上 下
119 / 169
第5章  追憶

伯爵

しおりを挟む
 二日後の昼。祝勝会が開催された。
 早朝から魔導師達が花火を空に打ち上げ、王都はお祭り騒ぎとなった。
 数万の群衆がひしめいて、王都や城壁の外で酒を飲み、ご馳走をあじわう。酒も食事も全て王家が無償で提供したものだ。
 
 王都の郊外に、ナギ、セドナ、勇者エヴァンゼリン、大魔導師アンリエッタ、槍聖クラウディアの姿があった。
 全員、正装して馬に乗っている。
 彼らの周囲には着飾ったヘルベティア王国の騎士団が整列している。
 
  なぜ、ナギ達が郊外にいるかというと、パレードのためだ。
 これから各国の騎士団とともに正門から城内に入り、大通りを騎行する。そして、英雄であるナギ達の姿を大通りを埋め尽くす民衆に見せるのだ。
「我々は十二罪劫王に勝利し、魔神軍を退けた!」
 という事実を喧伝し、国民の士気を高めるのが狙いである。
 それは重要であるし、ナギ達も率先して参加した。
 パレードの後は王城に入り、豪勢なパーティーが深夜まで続く予定になっている。

「ご馳走が楽しみだな」
 
 エヴァンゼリンが、馬の首を撫でながら言う。

「食い気が先かい?」
 
 ナギが問うと、エヴァンゼリンは苦笑した。

「正直に言うとボクはあんまりパレードやパーティーが好きじゃなくてね。パーティーではなるべく酒と食事を楽しんで、他のことはしないようにしている」
「それは賢いな」
 
 ナギは肩を竦めて同意した。ナギもパーティーなんて何をすれば良いのか分からない。

「それにしても圧巻の光景ですね。どの騎士団も綺麗です」
 
 セドナが楽しそうに周囲の騎士団を見る。全て、閲覧用の鎧兜で武装しているため、非常に外見が美しい。

「確かに見るだけの価値はあるな」
 
 とナギも各国の騎士団達を見る。
 地球でも各国の軍隊が、軍事パレードを行う。特にヨーロッパではパリなどの大都市で、世界中の軍隊がパレードを行うが、あれと同じで煌びやかで、見ていて楽しい。
 参加している騎士達も戦闘ではなく、お披露目なのでどこか楽しそうだ。
  ふいに新たな騎士団が参列した。
 同時に、感嘆の声が上がる。
 ナギは白い鎧兜で武装した一際美しい騎士団を見た。

「強いな……」
 
 ナギは無意識に呟いた。
 その白い鎧兜の騎士団は一目で強いと分かった。
 一人一人の騎士の実力が並外れている。統制も整い、指揮系統が強いのが一目で分かる。

「……グランディア帝国のカイン皇子率いる不死隊(ウルス・ラグナ)……」
 
 大魔導師アンリエッタが、抑揚のない声で言う。

「大陸最強と謳われる騎士団だ。総数はわずか三千だが、全員が一騎当千の精鋭揃い。十万の兵に匹敵すると言われている」
 
 槍聖クラウディアが説明する。

「なにせ『戦神(せんしん)カイン』が、騎士団長だからね。強い筈さ」
 
 エヴァンゼリンが、灰色の瞳をカイン皇子に向ける。
 ナギもカイン皇子に視線を投じた。
 不死隊の先頭にいるカイン皇子は白い鎧兜で武装していた。
 金髪碧眼の美男子で年齢は二十歳前後。身長は百八十センチほどだろう。

(『戦神カイン』か。確かによく鍛錬している)
  
 カイン皇子の所作を見れば武芸をよく修めているのが一目で分かる。
 ふいにカイン皇子の視線がナギと合う。
 カイン皇子はナギと目が合うと分かると、微笑して礼儀正しく頭を下げた。
 ナギも礼儀正しく頭を垂れて返礼する。

「皇子なのに俺に頭を下げるなんてな……」
 
 ナギは意外そうに言った。

「戦神カイン皇子は、温厚篤実な人格者として有名だ。実際、非常に良い方だぞ」
 
 クラウディアが、なぜか自慢気に言う。

「皇族、王族がああいう御方ばかりだと、世の中うまく行くでしょうね」
 
 セドナが微苦笑して言うと、ナギ達は苦笑した。
 全員、まったくその通りだと思った。 



  やがて、パレードが開始された。
 先頭はナギ、セドナ、勇者エヴァンゼリン、大魔導師アンリエッタ、槍聖クラウディアである。
 正門を通り、大通りを騎行すると群衆は熱狂的に英雄たるナギ達に歓声をあげた。
 
 ナギはぎこちなく手を振り、セドナは頬を染めて俯いた。
 エヴァンゼリン、クラウディアは慣れており手を振り笑顔で群衆に答える。アンリエッタのみは無言で人形のように微動だにせずに馬を歩ませる。
 怒濤の如き歓声は、カイン皇子率いる不死隊にも届いた。
 カイン皇子は皇族らしく、上品な笑顔で民衆に答え、特に若い女性は熱狂し気絶するものすらいた。

(大したもんだな。ハリウッドスターみたいだ)
 
 ナギはカイン皇子を見て感心した。
  カイン皇子に対して妬心を覚えないのは彼の人格が良いからだろう。

(出来れば少し話してみたいな。味方にできれば頼もしそうだ)
 
 ナギは手綱を握りながら思った。
 

 

 王城に入ると最上階で豪華なパーティーが開催された。
 パーティーの前にナギ達は全員着替えた。衣装を担当する職人や侍女が、ナギ達に見合った服を作成しており、それを来て出席した。

 パーティーは昼の部と夜の部で別れており、夜の部でもまたお色直しをするように言われた。

 「どうぞ、夜のお色直しを楽しみになさって下さい」
 
 と服飾専門の職人が請け負った。
 王城の最上階の会場では酒と美食が溢れていた。
 エヴァンゼリン、アンリエッタ、クラウディアはすぐに貴族達に囲まれた。
 ナギとセドナも貴婦人方に取り囲まれた。

「本当にナギ様はお強いですわね」
「そうよ。ナギ様は一人で罪劫王を百人倒したのよ」
「それに一年前には百万の魔神軍を単騎で倒されたんでしょう? その時の話を聞かせて下さいませ」 
 
 いつの間にか誇張された噂が蔓延しているらしい。
 ナギは心中で苦笑しつつ、愛想笑いに努めた。ナギを包囲する貴婦人は美女揃いだったが、二十人以上の美少女、美女に囲まれると嬉しいよりも当惑する。

「セドナ様はエルフですのね!」
「綺麗ですわ。こんな美しい御方はじめて見ました!」
「まるで天使のようです!」
「妹に欲しいわ!」
  
 セドナの周りにも貴族のご令嬢が集まり、セドナの美貌を褒めそやす。全員がセドナの信じがたい程の美しさに酔い、口々にセドナの美貌を絶賛する。
 セドナはどう答えれば良いか分からず、頬を染めて俯き、それがまた愛らしくて令嬢達は騒ぎ出す。
 パーティー開始から一時間後、儀仗兵が美声を響かせた。

「ヘルベティア王国国王イシュトヴァーン国王陛下、並びにパンドラ王女殿下ご入来!」
 
 会場にいる列席者達が一様に静まる。
 会場の上にある閲覧席にイシュトヴァーン王とパンドラ王女が現れた。
 全員が頭を垂れ、ナギとセドナも軽く頭を下げる。

「くわえて、グランディア帝国皇帝カアスタミア陛下、アーヴァング王国国王マクシミリアン陛下、エスガロス王国国王アルミナス陛下、オルファング王国国王イーバル三世陛下、ご入来!」
 
 儀仗兵の美声と同時に、皇帝と三人の王達が閲覧席に現れる。
 静まりかえった会場に、イシュトヴァーン王の声が響く。

「本日、この場にて予は心より感謝したい。よくぞ、このヘルベティア王国の危機にかけつけてくれた。信義と武勇をそなえた同盟者たる諸卿らへの報恩の思いを予は永遠に忘れぬであろう」
 
 イシュトヴァーン王はそう述べて、同盟者たる皇帝や三人の王達、そして援軍として駆けつけれてくれた将兵を賛美した。
 そして、罪劫王と魔神軍を討滅したナギ、セドナ、勇者エヴァンゼリン、槍聖クラウディア、大魔導師アンリエッタに最大級の賛辞を送る。
 その後、イシュトヴァーン王は一際大きな声で、ナギの業績を称揚する。

「予は此度の王都防衛戦において尋常ならざぬ大功をあげた英雄相葉ナギにたいして、『伯爵位』と十億クローナの報奨を持って報いたい、英雄相葉ナギよ。予の心ばかりの礼を受け取ってくれるか?」
 
 ナギに会場中の視線が集まる。
 ナギは軽く頭を下げて、

「謹んで拝受します」
 
 と答礼した。
 割れんばかりの拍手が起こる。
 イシュトヴァーン王の演説はその後も続き、二十分後、ようやく終わった。

(校長先生の話と同じで疲れるな)
 
 とナギは思った。
 どうやら列席者も同じらしくイシュトヴァーン王の演説が終わると、やれやれと言った顔をして酒を飲み歓談を始めた。
  

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

ああああ
恋愛
クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

処理中です...