8 / 40
灯台下暗し、ならぬ入口下暗し!
しおりを挟む
「まぁそれはいいよ、じいさん。昨日色々教えてくれてありがとな。
1日中話に付き合ったから8割ぐらいどうでもいい話だったけど。」
「かー!これだから若いもんは!先人の話は、全部ありがたい話に決まっとろうが!
特に昨日話した、わしの初恋の話。
あれはこれからのお前の人生を明るく照らしてくれる、道しるべになるような話じゃっただろ!」
「どこがだよ。
その女の子はじいさんのほくろが気になって見てただけなのに、じいさんが勘違いしただけの話だっただろ。」
「違うんじゃって!それはそれであの子の役に立ってたんじゃ!
大事なところはそこじゃないって言ったのに、なんでそこに注目するんじゃ!」
…思ってたよりも、どうでもよさそうな話みたいね。おじいさんの甘酸っぱい恋バナなんて興味ないし。
それに1日付き合ってたレイは随分と根気強いというか、暇というか…。
ということは、私たちの報告会に来なかったのっておじいさんの話に付き合っていたから?
そんな理由で来なかったやつに、わざわざ声をかける必要はないわね。
さっさとチラシを貼ってすずらんに帰らないと。
今日のチラシには、希望箱の情報も書かせてもらったし、これを見た人が興味を持ってくれるはず!
チラシを貼る手にも力が入る。今度はちゃんと要望が届きますように!
「…今日の入りはどうかしら、アレックス。」
「ぼ、僕の方は、何もなかったよ…。イタズラみたいな手紙も、入ってなかった…。」
「そう…。ウィルは?」
「希望箱に関して聞いてくる人はいたけど、結局何も入れてはいかなかったよ。」
「今日もゼロ、ということね…。」
本日の報告会もため息をこらえることができない。
チラシに希望箱の情報を掲載したことで、興味を持ってくれる人はチラホラ出てくるようになった。
しかし肝心の中身がともなっていなかった。
もう少し粘れば結果がついてくるのだろうか。これまでいい反応がなかったのに?
何か新しい手段を取らないといけないのに、今日もレイは参加していない。
何してんのよ。もしかして、もうこの計画から手を引いてしまったのかしら…。
「おいおい、なんて湿っぽい雰囲気だよ。」
「レイ!」
「ど、どこ行ってたんだよ…!み、皆で何とかして、いい方法考えないと…!」
「分かった分かった、皆まで言うな。まずはこれを見てもらおうか。」
芝居がかったようにやれやれと首をすくめると、レイは私たちが囲んでいるテーブルに何か投げてよこした。
見たところ、紙の束、切れ端かしら?
…これ、もしかして。
「今日届いた要望書だよ。」
「…レイ!お前ってやつは!」
「す、すごいよ…!ざっと見ただけで、5,6通ある…!」
「ちょっと待ちなさい。落ち着いて。最初届いた手紙がイタズラめいたものだったことを忘れたのかしら?
…中身を、確認しないと…。」
浮つく気持ちを抑えながら1通手に取ってみる。
ウィルとアレックスも固唾を飲んで中身を注視している。
レイは自信があるのか腕を組んだままニヤニヤとこちらを見ている。ムカつく顔だわ。
「…『お母さんにはお薬がいるんだ。でもその薬に必要な薬草が手に入らなくて、助けてほしいです。』
これは…イタズラ、じゃないわよね?」
「本物だぜ。確認もしたんだ。」
「誰に?差出人?」
「これから説明するさ。」
レイがどかりとイスに座って状況を説明し始める。
まずは、私たちに「好きに動く」と宣言した時までさかのぼる。
あの時点で、レイは次の一手になりうる方法を思いついていたというのだ。
「オレたちがしている活動って、つまりは困りごとはないかかき集めるってことだろ?」
「そうだね。」
「考えてみろ。肉料理ガッツリ食うやつが、誰かの助けがほしいくらいの悩みを抱えていると思うか?
オレだったら真っ暗な部屋の中に閉じこもって、頭抱えて過ごすね。」
「…結構な偏見があることは否めないけど、言いたいことは分かるわ。」
「そこでオレは考えた。悩んでいるやつが通う店や場所はないかって。」
なるほど。単純に人が多く出入りしている場所じゃなく、どんな人が通っているかを考えたわけね。
悩み事がある人は、希望箱に意識が向きやすいかもしれない。そういうことね。
「オレが悩むときって言うのは、病気やけがをした時だ。
ほっといて治すには時間がかかるし、薬を使おうにも俺にはそういった知識はないからな。」
「知識がないのはわざわざ言わなくたって分かるわよ。」
「茶々挟むなって。病気や薬についてよく分かんないのは誰だってそうだろ。
そんな時は、知識がある人間に相談するだろ?何とかしてくれないかって。」
「…確かに。」
「オレたちは特にこの街じゃ新参者だ。
薬を買おうにも、どこに行けばいいのか分からねぇ。
そこで、街の入り口にいたじいさんのこと、憶えてるか?」
「あぁ、この街についていろいろ教えてくれたおじいさんか。」
「あ、あのおじいさんのおかげで、骨つき肉に行って、おいしいご飯食べられたんだよね。
こ、このすずらんに来たのも、そのおじいさんにおススメされたからなんだ。」
知らなかった。
確かに、この街は決して狭い街ではない。
装備を扱う店を探したら、うちだけではなく何店もある。食事処なんてもっと多い。
おじいさん、うちのお店を紹介してくれていたんだ。
そして、この3人はそれに耳を傾けて来てくれていたんだ。
無駄なこと、しているわけじゃなかったんだ。
1日中話に付き合ったから8割ぐらいどうでもいい話だったけど。」
「かー!これだから若いもんは!先人の話は、全部ありがたい話に決まっとろうが!
特に昨日話した、わしの初恋の話。
あれはこれからのお前の人生を明るく照らしてくれる、道しるべになるような話じゃっただろ!」
「どこがだよ。
その女の子はじいさんのほくろが気になって見てただけなのに、じいさんが勘違いしただけの話だっただろ。」
「違うんじゃって!それはそれであの子の役に立ってたんじゃ!
大事なところはそこじゃないって言ったのに、なんでそこに注目するんじゃ!」
…思ってたよりも、どうでもよさそうな話みたいね。おじいさんの甘酸っぱい恋バナなんて興味ないし。
それに1日付き合ってたレイは随分と根気強いというか、暇というか…。
ということは、私たちの報告会に来なかったのっておじいさんの話に付き合っていたから?
そんな理由で来なかったやつに、わざわざ声をかける必要はないわね。
さっさとチラシを貼ってすずらんに帰らないと。
今日のチラシには、希望箱の情報も書かせてもらったし、これを見た人が興味を持ってくれるはず!
チラシを貼る手にも力が入る。今度はちゃんと要望が届きますように!
「…今日の入りはどうかしら、アレックス。」
「ぼ、僕の方は、何もなかったよ…。イタズラみたいな手紙も、入ってなかった…。」
「そう…。ウィルは?」
「希望箱に関して聞いてくる人はいたけど、結局何も入れてはいかなかったよ。」
「今日もゼロ、ということね…。」
本日の報告会もため息をこらえることができない。
チラシに希望箱の情報を掲載したことで、興味を持ってくれる人はチラホラ出てくるようになった。
しかし肝心の中身がともなっていなかった。
もう少し粘れば結果がついてくるのだろうか。これまでいい反応がなかったのに?
何か新しい手段を取らないといけないのに、今日もレイは参加していない。
何してんのよ。もしかして、もうこの計画から手を引いてしまったのかしら…。
「おいおい、なんて湿っぽい雰囲気だよ。」
「レイ!」
「ど、どこ行ってたんだよ…!み、皆で何とかして、いい方法考えないと…!」
「分かった分かった、皆まで言うな。まずはこれを見てもらおうか。」
芝居がかったようにやれやれと首をすくめると、レイは私たちが囲んでいるテーブルに何か投げてよこした。
見たところ、紙の束、切れ端かしら?
…これ、もしかして。
「今日届いた要望書だよ。」
「…レイ!お前ってやつは!」
「す、すごいよ…!ざっと見ただけで、5,6通ある…!」
「ちょっと待ちなさい。落ち着いて。最初届いた手紙がイタズラめいたものだったことを忘れたのかしら?
…中身を、確認しないと…。」
浮つく気持ちを抑えながら1通手に取ってみる。
ウィルとアレックスも固唾を飲んで中身を注視している。
レイは自信があるのか腕を組んだままニヤニヤとこちらを見ている。ムカつく顔だわ。
「…『お母さんにはお薬がいるんだ。でもその薬に必要な薬草が手に入らなくて、助けてほしいです。』
これは…イタズラ、じゃないわよね?」
「本物だぜ。確認もしたんだ。」
「誰に?差出人?」
「これから説明するさ。」
レイがどかりとイスに座って状況を説明し始める。
まずは、私たちに「好きに動く」と宣言した時までさかのぼる。
あの時点で、レイは次の一手になりうる方法を思いついていたというのだ。
「オレたちがしている活動って、つまりは困りごとはないかかき集めるってことだろ?」
「そうだね。」
「考えてみろ。肉料理ガッツリ食うやつが、誰かの助けがほしいくらいの悩みを抱えていると思うか?
オレだったら真っ暗な部屋の中に閉じこもって、頭抱えて過ごすね。」
「…結構な偏見があることは否めないけど、言いたいことは分かるわ。」
「そこでオレは考えた。悩んでいるやつが通う店や場所はないかって。」
なるほど。単純に人が多く出入りしている場所じゃなく、どんな人が通っているかを考えたわけね。
悩み事がある人は、希望箱に意識が向きやすいかもしれない。そういうことね。
「オレが悩むときって言うのは、病気やけがをした時だ。
ほっといて治すには時間がかかるし、薬を使おうにも俺にはそういった知識はないからな。」
「知識がないのはわざわざ言わなくたって分かるわよ。」
「茶々挟むなって。病気や薬についてよく分かんないのは誰だってそうだろ。
そんな時は、知識がある人間に相談するだろ?何とかしてくれないかって。」
「…確かに。」
「オレたちは特にこの街じゃ新参者だ。
薬を買おうにも、どこに行けばいいのか分からねぇ。
そこで、街の入り口にいたじいさんのこと、憶えてるか?」
「あぁ、この街についていろいろ教えてくれたおじいさんか。」
「あ、あのおじいさんのおかげで、骨つき肉に行って、おいしいご飯食べられたんだよね。
こ、このすずらんに来たのも、そのおじいさんにおススメされたからなんだ。」
知らなかった。
確かに、この街は決して狭い街ではない。
装備を扱う店を探したら、うちだけではなく何店もある。食事処なんてもっと多い。
おじいさん、うちのお店を紹介してくれていたんだ。
そして、この3人はそれに耳を傾けて来てくれていたんだ。
無駄なこと、しているわけじゃなかったんだ。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。


いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です
渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。
愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。
そんな生活に耐えかねたマーガレットは…
結末は見方によって色々系だと思います。
なろうにも同じものを掲載しています。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる