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交渉
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「やれやれまったく、指名手配の人間2人と出くわしちまうなんて、俺様かわいそー。」
「「…。」」
何とも言えない出会いとともに、とりあえず危機は脱したと考える私。…なぜか3人で野宿の準備をしているのであった…。私、正確には両親に恩を感じているというギルバート様はとにかく、なぜこの怪しい男もまだ一緒に行動しているのかというと。
「2人ともまともな旅道具持ってないなんてなぁ。」
「…もともとそういった生活はしていませんでしたし、私の素性を知られるリスクを考えると気軽に買い物は…。」
「まぁお嬢さんの言い分はなんとなくわかるけど。…あんたの理由は納得いかねぇんだよなぁ。」
「何だ。俺は職業柄野営には慣れているから、道具は現地調達できる分で十分だ。」
「野生児かよ!あーぁ、憧れの騎士のギルバート様がこんな粗雑な人間だって知ったら、世の乙女たちは嘆き苦しむでしょうに。」
「むしろワイルドでステキ!ってなるかもしれませんよ。」
「まー世の中って理不尽!」
きぃーと指先を噛んで大げさに悔しがって見せる男に、つい笑いがこみ上げる。私たちは十分な野営道具がないため、背に腹は代えられないと何とか一緒に火を囲むくらいは、と相談してみたところ、心配をよそにあっさりと了承してくれたのだった。信頼する、というわけではないけれど、この男はそう毛嫌いしなくてもいい人間なのかもしれない。
「…さて、一通り準備も終わったことだし、本題に入るとしますか。」
「本題。」
「そう。まぁまずは自己紹介かね。俺様はロラン。親しみを込めて、ロラン君って呼んでね。しがない旅商人ってやつ。お嬢さんは?」
「私…私はメアリ。その、さっきの話の通り、医学博士のレイスは私の父です。なので、お尋ね者っていうのも本当です…。」
「俺はギルバート。」
「野郎は聞いてねーのよ。それで?メアリちゃんはどうしてあの町に?知り合いがいたとか?」
「…。」
「え?えっと…。」
名前が分からないのは不便だと、自己紹介を始めたのはいいのだが…。私の話は、うんうんと笑顔で頷きながら聞いているこのロランという男。ギルバート様がちょっとでも口を挟もうものなら、黙っていろと言わんばかりに発言を遮っている。…確かに出会いは最悪と言っていいかもしれないけど、さすがにこの態度はどうなのだろう。
「私はとにかく、兵士ができるだけ少ない地に行こうと…。ギルバート様は、どうして。」
「えー、野郎の話に興味ないんですけどー。」
「…俺は、停戦発表の時地方に遠征していてな。本隊との連絡がもたついている間に出てってやった。一度家がどうなっているか知りたいが、どうしたもんかと思っていたところだ。」
「そうなんですね…。」
「…今のところ、俺本人への処遇だけで家や兄妹たちへの処遇については聞こえてはこないが…。」
ギルバート様は昔から王家に仕える騎士の家系。いきなりお取り潰し、なんてことあり得るのだろうか…。確か、先代当主だったお父様が病気で早くに亡くなられて、お兄様が家督を継がれたはず。次男であるギルバート様は騎士として城に仕えることになったけど…。もう1人、妹君がおられたはず。彼女がどのように過ごしていたかは知らないけれど、普通に考えたら良家の嫡男との縁談とか、そういったことに勤しんでいたとすればかなり立場は悪くなったと言えるだろう。理不尽な仕打ちとはいえ、親族に指名手配されている人間がいるというのは、格式高い家柄であれば避けたいことだろうし。
「はいはい、そんじゃいったん確認するけど、メアリちゃんは逃げ延びてここまで来たと。んでギルの野郎はおうちに帰りたいがどうしたらいいかと途方に暮れていたと。」
「ちょっと、なんて失礼な…!」
「こう言っちゃなんだが、あんたは相当有名人だ。良くも悪くもな。その見た目で素直にギルバートなんて呼んじゃ、捕まえてくれって言ってるようなもんだぜ。ま、槍背負ってないだけましだけど。」
「槍…。」
そういえば、ギルバート様は凄腕の槍使いだって聞いたことがあるかも。しかし今の彼の装備は、軍で使われている鎧なんかではなく質素な服に剣が一振り。旅人か用心棒だと言われれば納得できそうな装いだ。
「槍はさすがに目立つからな。適当な泉に隠してきた。」
「槍はあんたの代名詞みたいなもんだしな、それがいいだろうぜ。」
「…確かに、お前の言うことはもっともだ。今後、俺のことはギルと呼んでくれ。…君も。」
「え、えっと…。じゃあ、ギル、様。」
「様付けも怪しまれるかもしれない。」
「じゃあ…ギルさん。」
「…それで頼む。ここからは、ただの旅の連れとしてくれると助かる。」
「ちょーっと!何勝手に同行する方向で話進めてんだよ。俺様とメアリちゃんは一緒なのは確実として、何であんたも一緒に行くことになんだよ。」
「…。」
「と、言いたいところだが…。事と次第によっちゃ、やぶさかじゃねぇなぁ。」
にやりと笑いながら、ロランさんは組んでいた薪に火をつける。太陽が沈んで夜がもうすぐそこまで来ている。火が大きく爆ぜる焚火を前に、ロランさんは揉み手をしながら腰を落ち着けた。
「ここからは、俺様の独壇場。さぁお2人さん、交渉といこうか。」
「「…。」」
何とも言えない出会いとともに、とりあえず危機は脱したと考える私。…なぜか3人で野宿の準備をしているのであった…。私、正確には両親に恩を感じているというギルバート様はとにかく、なぜこの怪しい男もまだ一緒に行動しているのかというと。
「2人ともまともな旅道具持ってないなんてなぁ。」
「…もともとそういった生活はしていませんでしたし、私の素性を知られるリスクを考えると気軽に買い物は…。」
「まぁお嬢さんの言い分はなんとなくわかるけど。…あんたの理由は納得いかねぇんだよなぁ。」
「何だ。俺は職業柄野営には慣れているから、道具は現地調達できる分で十分だ。」
「野生児かよ!あーぁ、憧れの騎士のギルバート様がこんな粗雑な人間だって知ったら、世の乙女たちは嘆き苦しむでしょうに。」
「むしろワイルドでステキ!ってなるかもしれませんよ。」
「まー世の中って理不尽!」
きぃーと指先を噛んで大げさに悔しがって見せる男に、つい笑いがこみ上げる。私たちは十分な野営道具がないため、背に腹は代えられないと何とか一緒に火を囲むくらいは、と相談してみたところ、心配をよそにあっさりと了承してくれたのだった。信頼する、というわけではないけれど、この男はそう毛嫌いしなくてもいい人間なのかもしれない。
「…さて、一通り準備も終わったことだし、本題に入るとしますか。」
「本題。」
「そう。まぁまずは自己紹介かね。俺様はロラン。親しみを込めて、ロラン君って呼んでね。しがない旅商人ってやつ。お嬢さんは?」
「私…私はメアリ。その、さっきの話の通り、医学博士のレイスは私の父です。なので、お尋ね者っていうのも本当です…。」
「俺はギルバート。」
「野郎は聞いてねーのよ。それで?メアリちゃんはどうしてあの町に?知り合いがいたとか?」
「…。」
「え?えっと…。」
名前が分からないのは不便だと、自己紹介を始めたのはいいのだが…。私の話は、うんうんと笑顔で頷きながら聞いているこのロランという男。ギルバート様がちょっとでも口を挟もうものなら、黙っていろと言わんばかりに発言を遮っている。…確かに出会いは最悪と言っていいかもしれないけど、さすがにこの態度はどうなのだろう。
「私はとにかく、兵士ができるだけ少ない地に行こうと…。ギルバート様は、どうして。」
「えー、野郎の話に興味ないんですけどー。」
「…俺は、停戦発表の時地方に遠征していてな。本隊との連絡がもたついている間に出てってやった。一度家がどうなっているか知りたいが、どうしたもんかと思っていたところだ。」
「そうなんですね…。」
「…今のところ、俺本人への処遇だけで家や兄妹たちへの処遇については聞こえてはこないが…。」
ギルバート様は昔から王家に仕える騎士の家系。いきなりお取り潰し、なんてことあり得るのだろうか…。確か、先代当主だったお父様が病気で早くに亡くなられて、お兄様が家督を継がれたはず。次男であるギルバート様は騎士として城に仕えることになったけど…。もう1人、妹君がおられたはず。彼女がどのように過ごしていたかは知らないけれど、普通に考えたら良家の嫡男との縁談とか、そういったことに勤しんでいたとすればかなり立場は悪くなったと言えるだろう。理不尽な仕打ちとはいえ、親族に指名手配されている人間がいるというのは、格式高い家柄であれば避けたいことだろうし。
「はいはい、そんじゃいったん確認するけど、メアリちゃんは逃げ延びてここまで来たと。んでギルの野郎はおうちに帰りたいがどうしたらいいかと途方に暮れていたと。」
「ちょっと、なんて失礼な…!」
「こう言っちゃなんだが、あんたは相当有名人だ。良くも悪くもな。その見た目で素直にギルバートなんて呼んじゃ、捕まえてくれって言ってるようなもんだぜ。ま、槍背負ってないだけましだけど。」
「槍…。」
そういえば、ギルバート様は凄腕の槍使いだって聞いたことがあるかも。しかし今の彼の装備は、軍で使われている鎧なんかではなく質素な服に剣が一振り。旅人か用心棒だと言われれば納得できそうな装いだ。
「槍はさすがに目立つからな。適当な泉に隠してきた。」
「槍はあんたの代名詞みたいなもんだしな、それがいいだろうぜ。」
「…確かに、お前の言うことはもっともだ。今後、俺のことはギルと呼んでくれ。…君も。」
「え、えっと…。じゃあ、ギル、様。」
「様付けも怪しまれるかもしれない。」
「じゃあ…ギルさん。」
「…それで頼む。ここからは、ただの旅の連れとしてくれると助かる。」
「ちょーっと!何勝手に同行する方向で話進めてんだよ。俺様とメアリちゃんは一緒なのは確実として、何であんたも一緒に行くことになんだよ。」
「…。」
「と、言いたいところだが…。事と次第によっちゃ、やぶさかじゃねぇなぁ。」
にやりと笑いながら、ロランさんは組んでいた薪に火をつける。太陽が沈んで夜がもうすぐそこまで来ている。火が大きく爆ぜる焚火を前に、ロランさんは揉み手をしながら腰を落ち着けた。
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