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旅は道連れ、世は情けなし
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腹ごしらえも済んで、私たちは今後について再確認することにした。
「ま、俺様は旅商人だから。行く先なんて気の向くままって感じなんだけど。ちなみに、メアリちゃんと出会った町へは布を仕入れに行こうとしてたのね。」
「…その節はどうも。」
「仕入れか…。確か、アルムだったか。あの町は小さい町だが、昔からいい腕の職人がいると聞く。」
「そ!あそこはいい布や刺しゅう、レースなんかが手に入るのよ。流行の最先端かって聞かれると微妙なところだけど、昔から晴れ着はアルムの布を使って作るって人も珍しくない。手堅く買い手がつくってわけ。」
「へぇ…。田舎町って印象しかなかったです。」
「まぁ町並みはね。職人の町だからか、昔ながらのもんを大切にする人が多いのよ。物だろうが考えだろうが、良くも悪くもね。まさしく職人気質ってやつ。」
俺様実はちょっと苦手、とため息をつくロランさん。仕入れとはいえ、そういった職人と交渉するのは大変なのだろうか。
「だが、そういった職人はどこへ行っても食うことに困らないだろうな。」
「それ相応の腕は必要だろうけどなぁ。確かに、技術や知識ってのは強い武器になる。お前もその知名度がなかったら、どこぞの金持ちの護衛にでも簡単になれただろうに。」
「…別にそういったことはしたいとは思わない。」
「今仕事選べる立場かね。」
技術や知識は、武器になる…。私はギルさんのように武器を振るって身を守ることはできないだろう。しかしそれでも自分の身を守れるようにならなくては、これからの旅は困難だ。私がここまで旅をしてこれたのは、運がよかったことと出会った人たちに恵まれていたにすぎない。私の武器。ここまで来れた道のりに、何かヒントがないだろうか。
「そういえばさ、これから3人で旅することになると、いろいろ物入りだと思うのよ。それ以外だって何があるか分からないし、路銀について相談したいんだけど。」
「…手持ちはあまり。」
「俺も。」
「いくら何でも、これから全部俺様にたかられても困るわけ。一見物資がたくさんあるように見えても、一応商品だし。ギル君は実家が名家だし、騎士として働いてただろうからわかるんだけど、メアリちゃんは?家から持ってきた分でやりくりしてたの?」
「いえ、急なことで持ち出してこれたのはあまりなくて。なので旅で出会った人に…。」
そこまで口にして、はたと気がつく。そうだ、私にはこれがあったじゃないか。
「…メアリちゃん?どうしたの?」
「ありました!私に提示できるもの!」
「へ?」
キョトンとした顔で私を見ているロランさんにびしりと指を突き付ける。アルムの町でいざこざがあったとはいえ、どうして忘れてしまっていたのだろうか。私の武器、両親との繋がりを。
「いったい何があったっていうんだ?」
「ギルさん言ったじゃないですか。技術や知識は武器になる。私にあるのはそれです!」
「へー?メアリちゃんは、何か特別なことができるんだ。」
「私自身はそうでもないと思うのですが…。私には薬剤の知識と調合の技術があります。それはこの旅で、お役に立てることだと思います!」
私は両親が研究者で医学者であったこともあり、小さい頃からそういった分野に触れてきたという自負がある。…子供の頃は、普通の家の子たちと話がかみ合わず落ち込んだり、寝る前に絵本を読んでもらうことにあこがれを持ったりしたものだが、今では大切な思い出でもある。両親は意図していなかっただろうが、いわゆる英才教育というものなのだろう。簡単な手伝いもしていたし、最近では研究内容や薬剤の管理、簡単な薬の調合なんかはすっかり私の仕事になっていた。…そう、あんなことになるまでは。
「…その腕って、信用できる?」
「ご両親は有名な医学者だ。一般知識程度ではないだろう。昔父親である博士から、娘が痛み止めを調合してプレゼントしてくれたと聞かされたことがある。博士は昔ケガをしたとかで、慢性的に足が痛いのだと。」
「ほー、それで必需品である痛み止めを。」
「娘であるという贔屓目があるとしても、効果も申し分なしと太鼓判だった。」
「ふーん…。」
「…それから。」
「それから?」
父からの話はどのようなものだったかは分からないが、ギルさんは全面的に納得してくれているようだ。問題はロランさんの方だ。ギルさんの場合は押し切られたと言っても過言ではないが、そもそも商人という人間はなかなかシビアな考えを持っているものだろう。自分の生活が懸かっているのだから当然だ。だからこそ、私は切り札を用意して向かわねばならない。
「私の特技、もう一つあるんです。」
「ま、俺様は旅商人だから。行く先なんて気の向くままって感じなんだけど。ちなみに、メアリちゃんと出会った町へは布を仕入れに行こうとしてたのね。」
「…その節はどうも。」
「仕入れか…。確か、アルムだったか。あの町は小さい町だが、昔からいい腕の職人がいると聞く。」
「そ!あそこはいい布や刺しゅう、レースなんかが手に入るのよ。流行の最先端かって聞かれると微妙なところだけど、昔から晴れ着はアルムの布を使って作るって人も珍しくない。手堅く買い手がつくってわけ。」
「へぇ…。田舎町って印象しかなかったです。」
「まぁ町並みはね。職人の町だからか、昔ながらのもんを大切にする人が多いのよ。物だろうが考えだろうが、良くも悪くもね。まさしく職人気質ってやつ。」
俺様実はちょっと苦手、とため息をつくロランさん。仕入れとはいえ、そういった職人と交渉するのは大変なのだろうか。
「だが、そういった職人はどこへ行っても食うことに困らないだろうな。」
「それ相応の腕は必要だろうけどなぁ。確かに、技術や知識ってのは強い武器になる。お前もその知名度がなかったら、どこぞの金持ちの護衛にでも簡単になれただろうに。」
「…別にそういったことはしたいとは思わない。」
「今仕事選べる立場かね。」
技術や知識は、武器になる…。私はギルさんのように武器を振るって身を守ることはできないだろう。しかしそれでも自分の身を守れるようにならなくては、これからの旅は困難だ。私がここまで旅をしてこれたのは、運がよかったことと出会った人たちに恵まれていたにすぎない。私の武器。ここまで来れた道のりに、何かヒントがないだろうか。
「そういえばさ、これから3人で旅することになると、いろいろ物入りだと思うのよ。それ以外だって何があるか分からないし、路銀について相談したいんだけど。」
「…手持ちはあまり。」
「俺も。」
「いくら何でも、これから全部俺様にたかられても困るわけ。一見物資がたくさんあるように見えても、一応商品だし。ギル君は実家が名家だし、騎士として働いてただろうからわかるんだけど、メアリちゃんは?家から持ってきた分でやりくりしてたの?」
「いえ、急なことで持ち出してこれたのはあまりなくて。なので旅で出会った人に…。」
そこまで口にして、はたと気がつく。そうだ、私にはこれがあったじゃないか。
「…メアリちゃん?どうしたの?」
「ありました!私に提示できるもの!」
「へ?」
キョトンとした顔で私を見ているロランさんにびしりと指を突き付ける。アルムの町でいざこざがあったとはいえ、どうして忘れてしまっていたのだろうか。私の武器、両親との繋がりを。
「いったい何があったっていうんだ?」
「ギルさん言ったじゃないですか。技術や知識は武器になる。私にあるのはそれです!」
「へー?メアリちゃんは、何か特別なことができるんだ。」
「私自身はそうでもないと思うのですが…。私には薬剤の知識と調合の技術があります。それはこの旅で、お役に立てることだと思います!」
私は両親が研究者で医学者であったこともあり、小さい頃からそういった分野に触れてきたという自負がある。…子供の頃は、普通の家の子たちと話がかみ合わず落ち込んだり、寝る前に絵本を読んでもらうことにあこがれを持ったりしたものだが、今では大切な思い出でもある。両親は意図していなかっただろうが、いわゆる英才教育というものなのだろう。簡単な手伝いもしていたし、最近では研究内容や薬剤の管理、簡単な薬の調合なんかはすっかり私の仕事になっていた。…そう、あんなことになるまでは。
「…その腕って、信用できる?」
「ご両親は有名な医学者だ。一般知識程度ではないだろう。昔父親である博士から、娘が痛み止めを調合してプレゼントしてくれたと聞かされたことがある。博士は昔ケガをしたとかで、慢性的に足が痛いのだと。」
「ほー、それで必需品である痛み止めを。」
「娘であるという贔屓目があるとしても、効果も申し分なしと太鼓判だった。」
「ふーん…。」
「…それから。」
「それから?」
父からの話はどのようなものだったかは分からないが、ギルさんは全面的に納得してくれているようだ。問題はロランさんの方だ。ギルさんの場合は押し切られたと言っても過言ではないが、そもそも商人という人間はなかなかシビアな考えを持っているものだろう。自分の生活が懸かっているのだから当然だ。だからこそ、私は切り札を用意して向かわねばならない。
「私の特技、もう一つあるんです。」
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