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事情を説明いただけますでしょうか?

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「何だっていうのよ…。レイの奴。」
「レイにも何か考えがあったんだとは思うけど…。」

レイの態度に少しイラつきつつ、小さく愚痴をこぼしてしまう。
同じ故郷で過ごしてきたウィルも、今回ばかりは苦笑するしかないようだ。
それにしても!あの男の態度には腹が立つわね!
呼び出しておいて、行ったら行ったで人数が多いなんて…。何様よ!
こうなったら非の打ちどころのないような説明して、堂々と帰ってやるわ!

「こちらになります。」
「…ありがとうございます。」

とはいえ、いざ謁見の間に来ると緊張するわね…。
こんな大きな扉くぐったことないんだけど。え、こんな大きさにする必要ある?
私開けられるかしら。あ、開けてくださるのね、ありがとうございます…。
兵士の方々が静かに開けてくれた扉をそろそろとくぐると、広い部屋の奥に数人の姿が見える。
できるだけ平静を装って近づいていく。

「…失礼いたします、国王陛下。」
「うむ。おぬしが、最近街で噂の何でも屋か。」
「は…。代表をしております、ユイです。」

どんな噂がお城に届いているか知らないけれど、恐らく私たちのことでしょうね。
その噂を聞いて、私たちを呼び出したと。

「噂では、あなた方の下に様々な依頼が寄せられるとか…。この話に相違ないですかな?」
「はい、その通りです。」
「その中に、この国を揺るがすような内容のものが含まれている。そのような可能性はありませんか?」
「そ、そんなことありません!」
「ではご説明いただきたい。あなた方は、いったい何のため、このような活動をなさっているので?」

王様の隣に控えているのは、いわゆる宰相、というやつだろうか。
片眼鏡をかけた嫌味そうな男だ。
この城には印象が悪い奴しかいないのだろうか。王様以外。
王様はその丸っこいフォルムで巷で人気があり、国王様ならぬ「丸王様」って呼ばれている。豆知識。

「私たちは、ただこの街で提供されている様々なサービスがより良いものになればと…。
 生活している人たちの悩みが解決できるよう、話を伺っていただけです!」
「ふむ…。悩みの解決、のう。」
「しかし本来であれば、国民の苦情や不満は城に来るようになっているはず。
 その中でなぜあなた方はこのような動きに踏み出したのです?よもや国の対応に不満があったと?」
「違います!私たちは、自分たちでできることは、自分で解決できるようにと…。」

何この宰相。初めから話聞く気ないんじゃないの…?
私はただ、街の皆で協力し合えば、いろんな課題を乗り越えられると思って…。

「…お言葉ですが。」
「何です?というか、何ものですかあなた。」
「俺は元々、魔獣退治をしようとこの街に来た冒険者で、ウィルと言います。
 もう2人、同じ故郷からこの街に来た奴らがいて。
 3人で装備を整えようと、ユイさんの家が経営しているお店にお世話になっていたんです。」
「つまりお客だったわけですな。そんなあなたがなぜ一緒にいるのです?付き添いですか。」
「…俺、いえ俺たちは、ユイさんの考えに賛同して一緒に活動しています。
 ただの付き添いなんかじゃなく、一緒に活動している仲間です。」
「ウィル…。」

宰相の詰問に押されつつあった私の肩をウィルが軽く叩く。
宰相の小ばかにしたような言い方にも、冷静に、それでいて力強く返してくれる。
そうだ、私は1人で来たわけじゃない。深呼吸して気持ちを整える。

「お恥ずかしい話ですが、私たちがこの活動を開始した当初、大それた目標なんかはなくて。
 ただ皆で問題を解決するために協力できたらいいなって、そんな考えだったんです。」
「何を言うかと思えば、そんなままごとみたいな…。」
「そんなことでも!少しずつ街の皆が助け合っていくようになってきているんです。」
「騙されませんよ。その裏で、住民たちが怪しいやり取りでもしているんでしょう。
 何せ、どんな相談内容でも、無償で、解決のために動いているようですからねぇ。そうでしょう。」

だから違うっての!何度同じこと言わせるつもりよ!
大体、そんなこと疑うってんなら呼び出したりなんかせずに、
今までの依頼書を提出させるなり家探しするなりしたらいいのよ。
まさか、この宰相は最初から私たちの話を聞く気なんてなくて、国賊としての疑惑を押し付けようとしてる…?

「まったく、人の弱みに付け込んで、その裏で何を企んでいるのやら…。
 国民全員が疲弊している時に、何てことを…。」
「ですから!私たちは、そのようなことはしておりません!」
「もうよい。」
「…国王陛下。もうよい、とは…?」
「宰相、おぬしの話は分かった。この国をひどく憂いていることもな。
 しかし今日、わしはこの者たちの話を聞きたいと思って時間を設けたのだ。少し下がっておれ。」
「…は。」
「すまなんだな、こちらが呼び出しておいて。この者も悪気はないのだ。」
「はい…。」

王様、助け舟出しておいてもらって何だけど、絶対その人悪気があるわ!むしろ悪気しかない!
優しいお人だけど、人の悪意に鈍感なのかしら…。疑うことをしないというか…。

「まずは、わしらがどうしておぬしたちの話を聞こうと思ったのか、その話からしようかの。
 ちと長くなるが、聞いてくれるか。」

王様に言われて静かになった宰相が、冷ややかな視線でこちらを睨んでいる。
許されるなら話を聞かずに帰りたいもんだけど、無理なんですよね、はい。
長丁場になることを覚悟し、ため息を押し殺して頷いた。
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