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騎士といえばのあれ
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「そういえば、ギルさんは馬を連れていないんですね。」
「馬?」
「騎士といえば、皆さん馬に乗っているものだと思っていましたが…。」
「メアリちゃん、それは夢見がちというか偏見というか…。まぁ騎士じゃなくたって、長距離移動することになるようなら誰だってほしいとは思うわなぁ。…あの有名で、指名手配されているような騎士様じゃなきゃな。」
「…あ。」
旅路の一幕。騎士様、正確には元騎士様、だが、名門騎士であったギルさんが徒歩で移動していることに少し疑問を持った。遠征地からここまで一人で移動してきて、領地へと帰る予定であったというし、移動距離がとんでもなく長いことは事前にわかっていたはず。…と思ったけど、そういえばこの人は本人だけでなく武器や装備、連れている馬まで有名人、いや有名馬だった。そんな馬を連れていると知れれば、即刻お縄となってしまうだろう。
「確か、きれいな葦毛の馬だって聞いてたけども?」
「あぁ。幼少期から共に過ごした。戦場を勇敢に駆け抜けるいい馬だった。」
「…だった。」
「槍を隠した時に別れたんだ。…俺とこのまま一緒に行動していても、満足の行く世話ができそうになかったからな。」
「ほー、てっきり食料にでもしちまったかと。」
「できるか!俺たちにとって、兄弟も同然なんだ。それに…。」
「それに?」
「…いや。とにかく、あの馬は勇敢で賢い。うまく生き抜くだろう。」
「ふーん。そんなに賢いお馬様なんだったら、一緒にいてくれたら心強かったんだけどなぁ。人数も増えて荷物も増えるし。」
「ぐ、軍馬を荷馬車のように使うのは、どうかと…。」
「あるものは何でも使わなきゃだめよー、メアリちゃん。ま、ここにいない馬の話をしても仕方がないってね。…なぁギル、遠征先から出てくるときに何かちょろまかしてきたりしなかったのか?旅に役立ちそうなもんとか、金目のもんとか。」
「ロランさん!」
「これから過酷な逃亡生活になるってのは分かってただろ?そんなときにお綺麗に振舞ってたって仕方がないのよ。な、なんか役に立ちそうなもんなかったのか?」
「…食糧なんかは、少々…。だが、荷物になりそうなものは全部置いてきたな。」
「その荷物になりそうなもんって中に、旅に必須の道具たちが含まれることに俺様驚き…。」
結局お前に大して期待はできないってことだな、とわざとらしく大きなため息をついて肩を落として見せるロランさん。指名手配されたとしても、長年連れ添った相棒たる愛馬を気にかけているというのは、個人的にはいいと思う。…現実は厳しいということも、当然あると思うが。
「…愛馬の名前って、何て言うんですか?」
「ノイシュだ。勇敢な戦士の名前らしくてな、共に戦場に立てるようにと名付けられた。」
「そうなんですね。」
ノイシュ。なんだか可愛らしい雰囲気を感じるけれど、戦士の名前かぁ…。戦場に向かうギルさんの相棒として、これ以上素敵な名前はないだろう。会ってみたかった気もするけれど、この状況ではギルさんも泣く泣く手放すしかなかったんだろうな。彼か彼女か、とにかく、ノイシュがどこかで元気にしていてくれればいいと思う。
懐かしそうに目を細めるギルさん、すでに興味がなくなっているのか地図を眺めてこれからの旅路を考えるロランさん。逃亡生活とは思えない穏やかな時間が流れる。少し日が暮れて夜の気配を感じるこの時間が、私は意外と嫌いではないようだ。
「馬?」
「騎士といえば、皆さん馬に乗っているものだと思っていましたが…。」
「メアリちゃん、それは夢見がちというか偏見というか…。まぁ騎士じゃなくたって、長距離移動することになるようなら誰だってほしいとは思うわなぁ。…あの有名で、指名手配されているような騎士様じゃなきゃな。」
「…あ。」
旅路の一幕。騎士様、正確には元騎士様、だが、名門騎士であったギルさんが徒歩で移動していることに少し疑問を持った。遠征地からここまで一人で移動してきて、領地へと帰る予定であったというし、移動距離がとんでもなく長いことは事前にわかっていたはず。…と思ったけど、そういえばこの人は本人だけでなく武器や装備、連れている馬まで有名人、いや有名馬だった。そんな馬を連れていると知れれば、即刻お縄となってしまうだろう。
「確か、きれいな葦毛の馬だって聞いてたけども?」
「あぁ。幼少期から共に過ごした。戦場を勇敢に駆け抜けるいい馬だった。」
「…だった。」
「槍を隠した時に別れたんだ。…俺とこのまま一緒に行動していても、満足の行く世話ができそうになかったからな。」
「ほー、てっきり食料にでもしちまったかと。」
「できるか!俺たちにとって、兄弟も同然なんだ。それに…。」
「それに?」
「…いや。とにかく、あの馬は勇敢で賢い。うまく生き抜くだろう。」
「ふーん。そんなに賢いお馬様なんだったら、一緒にいてくれたら心強かったんだけどなぁ。人数も増えて荷物も増えるし。」
「ぐ、軍馬を荷馬車のように使うのは、どうかと…。」
「あるものは何でも使わなきゃだめよー、メアリちゃん。ま、ここにいない馬の話をしても仕方がないってね。…なぁギル、遠征先から出てくるときに何かちょろまかしてきたりしなかったのか?旅に役立ちそうなもんとか、金目のもんとか。」
「ロランさん!」
「これから過酷な逃亡生活になるってのは分かってただろ?そんなときにお綺麗に振舞ってたって仕方がないのよ。な、なんか役に立ちそうなもんなかったのか?」
「…食糧なんかは、少々…。だが、荷物になりそうなものは全部置いてきたな。」
「その荷物になりそうなもんって中に、旅に必須の道具たちが含まれることに俺様驚き…。」
結局お前に大して期待はできないってことだな、とわざとらしく大きなため息をついて肩を落として見せるロランさん。指名手配されたとしても、長年連れ添った相棒たる愛馬を気にかけているというのは、個人的にはいいと思う。…現実は厳しいということも、当然あると思うが。
「…愛馬の名前って、何て言うんですか?」
「ノイシュだ。勇敢な戦士の名前らしくてな、共に戦場に立てるようにと名付けられた。」
「そうなんですね。」
ノイシュ。なんだか可愛らしい雰囲気を感じるけれど、戦士の名前かぁ…。戦場に向かうギルさんの相棒として、これ以上素敵な名前はないだろう。会ってみたかった気もするけれど、この状況ではギルさんも泣く泣く手放すしかなかったんだろうな。彼か彼女か、とにかく、ノイシュがどこかで元気にしていてくれればいいと思う。
懐かしそうに目を細めるギルさん、すでに興味がなくなっているのか地図を眺めてこれからの旅路を考えるロランさん。逃亡生活とは思えない穏やかな時間が流れる。少し日が暮れて夜の気配を感じるこの時間が、私は意外と嫌いではないようだ。
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