男の背後にいる子供。ニコと同じように汚れたぼろきれが体のあちこちに巻かれている。顔色も悪くふらついている。あれで治療のつもりなのだろうか。
そんな男の視線を受けると、反射的に体が強張ってしまう。
「見世物じゃねぇんだぞ!…まさかお前、この宿取ったっていう旅人か?」
「そ、そうですが、何か?」
「…女か、ったく。…いや待て。お嬢ちゃん、騒がしくして悪かったな。俺たちも生きていくのに必死なんだ。分かってくれるよな?」
「…はぁ。」
「こんなご時世にガキ二人連れた男が一人。苦労すんのも当然、なぁ?」
「…それは、まぁ…。」
「だからこいつらも、仕事して稼いでるってわけなんだよ。食っていくためによぉ。…分かるよな?こいつらのために、よぉ。」
「…。」
「はいはいストップ。これ以上は売込みじゃなくてただの押し売りだから、勘弁してくれるか?」
「ロランさん…。」
イラついたまま話しかけられたかと思えば、急にニヤつきながら話してくるものだから、別の意味で体を引いてしまいそうになる。
何だろうか。この男の話は、何かを含んでいるような…。
どう返したらいいものかと言葉に詰まっていると、ロランさんが外に来て話を遮ってくれた。その後に出てきたギルさんは静かに剣の柄に手をかけている。
「んん…?残りの旅の連れかぁ?ちょうどよかった。なぁ、こいつらから何か買ってやってくれよ。売り上げがねぇと、生きていけねぇんだからよぉ。」
「…悪いけど、俺様慈善事業はやってないの。他を当たってくれる?」
「何だよ、こいつらが野垂れ死んだっていいってのかよ。情ってもんがないねぇ…。」
「貧乏過ぎて鏡がねぇのか屑野郎。人情で生きてるツラじゃねぇだろテメェ。」
「あぁ?…あぁそうか、こんな貧相なガキじゃ物足りねぇってか。だったらこいつもオマケしてやるよ、おら。」
「うわっ…。」
「サンゴ…!」
毅然とした、というか完全に敵意を持って接しているであろうロランさんの態度に、男の顔からニヤつきが消える。私たちから何が何でも金銭を巻き上げたいのか、後ろにいた子供を前に突き出してきた。もともと体調がよくなさそうだったが、男の突き飛ばすような力につんのめって倒れてしまう。それに寄り添うようにニコが慌てて駆け寄る。
怯えたように私たちと男を見上げる二人の表情は、よく似ていた。
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