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恋する乙女は最強!
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「いぃぃやってられるかぁああぁあ~~!!!」
乙女の朝は早い。
ウィルの独断行動についての知らせを受けてから2日目の朝。
自室の窓を開け放ち、「夕日のバカヤロー!」の如く朝日に向かって悪態をついてみた。
ふん、すっきりしたわ。
「ユ、ユイ?朝早くに何して…。というか、大丈夫なの?その、いろいろと。」
「おはようお母さん!気持ちのいい朝ね!昨日まともにご飯食べてないからお腹空いちゃった。朝ごはん何?」
「…卵サンドとサラダ、キノコスープだけど。」
「やった!コーヒー淹れるね!」
朝早くから大声を出している娘を心配したのか、お母さんが部屋の外から声をかけてくる。
昨日部屋から出なかったから、余計に心配かけちゃってるのね…。
本当は、そんなにお腹が空いている感覚はない。でもこれから動くためには栄養取っておかないと!
気合いを入れて部屋からリビングへと向かう。
すでにテーブルについていたお父さんも、心配そうに見ている。大丈夫、私はいつも通り!
「…ユイ、その…。ウィル君のことなんだが。」
「…何?」
「…しばらく休みにしてほしいって言われて、お父さんが許可を出したんだ。
でも、この間王子たちから魔獣退治の参加申請をしているって聞いて…。
すまなかった、俺のせいだ。休む理由をもう少し聞いていれば、こんなことには…。」
「何言ってるのよお父さん。休む理由なんて、いちいち聞かないわよ。それが普通!
…起きてしまったことを後悔するのは簡単。でも、その時その時違和感に気づくなんてできっこない。
それに!ウィル本人が決めたことなんだもの。周りの人間が悪く思うなんて必要ないわ。
本人にガツンと言ってやらなきゃ!」
こんなにお店が忙しいってのに人手が足りないなんてやってられないし、
私たちに何も言わずに申請しに行ったってこともムカつくし、あとそれから…。
ウィルに言ってやりたい文句を指折り数えながら挙げていく私を見て、お父さんは困ったように笑う。
私を追いかけてきたお母さんも、全員分の朝ご飯を用意してテーブルに並べてくれる。
私の席に置かれた卵サンドには少し多めに卵が挟んであった。
「おはよう2人とも!今日も頑張るわよ!」
「お、おはよう、ユイさん。」
「…おー。」
「気の抜けた返事ね!まるで日向でお腹を出して寝ているワンコのような気の抜け方よ!
もっと気合を入れなさい!」
「どんな例えだよ。」
1日街を見なかっただけでも、人出はかなり多くなっている。
その大部分はきっと冒険者だろう。鎧を着こんでいたり、武器を携えたりしている人が多い。
そしてその冒険者を相手にしようとする行商人も、たくさんこの街を出入りしているに違いない。
普段であれば商売敵になるわけだけど、今回に限ってはこの状況を生かさない手はないわ。
そして何より、こんなに人が多いということは、必要な冒険者の数を満たすのも時間の問題だということよね。
「…昨日何も動かなかったのは痛いわね。私のせいだわ、ごめんなさい。
でもしおらしく謝ったところで状況は変わらないわ!今日で挽回できるように全力を尽くす!行きましょう!」
「無理しなくていいんだぜ?オレたちでできる部分は…。」
「馬鹿言わないで!私たち全員でやることに意味があるのよ。
魔獣を倒しに行く冒険者全員を支援する!それが私たちにできる協力の形なんだから。
少しでも作戦に集中して取り組めるように、環境を整える。私たちの人脈を使えば可能なはず…。」
「ぼ、僕には!ユイさんが、無理しているように、見えるよ…。」
「今ここで頑張れば、作戦が完了したときに協力した人間として大きい顔ができるでしょう?
そしたら…、そしたら、ウィルの奴が帰って来た時にガツンと言ってやるのよ!」
私たちを置いて勝手に行ったこと、後悔させてやるんだから!
そう吠えるように意気込んでいる私を見て「…心配して損した」とレイは呆れている。
アレックスはいつものように困ったように笑っていた。
「…それで?オレたちの行動としては変更はねぇよな。」
「えぇ。作戦指揮を執る王子たちからの了承を得ることができれば、実行に移すわ。
…問題はタイミングと、現場で混乱が起きないかどうかといったところだけど…。」
「そ、そこに関しては、僕たちじゃ判断つかないもんね…。」
「…結局のところ、私たちもいざ作戦が始まったら、できることなんてほとんどないのよね。
だから私たちの戦場はここ!作戦までの下準備期間が私たちの戦いの場よ。」
「ま、魔獣相手となると、いくら準備しても、し過ぎってことはないからね…。」
「だがよ、本当にこれでいいのか?素人目に見ても、なかなかタイミングが難しいと思うけどな。
もしうまくはまらなかったら、オレたちに責任が来ることは間違いないぜ。」
「弱気なこと言わないでよレイ。女は度胸って言うじゃない!」
「そりゃ『男は度胸、女は愛嬌』じゃねーか…?」
レイの指摘は聞こえなかったふりをする。
いいのよ別に。要は気合いの問題なんだから!
「い、今の世の中、女の人の方が、思い切りがいいかもしれないね…。」
「…恋する乙女は最強ってか。はあぁぁ~。」
腹くくるしかねーか、とレイは深いため息をついている。
「今の私たちの働きが、魔獣退治が成功するか否かを左右すると思って取り掛かりましょう、解散!」
号令をかけると同時に、私たちはそれぞれの持ち場へと向かっていった。
レイは骨つき肉、アレックスは魔女の一撃、私はすずらんへ。
作戦開始まで残された時間は少ない。少しも時間を無駄にすることはできないわ。
乙女の朝は早い。
ウィルの独断行動についての知らせを受けてから2日目の朝。
自室の窓を開け放ち、「夕日のバカヤロー!」の如く朝日に向かって悪態をついてみた。
ふん、すっきりしたわ。
「ユ、ユイ?朝早くに何して…。というか、大丈夫なの?その、いろいろと。」
「おはようお母さん!気持ちのいい朝ね!昨日まともにご飯食べてないからお腹空いちゃった。朝ごはん何?」
「…卵サンドとサラダ、キノコスープだけど。」
「やった!コーヒー淹れるね!」
朝早くから大声を出している娘を心配したのか、お母さんが部屋の外から声をかけてくる。
昨日部屋から出なかったから、余計に心配かけちゃってるのね…。
本当は、そんなにお腹が空いている感覚はない。でもこれから動くためには栄養取っておかないと!
気合いを入れて部屋からリビングへと向かう。
すでにテーブルについていたお父さんも、心配そうに見ている。大丈夫、私はいつも通り!
「…ユイ、その…。ウィル君のことなんだが。」
「…何?」
「…しばらく休みにしてほしいって言われて、お父さんが許可を出したんだ。
でも、この間王子たちから魔獣退治の参加申請をしているって聞いて…。
すまなかった、俺のせいだ。休む理由をもう少し聞いていれば、こんなことには…。」
「何言ってるのよお父さん。休む理由なんて、いちいち聞かないわよ。それが普通!
…起きてしまったことを後悔するのは簡単。でも、その時その時違和感に気づくなんてできっこない。
それに!ウィル本人が決めたことなんだもの。周りの人間が悪く思うなんて必要ないわ。
本人にガツンと言ってやらなきゃ!」
こんなにお店が忙しいってのに人手が足りないなんてやってられないし、
私たちに何も言わずに申請しに行ったってこともムカつくし、あとそれから…。
ウィルに言ってやりたい文句を指折り数えながら挙げていく私を見て、お父さんは困ったように笑う。
私を追いかけてきたお母さんも、全員分の朝ご飯を用意してテーブルに並べてくれる。
私の席に置かれた卵サンドには少し多めに卵が挟んであった。
「おはよう2人とも!今日も頑張るわよ!」
「お、おはよう、ユイさん。」
「…おー。」
「気の抜けた返事ね!まるで日向でお腹を出して寝ているワンコのような気の抜け方よ!
もっと気合を入れなさい!」
「どんな例えだよ。」
1日街を見なかっただけでも、人出はかなり多くなっている。
その大部分はきっと冒険者だろう。鎧を着こんでいたり、武器を携えたりしている人が多い。
そしてその冒険者を相手にしようとする行商人も、たくさんこの街を出入りしているに違いない。
普段であれば商売敵になるわけだけど、今回に限ってはこの状況を生かさない手はないわ。
そして何より、こんなに人が多いということは、必要な冒険者の数を満たすのも時間の問題だということよね。
「…昨日何も動かなかったのは痛いわね。私のせいだわ、ごめんなさい。
でもしおらしく謝ったところで状況は変わらないわ!今日で挽回できるように全力を尽くす!行きましょう!」
「無理しなくていいんだぜ?オレたちでできる部分は…。」
「馬鹿言わないで!私たち全員でやることに意味があるのよ。
魔獣を倒しに行く冒険者全員を支援する!それが私たちにできる協力の形なんだから。
少しでも作戦に集中して取り組めるように、環境を整える。私たちの人脈を使えば可能なはず…。」
「ぼ、僕には!ユイさんが、無理しているように、見えるよ…。」
「今ここで頑張れば、作戦が完了したときに協力した人間として大きい顔ができるでしょう?
そしたら…、そしたら、ウィルの奴が帰って来た時にガツンと言ってやるのよ!」
私たちを置いて勝手に行ったこと、後悔させてやるんだから!
そう吠えるように意気込んでいる私を見て「…心配して損した」とレイは呆れている。
アレックスはいつものように困ったように笑っていた。
「…それで?オレたちの行動としては変更はねぇよな。」
「えぇ。作戦指揮を執る王子たちからの了承を得ることができれば、実行に移すわ。
…問題はタイミングと、現場で混乱が起きないかどうかといったところだけど…。」
「そ、そこに関しては、僕たちじゃ判断つかないもんね…。」
「…結局のところ、私たちもいざ作戦が始まったら、できることなんてほとんどないのよね。
だから私たちの戦場はここ!作戦までの下準備期間が私たちの戦いの場よ。」
「ま、魔獣相手となると、いくら準備しても、し過ぎってことはないからね…。」
「だがよ、本当にこれでいいのか?素人目に見ても、なかなかタイミングが難しいと思うけどな。
もしうまくはまらなかったら、オレたちに責任が来ることは間違いないぜ。」
「弱気なこと言わないでよレイ。女は度胸って言うじゃない!」
「そりゃ『男は度胸、女は愛嬌』じゃねーか…?」
レイの指摘は聞こえなかったふりをする。
いいのよ別に。要は気合いの問題なんだから!
「い、今の世の中、女の人の方が、思い切りがいいかもしれないね…。」
「…恋する乙女は最強ってか。はあぁぁ~。」
腹くくるしかねーか、とレイは深いため息をついている。
「今の私たちの働きが、魔獣退治が成功するか否かを左右すると思って取り掛かりましょう、解散!」
号令をかけると同時に、私たちはそれぞれの持ち場へと向かっていった。
レイは骨つき肉、アレックスは魔女の一撃、私はすずらんへ。
作戦開始まで残された時間は少ない。少しも時間を無駄にすることはできないわ。
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