上 下
46 / 50
第四話 百鬼夜行とあやかし縁結び

12.

しおりを挟む

「問題はここからどうするかじゃな」

 杏飴を半分以上食べたところで、キヨさんが足をぷらぷらさせながら天を仰いだ。

「あやかし縁日を隅から隅まで探すといっても、相手がちっこいシーサーだからな。ニャン吾郎の奴みたいなトラブルメーカーならいざ知らず、これは結構骨が折れるぞ」

「わても知り合いの妖怪には声を掛けるようしてますけど、いまんとこ無駄骨ですわ」

 ソースの付いた指をぺろりと舐めて、ヌエさんも同意する。ちなみにキュウ助も、前を通る小さき妖怪たちに片っ端から声を掛けてくれているけど、マイマイさんの目撃情報は得られていない。

「ああ、我が愛しのマイマイ! 君はいま、いずこに!!」

 悲壮な声をあげるヌムヌムだけど、そのお腹はたこ焼きによってまん丸に膨れている。「よく言うわ」と私が呆れたその時、狐月さんがみんなに顔を向けた。

「妖怪相撲の会場に行ってみるのはどうかな?」

「え、相撲??」

 私とキヨさん、そしてヌムヌムの3人はきょとんと顔を見合わせる。けれどもヌエさんだけは、ぽんと手を打った。

「なるほど! そこなら、マイマイはんと会えるかもしれへんな」

「待て、ひとりで納得するな。どういうことじゃ?」

「きゅう!」

 キヨさんとキュウ助の抗議を受けて、狐月さんが私にもわかるよう説明してくれる。

「妖怪相撲はあやかし縁日の目玉イベントで、腕に覚えのある妖怪たちが競う、いわば力自慢大会なんだ」

「しかし、我が愛しのマイマイは、ワタクシとそう変わらぬ小さき焼き物の付喪神です。そのようなものに、マイマイが出席するとは思えませぬが」

「大将が言いましたやろ。この縁日の目玉やと。参加者はもちろんやけど、観客もぎょうさん集まるんや。それこそ、古今東西さまざまな場所の妖怪がな」

「そっか! 沖縄の妖怪を探しているマイマイさんも、たくさんの観客が集まる妖怪相撲に来るかもしれない!」

「そういうこと」

 よく出来ましたと、狐月さんは笑顔で頷いた。

 そうと決まれば話は早い。私たちはさっそく妖怪相撲が催されている、宿町で一番の大宿へと向かった。

 近づくだけで、大会の熱気がものすごいことがわかる。乱れ飛ぶ歓声を聞きながら到着すると、会場はまるで円形闘技場だ。ぐるりと取り囲むたくさんの観客に見下ろされながら、出場者は中央の土俵で取組を行うらしい。

 勝負がついて大歓声が巻き起こる中、私たちのすぐ近くで素っ頓狂な声が響いた。

あるじ! それにスズまで!?」

「コン吉パイセン! わあ、元気でしたか!」

 懐かしいその声は、最近は式神業で大忙しのコン吉先輩だ。ここしばらくは私自身、試験期間でバイトを減らしていたので、先輩と会うのもすごくひさしぶりな気がする。

 きゃっきゃとはしゃぐ私に、コン吉先輩は「元気でしたか?じゃ、ねえよ!」と勢いよく突っ込んだ。

「なんで人間のお前があやかし縁日に来てんだ!?」

「コン吉パイセンこそ、ここで何してるんです? 普通に遊びに来たんですか??」

「ちっげえよ! 俺は仕事で……」

「どうした、コン吉?」

 コン吉先輩が言いかけた時、妖怪たちの間を割って、今度は陰陽師スタイルの響紀さんが姿を見せる。コン吉先輩同様、響紀さんも私を見て目を丸くした。

「水無瀬さん? 君がどうしてここに?」

「僕が連れてきたんだ」

 代表して、狐月さんがこれまでの経緯を説明してくれる。すべてを聞き終えたところで、響紀さんとコン吉先輩は同時に「うーむ」と考え込んだ。

「沖縄の妖怪か……。それっぽいのは何人かいたけどさ」

「シーサーの付喪神……は、俺は見かけなかったぞ」

「そうですか……」

 私たちは肩を落とした。本当にいないのか。それとも小さすぎて見つからないのか。どちらかわからないけど、やはり捜索は一筋縄じゃいかなそうだ。

 ちなみに響紀さんとコン吉先輩は、あやかし縁日の見回りをしているらしい。なんでも、お祭りで羽目を外し、勢いそのまま現世になだれ込む妖怪が毎年何人かでるそうだ。それで陰陽師の家柄が代表者を出して、警戒にあたるという。

「それでいったら、ヌエ。お前も昔、先代にこってりしぼられた口だったよなあ?」

「はて。どうでしたやろ。わて、過去は振り返らない主義やからなあ」

「とぼけんな! お前がノリと勢いで百鬼夜行ひらくから、爺さん毎回頭の血管ブチ切れそうで大変だったんだぞ!」

 ぎゃあぎゃあ怒るコン吉先輩に、ヌエさんがへらりと笑う。――飄々としているけれど、ヌエさんは比較的まともそうに見えるので、なんというか意外だ。まあ、仲の良い妖怪のひとりにトラブルメーカー・ニャン吾郎さんがいるので、その時点でお察しかもしれないけど。

「すまない、想太。俺たちがもっと注意深く、小さき妖怪たちにも気を配っていれば……」

「いや。騒ぎを起こすのは大抵、たぬきか化け猫、あとはハグレ天狗だけだもの。響紀たちのせいじゃないよ」

「だけど、どうすんだ? こんなちっこい妖怪、この広い縁日で地道に探すのか?」

「うーん」

「きゅう……」

 私たちは再び、天を仰いで考え込む。その時、わあああと歓声が上がるのをBGMに、ヌムヌムがぽそりと呟いた。

「ワタクシが雄々しき大妖怪なら、相撲大会に出場して注目を集め、我が愛しきマイマイに呼びかけるんですがなあ」

「…………」

 みんな一様に黙り込む。一拍置いて、私と狐月さん以外の全員が「それだ(や)!」と手を打った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。 「別れよう。」 その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。 飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。 「男ならキスの先をは期待させないとな。」 「俺とこの先・・・してみない?」 「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」 私の身は持つの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。 ※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

離縁の脅威、恐怖の日々

月食ぱんな
恋愛
貴族同士は結婚して三年。二人の間に子が出来なければ離縁、もしくは夫が愛人を持つ事が許されている。そんな中、公爵家に嫁いで結婚四年目。二十歳になったリディアは子どもが出来す、離縁に怯えていた。夫であるフェリクスは昔と変わらず、リディアに優しく接してくれているように見える。けれど彼のちょっとした言動が、「完璧な妻ではない」と、まるで自分を責めているように思えてしまい、リディアはどんどん病んでいくのであった。題名はホラーですがほのぼのです。 ※物語の設定上、不妊に悩む女性に対し、心無い発言に思われる部分もあるかと思います。フィクションだと割り切ってお読み頂けると幸いです。 ※なろう様、ノベマ!様でも掲載中です。

此処は讃岐の国の麺処あやかし屋〜幽霊と呼ばれた末娘と牛鬼の倅〜

蓮恭
キャラ文芸
 ――此処はかつての讃岐の国。そこに、古くから信仰の地として人々を見守って来た場所がある。  弘法大師が開いた真言密教の五大色にちなみ、青黄赤白黒の名を冠した五峰の山々。その一つ青峰山の近くでは、牛鬼と呼ばれるあやかしが人や家畜を襲い、村を荒らしていたという。  やがて困り果てた領主が依頼した山田蔵人という弓の名手によって、牛鬼は退治されたのだった。  青峰山にある麺処あやかし屋は、いつも大勢の客で賑わう人気の讃岐うどん店だ。  ただし、客は各地から集まるあやかし達ばかり。  早くに親を失い、あやかし達に育てられた店主の遠夜は、いつの間にやら随分と卑屈な性格となっていた。  それでも、たった一人で店を切り盛りする遠夜を心配したあやかしの常連客達が思い付いたのは、「看板娘を連れて来る事」。  幽霊と呼ばれ虐げられていた心優しい村娘と、自己肯定感低めの牛鬼の倅。あやかし達によって出会った二人の恋の行く末は……?      

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

春花国の式神姫

石田空
キャラ文芸
春花国の藤花姫は、幼少期に呪われたことがきっかけで、成人と同時に出家が決まっていた。 ところが出家当日に突然体から魂が抜かれてしまい、式神に魂を移されてしまう。 「愛しておりますよ、姫様」 「人を拉致監禁したどの口でそれを言ってますか!?」 春花国で起こっている不可解な事象解決のため、急遽春花国の凄腕陰陽師の晦の式神として傍付きにされてしまった。 藤花姫の呪いの真相は? この国で起こっている事象とは? そしてこの変人陰陽師と出家決定姫に果たして恋が生まれるのか? 和風ファンタジー。 ・サイトより転載になります。

処理中です...