平和の狂気

ふくまめ

文字の大きさ
上 下
6 / 33

交渉②

しおりを挟む
「…交渉?」
「…何の話だ。」
「簡単な話よ。俺様と一緒に旅がしたいってんなら、俺様に何か得なことがないとね?」

あ、メアリちゃんはいいのよー、大歓迎!なんて言ってはいるが、つまり旅をするために対価を提示しろってことか…。私はすでに兵士からお金で助けてもらっているし、反論できる立場にないのかもしれない。でもその分支払おうにも、今まともに手持ちがないし…。

「さ、どうなのよ。俺様にお得な何か、提示できる?」
「…得か…。得なものは今のところ思いつかないな。」
「あらそう?んじゃ、今日限りでさようならってことで…。」
「だが、お前を仕留めることはさほど難しいことじゃない。」
「…は?」
「俺はお前とどうしても一緒に行動したいわけじゃない。お前の持っている道具も、お前を仕留めてから…。」
「もーいや!この脳筋野生児!暴力に物を言わせて解決しようとするんじゃないよ!交渉って言ってるでしょ、意味分かる!?」
「…。」
「黙って見つめるな、本気って感じが伝わってきてホント嫌。分かったよ、あんたはその腕っぷしが交渉材料ね!俺様ってばひどい目にあってばっかり…。」

しくしくと泣く振りをしているロランさんを黙って見つめているギルさん。そりゃ騎士として戦ってきた人からしてみれば、護身用の剣を一本携えた程度の旅商人を一人捻るくらい訳はないのだろうが…。それを交渉材料にするとは。…まさか本気で実行するつもりだった、なんてことはないだろう。そう信じたい。若干の不安を感じながらも、三人の食材を出し合って今晩の夕食を考える。案の定、というか、ロランさんが一番量も種類も多い。まぁ商品として持っているものもあるそうなので、節約できるに越したことはないだろう。日持ちしないものから先に消費できるように、整理も同時に行っておこう。

「…私、私も、何か渡せるものがあれば…。」
「んもー、メアリちゃんったら。女の子はいいの、野郎の場合は俺様の精神衛生上対価を支払ってもらうけど、女の子だったら大歓迎!」
「そういうわけには。このままだと、私はあなたに買われたという事実が残ってしまいます。」
「…。」

一通りの支度を終えて、揺れる火を見て私も何か渡せるものがないか考える。ここで何を提示できるかで、私とロランさんが対等になれるかどうかが決まる。…すでに一つ恩があると言われても、反論できない状態ではあるのだが。このまま、彼が取引した商品のように付いてくなんて、とんでもない。あの町で起きたことは、私にとって適当に流してはい終わり、なんてことにはできないのだ。私は誰の所有物にもならない。私の主人は、私自身だけ。

「…俺様結構適当なこと言ってたけどさ、正直、どうでもいいんだよね。ホントよ?あの時兵士どもに渡した金だって、袋の中身の大半は程よいサイズの石ころ詰めて渡したの。袋の上の方に金が見えるようにして、下の方は石。2袋渡しても大した痛手にゃなってないの。」
「…どうして。」

なぜそんなことをしたのだろう。ロランさんはギルさん以上に私に構う理由はないはず。むしろ旅商人なんて肩書を考えると、人の行き来や取り締まりを行っている兵士にはコネがあった方がいいはず。機嫌を損ねたりするのは不利益でしかない。あの場を収めるためとはいえ、かなり危険な橋だったことには違いないし…。

「言ったでしょー?俺様、女の子には優しいって。…それに、あーいった腐った野郎を見てると、吐き気がするもんでね。」
「…俺はお前をただの嫌な奴だと思っていたが、勘違いだったようだな。認識を改める。」
「おやおや、そーなのぉ?ここは年長者として敬ってもらっていいのよ?」
「…おっさんなのか。」
「お兄さん!だろうが!この考えなしの野蛮人が!頭に来たので今晩ギル君のスープの具は少なめに盛りまーす。」
「…悪かったよ。」

そう言いながら、ロランさんは焚火にかけられた鍋からスープをよそいだした。ギルさんに渡されたお椀は明らかに汁気が多い。というか、まだ煮始めてから時間が経っていないので、それまだ少し色がついただけのお湯ですよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...