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灯台下暗し、ならぬ入口下暗し!
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「まぁそれはいいよ、じいさん。昨日色々教えてくれてありがとな。
1日中話に付き合ったから8割ぐらいどうでもいい話だったけど。」
「かー!これだから若いもんは!先人の話は、全部ありがたい話に決まっとろうが!
特に昨日話した、わしの初恋の話。
あれはこれからのお前の人生を明るく照らしてくれる、道しるべになるような話じゃっただろ!」
「どこがだよ。
その女の子はじいさんのほくろが気になって見てただけなのに、じいさんが勘違いしただけの話だっただろ。」
「違うんじゃって!それはそれであの子の役に立ってたんじゃ!
大事なところはそこじゃないって言ったのに、なんでそこに注目するんじゃ!」
…思ってたよりも、どうでもよさそうな話みたいね。おじいさんの甘酸っぱい恋バナなんて興味ないし。
それに1日付き合ってたレイは随分と根気強いというか、暇というか…。
ということは、私たちの報告会に来なかったのっておじいさんの話に付き合っていたから?
そんな理由で来なかったやつに、わざわざ声をかける必要はないわね。
さっさとチラシを貼ってすずらんに帰らないと。
今日のチラシには、希望箱の情報も書かせてもらったし、これを見た人が興味を持ってくれるはず!
チラシを貼る手にも力が入る。今度はちゃんと要望が届きますように!
「…今日の入りはどうかしら、アレックス。」
「ぼ、僕の方は、何もなかったよ…。イタズラみたいな手紙も、入ってなかった…。」
「そう…。ウィルは?」
「希望箱に関して聞いてくる人はいたけど、結局何も入れてはいかなかったよ。」
「今日もゼロ、ということね…。」
本日の報告会もため息をこらえることができない。
チラシに希望箱の情報を掲載したことで、興味を持ってくれる人はチラホラ出てくるようになった。
しかし肝心の中身がともなっていなかった。
もう少し粘れば結果がついてくるのだろうか。これまでいい反応がなかったのに?
何か新しい手段を取らないといけないのに、今日もレイは参加していない。
何してんのよ。もしかして、もうこの計画から手を引いてしまったのかしら…。
「おいおい、なんて湿っぽい雰囲気だよ。」
「レイ!」
「ど、どこ行ってたんだよ…!み、皆で何とかして、いい方法考えないと…!」
「分かった分かった、皆まで言うな。まずはこれを見てもらおうか。」
芝居がかったようにやれやれと首をすくめると、レイは私たちが囲んでいるテーブルに何か投げてよこした。
見たところ、紙の束、切れ端かしら?
…これ、もしかして。
「今日届いた要望書だよ。」
「…レイ!お前ってやつは!」
「す、すごいよ…!ざっと見ただけで、5,6通ある…!」
「ちょっと待ちなさい。落ち着いて。最初届いた手紙がイタズラめいたものだったことを忘れたのかしら?
…中身を、確認しないと…。」
浮つく気持ちを抑えながら1通手に取ってみる。
ウィルとアレックスも固唾を飲んで中身を注視している。
レイは自信があるのか腕を組んだままニヤニヤとこちらを見ている。ムカつく顔だわ。
「…『お母さんにはお薬がいるんだ。でもその薬に必要な薬草が手に入らなくて、助けてほしいです。』
これは…イタズラ、じゃないわよね?」
「本物だぜ。確認もしたんだ。」
「誰に?差出人?」
「これから説明するさ。」
レイがどかりとイスに座って状況を説明し始める。
まずは、私たちに「好きに動く」と宣言した時までさかのぼる。
あの時点で、レイは次の一手になりうる方法を思いついていたというのだ。
「オレたちがしている活動って、つまりは困りごとはないかかき集めるってことだろ?」
「そうだね。」
「考えてみろ。肉料理ガッツリ食うやつが、誰かの助けがほしいくらいの悩みを抱えていると思うか?
オレだったら真っ暗な部屋の中に閉じこもって、頭抱えて過ごすね。」
「…結構な偏見があることは否めないけど、言いたいことは分かるわ。」
「そこでオレは考えた。悩んでいるやつが通う店や場所はないかって。」
なるほど。単純に人が多く出入りしている場所じゃなく、どんな人が通っているかを考えたわけね。
悩み事がある人は、希望箱に意識が向きやすいかもしれない。そういうことね。
「オレが悩むときって言うのは、病気やけがをした時だ。
ほっといて治すには時間がかかるし、薬を使おうにも俺にはそういった知識はないからな。」
「知識がないのはわざわざ言わなくたって分かるわよ。」
「茶々挟むなって。病気や薬についてよく分かんないのは誰だってそうだろ。
そんな時は、知識がある人間に相談するだろ?何とかしてくれないかって。」
「…確かに。」
「オレたちは特にこの街じゃ新参者だ。
薬を買おうにも、どこに行けばいいのか分からねぇ。
そこで、街の入り口にいたじいさんのこと、憶えてるか?」
「あぁ、この街についていろいろ教えてくれたおじいさんか。」
「あ、あのおじいさんのおかげで、骨つき肉に行って、おいしいご飯食べられたんだよね。
こ、このすずらんに来たのも、そのおじいさんにおススメされたからなんだ。」
知らなかった。
確かに、この街は決して狭い街ではない。
装備を扱う店を探したら、うちだけではなく何店もある。食事処なんてもっと多い。
おじいさん、うちのお店を紹介してくれていたんだ。
そして、この3人はそれに耳を傾けて来てくれていたんだ。
無駄なこと、しているわけじゃなかったんだ。
1日中話に付き合ったから8割ぐらいどうでもいい話だったけど。」
「かー!これだから若いもんは!先人の話は、全部ありがたい話に決まっとろうが!
特に昨日話した、わしの初恋の話。
あれはこれからのお前の人生を明るく照らしてくれる、道しるべになるような話じゃっただろ!」
「どこがだよ。
その女の子はじいさんのほくろが気になって見てただけなのに、じいさんが勘違いしただけの話だっただろ。」
「違うんじゃって!それはそれであの子の役に立ってたんじゃ!
大事なところはそこじゃないって言ったのに、なんでそこに注目するんじゃ!」
…思ってたよりも、どうでもよさそうな話みたいね。おじいさんの甘酸っぱい恋バナなんて興味ないし。
それに1日付き合ってたレイは随分と根気強いというか、暇というか…。
ということは、私たちの報告会に来なかったのっておじいさんの話に付き合っていたから?
そんな理由で来なかったやつに、わざわざ声をかける必要はないわね。
さっさとチラシを貼ってすずらんに帰らないと。
今日のチラシには、希望箱の情報も書かせてもらったし、これを見た人が興味を持ってくれるはず!
チラシを貼る手にも力が入る。今度はちゃんと要望が届きますように!
「…今日の入りはどうかしら、アレックス。」
「ぼ、僕の方は、何もなかったよ…。イタズラみたいな手紙も、入ってなかった…。」
「そう…。ウィルは?」
「希望箱に関して聞いてくる人はいたけど、結局何も入れてはいかなかったよ。」
「今日もゼロ、ということね…。」
本日の報告会もため息をこらえることができない。
チラシに希望箱の情報を掲載したことで、興味を持ってくれる人はチラホラ出てくるようになった。
しかし肝心の中身がともなっていなかった。
もう少し粘れば結果がついてくるのだろうか。これまでいい反応がなかったのに?
何か新しい手段を取らないといけないのに、今日もレイは参加していない。
何してんのよ。もしかして、もうこの計画から手を引いてしまったのかしら…。
「おいおい、なんて湿っぽい雰囲気だよ。」
「レイ!」
「ど、どこ行ってたんだよ…!み、皆で何とかして、いい方法考えないと…!」
「分かった分かった、皆まで言うな。まずはこれを見てもらおうか。」
芝居がかったようにやれやれと首をすくめると、レイは私たちが囲んでいるテーブルに何か投げてよこした。
見たところ、紙の束、切れ端かしら?
…これ、もしかして。
「今日届いた要望書だよ。」
「…レイ!お前ってやつは!」
「す、すごいよ…!ざっと見ただけで、5,6通ある…!」
「ちょっと待ちなさい。落ち着いて。最初届いた手紙がイタズラめいたものだったことを忘れたのかしら?
…中身を、確認しないと…。」
浮つく気持ちを抑えながら1通手に取ってみる。
ウィルとアレックスも固唾を飲んで中身を注視している。
レイは自信があるのか腕を組んだままニヤニヤとこちらを見ている。ムカつく顔だわ。
「…『お母さんにはお薬がいるんだ。でもその薬に必要な薬草が手に入らなくて、助けてほしいです。』
これは…イタズラ、じゃないわよね?」
「本物だぜ。確認もしたんだ。」
「誰に?差出人?」
「これから説明するさ。」
レイがどかりとイスに座って状況を説明し始める。
まずは、私たちに「好きに動く」と宣言した時までさかのぼる。
あの時点で、レイは次の一手になりうる方法を思いついていたというのだ。
「オレたちがしている活動って、つまりは困りごとはないかかき集めるってことだろ?」
「そうだね。」
「考えてみろ。肉料理ガッツリ食うやつが、誰かの助けがほしいくらいの悩みを抱えていると思うか?
オレだったら真っ暗な部屋の中に閉じこもって、頭抱えて過ごすね。」
「…結構な偏見があることは否めないけど、言いたいことは分かるわ。」
「そこでオレは考えた。悩んでいるやつが通う店や場所はないかって。」
なるほど。単純に人が多く出入りしている場所じゃなく、どんな人が通っているかを考えたわけね。
悩み事がある人は、希望箱に意識が向きやすいかもしれない。そういうことね。
「オレが悩むときって言うのは、病気やけがをした時だ。
ほっといて治すには時間がかかるし、薬を使おうにも俺にはそういった知識はないからな。」
「知識がないのはわざわざ言わなくたって分かるわよ。」
「茶々挟むなって。病気や薬についてよく分かんないのは誰だってそうだろ。
そんな時は、知識がある人間に相談するだろ?何とかしてくれないかって。」
「…確かに。」
「オレたちは特にこの街じゃ新参者だ。
薬を買おうにも、どこに行けばいいのか分からねぇ。
そこで、街の入り口にいたじいさんのこと、憶えてるか?」
「あぁ、この街についていろいろ教えてくれたおじいさんか。」
「あ、あのおじいさんのおかげで、骨つき肉に行って、おいしいご飯食べられたんだよね。
こ、このすずらんに来たのも、そのおじいさんにおススメされたからなんだ。」
知らなかった。
確かに、この街は決して狭い街ではない。
装備を扱う店を探したら、うちだけではなく何店もある。食事処なんてもっと多い。
おじいさん、うちのお店を紹介してくれていたんだ。
そして、この3人はそれに耳を傾けて来てくれていたんだ。
無駄なこと、しているわけじゃなかったんだ。
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