16 / 33
愛してる③
しおりを挟む
「その商人は、結構な大荷物だったらしく、荷馬車を引いてくれる馬がいなければ身動きが取れなかったんです。」
「バカなことしたなぁ、その商人…。でもだからって、荷物を置いて先に進むこともできなかったと。」
「そうです、あたしにはその感覚ってあまり分からないんですけど…。」
「まぁ、一応同業者って言ったらそうだからなぁ。荷物っていたって大事な商品。それを仕入れるのに金は払っちまってる。それをみすみす捨てるような真似は、できることならしたくねぇってのは分かるさ。」
「はぁ…。」
どうやらここができたきっかけは、一人の商人のうっかりが発端だったようだ。世の中何がどう転ぶか分からないものだ。
「でも…この規模の人が集まるなんて、なかなか想像できないんですが…。」
「その商人は、荷物を捨てることもできず、移動することもできずで頭を悩ませた結果、一つの賭けに出たそうで。」
「賭け?」
「…その場で商売をして、やっていくという賭けです。」
「はーなるほどぉ…?」
「そんで、何だかんだ上手くいってしまったと。」
「結構簡単にまとめましたけど、すごいこと…ですよね?」
「まぁね。」
でも俺様だったらそんな賭けはしたくないなぁ、とロランさんは評価する。あくまで運がよかっただけで、商人の采配は決していい判断とは言えないようだ。
「道行く人に商売して、それがだんだんと大規模になって…。それでここができたと。…その商人が成功したのは運がよかっただけかもしれませんが、ここは人通りがある程度あるような要素があったのでは?」
「そうかもしれないけどさぁ…。そもそも『かもしれない』で商売できるほど甘くないよ?本当に、たまたま、上手くいったってだけの話にしか思えないねぇ。…まぁ、何にせよここは人の行き交う場所になった、と。世の中物騒だけど、ここの治安はどんなもん?兵士が常駐しているようには見えなかったけども。」
「…確かに、ここには兵士さんはいません。争いもそこそこ起こるし、平和とは言えないのかもしれないけど…。でも、みんな自分たちのことで精一杯だから、そこまで揉め事は大きくならないように思います。たまに兵士さんが来て、怪しい人がいないか聞いていくこともありますけど。」
「…そう、たまにね。定期的じゃないのかな?」
「うーん…そこまで決まっていないと思いますけど…。どうしてです?」
「俺様何も怪しいことしてないんだけど、兵士さんを前にすると緊張しちゃう体質なの。…ま、兵士さんは戦時の英雄を探すのに忙しくて、いちいち揉め事の仲介なんてしてる場合じゃないのかもしれないけどな。」
「戦時の英雄…聞いたことはありますけど、どんな人たちなんですかね…。」
「…さてね。できることなら、俺様出会いたくないもんだけどなぁ。」
兵士の巡回は不定期。しかしそこまで頻回でもない様子だ。注意した方がいいだろうが、そこまで警戒する必要もない、といった程度だろうか。
最近の人の出入りとか、商品の売れ行きはどうだとか、ロランさんは何でもないような内容に話題を変えている。ニコはその話題に律儀に答えていて、腕の処置が終わったことにも気がついていないようだ。いい子なんだろうな。
ドンドン!
「っ!」
「ん?」
「今度は誰?ニコの商売仲間、とか?…ニコ?」
「…。」
ドンドンドン!
またもやドアノック代わりに壁が叩かれる。ニコの時よりも少々力強く、荒々しく感じるが…。ニコの知り合いでも来たのだろうか。それとも、ここでは旅人の泊まることろにまで顔を出して商売するのが一般的なのだろうか。そう思ってニコに確認しようとするも、ニコからの返答はない。ニコはただ、俯いて手を握りしめているだけだ。
その反応に違和感を覚える中、壁を叩く音が急かすように響いている。
「バカなことしたなぁ、その商人…。でもだからって、荷物を置いて先に進むこともできなかったと。」
「そうです、あたしにはその感覚ってあまり分からないんですけど…。」
「まぁ、一応同業者って言ったらそうだからなぁ。荷物っていたって大事な商品。それを仕入れるのに金は払っちまってる。それをみすみす捨てるような真似は、できることならしたくねぇってのは分かるさ。」
「はぁ…。」
どうやらここができたきっかけは、一人の商人のうっかりが発端だったようだ。世の中何がどう転ぶか分からないものだ。
「でも…この規模の人が集まるなんて、なかなか想像できないんですが…。」
「その商人は、荷物を捨てることもできず、移動することもできずで頭を悩ませた結果、一つの賭けに出たそうで。」
「賭け?」
「…その場で商売をして、やっていくという賭けです。」
「はーなるほどぉ…?」
「そんで、何だかんだ上手くいってしまったと。」
「結構簡単にまとめましたけど、すごいこと…ですよね?」
「まぁね。」
でも俺様だったらそんな賭けはしたくないなぁ、とロランさんは評価する。あくまで運がよかっただけで、商人の采配は決していい判断とは言えないようだ。
「道行く人に商売して、それがだんだんと大規模になって…。それでここができたと。…その商人が成功したのは運がよかっただけかもしれませんが、ここは人通りがある程度あるような要素があったのでは?」
「そうかもしれないけどさぁ…。そもそも『かもしれない』で商売できるほど甘くないよ?本当に、たまたま、上手くいったってだけの話にしか思えないねぇ。…まぁ、何にせよここは人の行き交う場所になった、と。世の中物騒だけど、ここの治安はどんなもん?兵士が常駐しているようには見えなかったけども。」
「…確かに、ここには兵士さんはいません。争いもそこそこ起こるし、平和とは言えないのかもしれないけど…。でも、みんな自分たちのことで精一杯だから、そこまで揉め事は大きくならないように思います。たまに兵士さんが来て、怪しい人がいないか聞いていくこともありますけど。」
「…そう、たまにね。定期的じゃないのかな?」
「うーん…そこまで決まっていないと思いますけど…。どうしてです?」
「俺様何も怪しいことしてないんだけど、兵士さんを前にすると緊張しちゃう体質なの。…ま、兵士さんは戦時の英雄を探すのに忙しくて、いちいち揉め事の仲介なんてしてる場合じゃないのかもしれないけどな。」
「戦時の英雄…聞いたことはありますけど、どんな人たちなんですかね…。」
「…さてね。できることなら、俺様出会いたくないもんだけどなぁ。」
兵士の巡回は不定期。しかしそこまで頻回でもない様子だ。注意した方がいいだろうが、そこまで警戒する必要もない、といった程度だろうか。
最近の人の出入りとか、商品の売れ行きはどうだとか、ロランさんは何でもないような内容に話題を変えている。ニコはその話題に律儀に答えていて、腕の処置が終わったことにも気がついていないようだ。いい子なんだろうな。
ドンドン!
「っ!」
「ん?」
「今度は誰?ニコの商売仲間、とか?…ニコ?」
「…。」
ドンドンドン!
またもやドアノック代わりに壁が叩かれる。ニコの時よりも少々力強く、荒々しく感じるが…。ニコの知り合いでも来たのだろうか。それとも、ここでは旅人の泊まることろにまで顔を出して商売するのが一般的なのだろうか。そう思ってニコに確認しようとするも、ニコからの返答はない。ニコはただ、俯いて手を握りしめているだけだ。
その反応に違和感を覚える中、壁を叩く音が急かすように響いている。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる