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出会い
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「…はいはい、それじゃお気をつけて。」
「はい。ありがとうございます、兵士さん。」
とある田舎町の入り口付近にて、数人の兵士が監視の目を光らせている。私にとっては、悪夢とも地獄の始まりとも言えるあの日。あの歴史的な停戦発表の日からほどなくして、あちこちで見られるようになった光景だ。戦争が終了となるのはいいことなのだろうが、そのためには処分される人間が存在している。平和のための代償。その人間を捕えるために、こうして兵士が配置されることになったのだ。まぁ、片田舎の監視なんて程度が知れている。落ち着いて、目立たないようにしていれば問題はない。その証拠に、町に入っていく人間を片っ端から検問するなんて面倒なことはせず、適当な人間に声をかけて軽い質問をしているだけのようだ。上着のフードをかぶって、疲れた旅人のように少し俯きがちに他の人間に紛れながら町の入口へ向かう。実際私は疲れ切っていたので、迫真の演技どころではなく、疑いようもないだろう。
「…ん?そこのお前、止まれ。」
「…。」
「そこのお前だ。」
「お、おらのことでしょうか?」
少し前を歩いていた若い女性が止められた。…手配書に載せられていた人たちとは似ていないように思えるが、どうやら話を聞かれることになるようだ。
「そうだ、こっちに来い。」
「は、はぃ…。」
「お前、この町に何の用があってきた。」
「おらは、この町のもんです。お父ちゃんがけがで…。代わりに配達に行ってきて、その帰りになります。」
「ほぅ、父親がけがか。それはさぞ大変だろう。」
「はぁ…。」
「どれ、俺たちが労ってやろう。こっちで少し休んでいきなさい。」
「え?いえ、おら早く家に戻らないと…。」
「まぁ遠慮するな!さぁこっちだ。」
兵士が笑顔を張り付けて女性に話しかけ、詰所へと連れて行こうとしている。声をかけられた女性は、なぜそんなことになるのか困惑しながらも、漠然とした不安と恐怖を感じ取っているのか引き攣った顔で断っている。それを耳に入れようともせず、兵士は女性の腕を掴む。近くにいる他の兵士たちも、ニヤニヤとこちらを見ているばかり。
ここの兵士どもは腐っている。
「レナ!レナ!!」
「お、お父ちゃん!」
思わず女性と兵士の間に入ろうと足を踏み出した瞬間、町の方からガタイのいい男性が誰かを探している声が聞こえた。それに女性が手を振って応える。どうやらあの男性が、けがをしたと話していた父親なのだろう。父親は娘の姿を確認すると、人混みをかき分けるようにして駆け寄ってきた。女性は安心した表情でほっと息をついている。
「レナ!何ともなかったか?こんな状況で町の外に行かせるなんて…。苦労かけたな。」
「ううん。それよりもお父ちゃん、けがはもういいの?」
「あぁ、お前が代わりに仕事してくれたおかげだ!もうすっかり良くなった。…どうかしたのか?」
父親の仕事がなんなのかは分からないが、町の外に出てまで自分の代わりに仕事をしてくれたことに感謝しているようだ。満面の笑みで娘の帰りを喜んでいたが、ふと兵士に引き留められているこの状況に気がついたのか、怪訝そうな表情で娘に声をかける。途端に女性は暗い表情で目を伏せ、兵士たちは明らかに動揺し始める。
「それが…。」
「いやー、お父様ですか?女性一人で町の外から来られるものですから、声をかけたんですよ。話を伺ったらけがをした父親の代わりをしているというではないですか!私はもう感動してしまいまして、はい。思わず長話をしてしまいましてねぇ。お嬢さん引き留めて悪かったね、早く帰って休むといい。お父様もお大事になさってくださいね。道中お気をつけて!」
「は、はぁ…。」
「…行こう、お父ちゃん。」
よく回る舌だ。親子の話を断ち切るように、一方的に話を進めて強制的に帰らせる。女性は蒸し返したくもないのだろう。冷ややかな目で兵士を見ながら、家に帰るよう父親を促す。兵士の追及を許さないような勢いに困惑している様子ではあるものの、親子は促されるまま帰路に就く。その後姿を確認して、兵士たちは肩の力を抜く。思わぬ父親の出現に、ビビってしまったのだろう。やっていることは最低だし、何とも間抜けな奴らだ。信用もなにもあったものじゃない。
この親子の一悶着があったおかげで、滞りがちだった人の流れが再び進みだす。皆兵士の行いを目にしていたから、関わりあいたくないとばかりにさらに目を伏せがちになる。この状況であれば、私が俯いているのも目立つことはないだろう。好都合だ。
「…そこの者、止まれ!」
「っ!」
思わず肩がびくりと跳ね上がる。声を上げた兵士の方を静かに窺う。視線は私の方を向いている。周りで反応を返す者はいない。兵士が歩いてくる。
私だ。
私の方に、来る。
「おいどうした。」
「さっきは逃げられちまったからなぁ。代わりだよ、代わり。」
「懲りねぇな、お前。さっきは厳つい親父にビビってたくせに。」
「うるせぇよ!おめぇらにおこぼれなんてないからな。」
「へへ、そこまで言ってねぇだろ?」
「っていうか、こいつ女か?」
「今まで何人見てきたと思ってんだ?俺の目に狂いはねぇ。…お嬢さん、顔見せてくれるかい?」
さっきの今でまた通行人に声をかけたことに呆れながら、周りの兵士たちが寄ってくる。口々に下世話なことを話しているので、途中から思考することに意識を集中させる。どうする。どうすれば切り抜けられる?
「はい。ありがとうございます、兵士さん。」
とある田舎町の入り口付近にて、数人の兵士が監視の目を光らせている。私にとっては、悪夢とも地獄の始まりとも言えるあの日。あの歴史的な停戦発表の日からほどなくして、あちこちで見られるようになった光景だ。戦争が終了となるのはいいことなのだろうが、そのためには処分される人間が存在している。平和のための代償。その人間を捕えるために、こうして兵士が配置されることになったのだ。まぁ、片田舎の監視なんて程度が知れている。落ち着いて、目立たないようにしていれば問題はない。その証拠に、町に入っていく人間を片っ端から検問するなんて面倒なことはせず、適当な人間に声をかけて軽い質問をしているだけのようだ。上着のフードをかぶって、疲れた旅人のように少し俯きがちに他の人間に紛れながら町の入口へ向かう。実際私は疲れ切っていたので、迫真の演技どころではなく、疑いようもないだろう。
「…ん?そこのお前、止まれ。」
「…。」
「そこのお前だ。」
「お、おらのことでしょうか?」
少し前を歩いていた若い女性が止められた。…手配書に載せられていた人たちとは似ていないように思えるが、どうやら話を聞かれることになるようだ。
「そうだ、こっちに来い。」
「は、はぃ…。」
「お前、この町に何の用があってきた。」
「おらは、この町のもんです。お父ちゃんがけがで…。代わりに配達に行ってきて、その帰りになります。」
「ほぅ、父親がけがか。それはさぞ大変だろう。」
「はぁ…。」
「どれ、俺たちが労ってやろう。こっちで少し休んでいきなさい。」
「え?いえ、おら早く家に戻らないと…。」
「まぁ遠慮するな!さぁこっちだ。」
兵士が笑顔を張り付けて女性に話しかけ、詰所へと連れて行こうとしている。声をかけられた女性は、なぜそんなことになるのか困惑しながらも、漠然とした不安と恐怖を感じ取っているのか引き攣った顔で断っている。それを耳に入れようともせず、兵士は女性の腕を掴む。近くにいる他の兵士たちも、ニヤニヤとこちらを見ているばかり。
ここの兵士どもは腐っている。
「レナ!レナ!!」
「お、お父ちゃん!」
思わず女性と兵士の間に入ろうと足を踏み出した瞬間、町の方からガタイのいい男性が誰かを探している声が聞こえた。それに女性が手を振って応える。どうやらあの男性が、けがをしたと話していた父親なのだろう。父親は娘の姿を確認すると、人混みをかき分けるようにして駆け寄ってきた。女性は安心した表情でほっと息をついている。
「レナ!何ともなかったか?こんな状況で町の外に行かせるなんて…。苦労かけたな。」
「ううん。それよりもお父ちゃん、けがはもういいの?」
「あぁ、お前が代わりに仕事してくれたおかげだ!もうすっかり良くなった。…どうかしたのか?」
父親の仕事がなんなのかは分からないが、町の外に出てまで自分の代わりに仕事をしてくれたことに感謝しているようだ。満面の笑みで娘の帰りを喜んでいたが、ふと兵士に引き留められているこの状況に気がついたのか、怪訝そうな表情で娘に声をかける。途端に女性は暗い表情で目を伏せ、兵士たちは明らかに動揺し始める。
「それが…。」
「いやー、お父様ですか?女性一人で町の外から来られるものですから、声をかけたんですよ。話を伺ったらけがをした父親の代わりをしているというではないですか!私はもう感動してしまいまして、はい。思わず長話をしてしまいましてねぇ。お嬢さん引き留めて悪かったね、早く帰って休むといい。お父様もお大事になさってくださいね。道中お気をつけて!」
「は、はぁ…。」
「…行こう、お父ちゃん。」
よく回る舌だ。親子の話を断ち切るように、一方的に話を進めて強制的に帰らせる。女性は蒸し返したくもないのだろう。冷ややかな目で兵士を見ながら、家に帰るよう父親を促す。兵士の追及を許さないような勢いに困惑している様子ではあるものの、親子は促されるまま帰路に就く。その後姿を確認して、兵士たちは肩の力を抜く。思わぬ父親の出現に、ビビってしまったのだろう。やっていることは最低だし、何とも間抜けな奴らだ。信用もなにもあったものじゃない。
この親子の一悶着があったおかげで、滞りがちだった人の流れが再び進みだす。皆兵士の行いを目にしていたから、関わりあいたくないとばかりにさらに目を伏せがちになる。この状況であれば、私が俯いているのも目立つことはないだろう。好都合だ。
「…そこの者、止まれ!」
「っ!」
思わず肩がびくりと跳ね上がる。声を上げた兵士の方を静かに窺う。視線は私の方を向いている。周りで反応を返す者はいない。兵士が歩いてくる。
私だ。
私の方に、来る。
「おいどうした。」
「さっきは逃げられちまったからなぁ。代わりだよ、代わり。」
「懲りねぇな、お前。さっきは厳つい親父にビビってたくせに。」
「うるせぇよ!おめぇらにおこぼれなんてないからな。」
「へへ、そこまで言ってねぇだろ?」
「っていうか、こいつ女か?」
「今まで何人見てきたと思ってんだ?俺の目に狂いはねぇ。…お嬢さん、顔見せてくれるかい?」
さっきの今でまた通行人に声をかけたことに呆れながら、周りの兵士たちが寄ってくる。口々に下世話なことを話しているので、途中から思考することに意識を集中させる。どうする。どうすれば切り抜けられる?
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