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第4章 王都の決戦
告白
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「世界の滅亡より大事な話とはなんだ?」
「それはですね……」
セドナが綺麗に背筋を伸ばした。
「うん。それは?」
俺はわずかに身を乗り出す。
「私とナギさまの結婚の話です」
「結婚?」
あまりのことに俺は思考停止して目を瞬かせた。脳の思考回路が正常に回復するまで数秒かかったと思う。
「結婚って、俺とセドナの?」
「そうです。私とナギさまは数年後に結婚します。私は十三歳で結婚したいと考えていますので、あと三年で結婚することになります」
「十三歳で結婚?」
「丁度、結婚適齢期です」
「十三歳で結婚適齢期っておかしくないか?」
「何を仰せですか? 普通ですよ?」
セドナが小首を傾げ不思議そうにする。
セドナの反応を見て、俺は腕を組んで沈思する。そう言えば地球でも中世においては十三歳から十五歳ほどで結婚するのは普通だった。平均寿命が短いので、その位で結婚するのが常識だったのだ。
この世界の文明レベルは魔法文明を除けば中世ヨーロッパと大差ない。ならば、十三歳で結婚というのも普通かも知れない。
……いや、そんな話じゃない。俺とセドナが結婚する?
「そういうわけで、どうしても結婚前にナギさまに申し上げたいことがございます」
セドナの黄金の瞳が強く光った。セドナが俺にむかって膝を進めて近づき、セドナの完璧な美貌が間近に迫る。俺は思わず怯んだ。セドナの顔は美しすぎてわずかでも真摯な顔をすると、怖いくらい迫力がある。
「な、何を俺に言いたいんだ?」
俺は気圧されながら問う。
「私はナギさまと幸福な結婚生活を送りたいと考えております」
「俺と結婚するのは決まってるの?」
「勿論です。これは運命です。よってナギさまの意向はどうでも良いのです。私が結婚すると言ったらナギさまは私と結婚するのです!」
セドナが可愛らしく興奮し、ポンポンとベッドを叩いた。
「俺の意向は考慮されないのか……」
「はい」
セドナは即答し、平たい胸を反らした。
「そこで問題なのが、私以外の奥さんを何人にするかです」
「セドナ以外の奥さん? つまり一夫多妻のことか?」
「当然のことです。王族や地位の高い貴族、富裕層は複数の奥さんを持つのが常識です」
俺は価値観の相違に驚いた。
「この世界では一夫多妻制がそこまで容認されているのか」
「はい。ですのでナギさまも健全な男として、多くの女性を妻にしたいとお考えなのは理解できます」
「いや、俺は複数の奥さんをもたなくても別に……」
「ナギさまも健全な男として、多くの女性を妻にしたいと考えて下さい」
「セドナ! いつの間にか強制になってるぞ?」
「ですので、私が何人の奥さんまでなら許すかを先に申し上げておいた方が後顧の憂いがなくて良いと思いますので、今のうちに言っておきます」
「セドナ? 俺の意見は完全に無視してるよね?」
「私が容認できる奥さんの数は……」
セドナは黄金の瞳を閉じ、やがて開いた。
「ずばり百人が限界です」
「多いよ!」
百人までなら許すのかよ!
「さすがに百人を超えると私も少しだけむくれます」
「しかも、むくれるだけか? 可愛いな!」
「愛人だったら、百万人までは許します」
「多いよ!」
愛人百万人って、どんな男だよ。すり切れるわ! どこがとは言わないけど!
「そして、私以外の奥さんは私が容認した人以外は奥さんにしないで欲しいのです」
「そこは譲れないんだな……」
なんというか、セドナらしい条件だ。
「取り敢えず勇者エヴァンゼリン様、大魔道士アンリエッタ様、このお二人なら大歓迎です。是非、ナギさまはこのお二人を奥様に迎えて下さい」
「いや、なんでそこでエヴァンゼリンとアンリエッタが出てくる?」
「なんでと申されましても……」
セドナは酔って頭をフラフラと前後に動かした。
「エヴァンゼリン様とアンリエッタ様はナギさまに恋慕しておいでです」
「はあ?」
エヴァンゼリンとアンリエッタが俺に惚れている? 有り得ないだろ?
「いやいや、どうしてナギさまはそんなに鈍いのですか?」
「いや、鈍いとかではなくてだな。ないと思うが……」
俺は腕を組んで暫し考えた。うん。ないと思う。
「ないと思うぞ」
「いえ、間違いないです。ですので、奥さんにするなら私とエヴァンゼリン様とアンリエッタ様にして下さい……。あのお二人となら、私仲良くやっていけます。みんなで……楽しい……結婚……生活を……」
セドナが瞼を眠そうに閉じ出した。フラフラと十歳の少女の身体が前後にゆれる。酒精が全身にまわり眠たくなってきたのだ。
「もう眠りなさい。子供は眠るのも仕事だ」
俺は苦笑してセドナの身体を抱くと優しく横たえた。そして、毛布をセドナの身体にかける。
「ナギさま……、お休み……なさい……。……愛してます……」
セドナはそれだけ言うとスヤスヤと気持ち良さそうに眠りだした。
「ああ、お休み」
俺は眠りについたセドナに優しく声をかけた。セドナが安眠していることを確認した後、俺はベッドからテーブルに移動して椅子に腰掛けた。
ワイングラスに残っている林檎ジュースを飲み、なんとなく視線を泳がせる。
「俺と結婚か……」
俺はなんとなく黒い前髪を手ではらった。数秒、ワイングラスを片手でゆらすと首を振る。
俺と結婚したいというセドナの声が脳裏に蘇る。やがて、俺は自分の心音が高鳴っていることに気付いた。
「結婚か……」
結婚して欲しいなんて言われたのは初めてだ。17歳の人生で初めて言われた。いや、17歳なんだから当然だけど……。
俺の頬が赤くなる。鼓動がドンドン強まる。初めての告白に身体の奥から、むず痒いような熱いような不思議な気持ちが湧き起こる。
「あれ? あれ?」
俺は胸に手を当てた。心臓がバクバク音を立てている。痛いくらいに心臓が動いている。血が体内を強く強く流れ出して、心が弾けそうな喜びに溢れる。
俺は口元にニヤニヤとしまりの悪い笑みを浮かべた。なんだコレ? 俺はこんなに嬉しい気持ちを味わったことがない。幸福が湧き出て止まらない。脳が興奮して目が冴える。
「告白……」
それは映画や小説でしか見たことないものだった。俺には無縁でどこか遠い存在で、それが現実だと思えたことなどなかった。
しかし、今俺は現実に告白された。愛していると言われた。現実に俺が言われたんだ……。
甘い思いがドンドン胸の奥から吹き出して滲み出る。身体中にそれが広まっていく。急に喉が渇いて、俺は林檎ジュースを飲んだ。
甘い味がした。ジュースの味ではなくて、幸福をそのまま溶かし込んだような不思議な味。
俺は椅子の背にもたれて深く息を吐き出した。
幸福だ……。俺は今心の底から幸福だ……。
自覚してそう想い。俺は今の自分の気持ちを永遠に保存したいと思った。
……10分くらいたったと思う。少しは冷静になった。俺はワイングラスにジュースを注いで一気に飲み干した。
心を落ち着けるとベッドで安らかな寝息を立てているセドナに黒瞳を向ける。セドナのギリシャ彫刻を超える完璧な美貌が月明かりで白く美しく光っていた。
あまりに美しいがために現実感を喪失してしまう程の美貌。長い銀糸の髪が扇形にベッドに流れ、銀色の滝のように輝いている。
触れてはいけない宝玉のような美少女。どのような美女も名画も彫刻も彼女には勝ち得ないだろう。
美しさの次元が根本的に違うのだ。
俺は静かにセドナを見た。安らかに眠るセドナを。俺は今までセドナを妹のように思っていた。庇護する存在だと考え、それ以上の想いは持ち得なかった。
だが、今の俺はどうだろう?
俺は額に軽く手を当てた。思考がまとまらない。俺は瞳を閉じて黒髪を撫でた。やがて目を開いてワイングラスに林檎ジュースを注いだ時、天井から手紙が振ってきた。
(タイミングが良いのか。悪いのか……)
俺は微苦笑して舞い降りる手紙を見る。その手紙は鳥のように翼が生えてパタパタと室内を浮遊し、俺の顔の前で停止した。
こんな手紙が出せるのは一人しかいない。女神ケレス様からの手紙だ。
「それはですね……」
セドナが綺麗に背筋を伸ばした。
「うん。それは?」
俺はわずかに身を乗り出す。
「私とナギさまの結婚の話です」
「結婚?」
あまりのことに俺は思考停止して目を瞬かせた。脳の思考回路が正常に回復するまで数秒かかったと思う。
「結婚って、俺とセドナの?」
「そうです。私とナギさまは数年後に結婚します。私は十三歳で結婚したいと考えていますので、あと三年で結婚することになります」
「十三歳で結婚?」
「丁度、結婚適齢期です」
「十三歳で結婚適齢期っておかしくないか?」
「何を仰せですか? 普通ですよ?」
セドナが小首を傾げ不思議そうにする。
セドナの反応を見て、俺は腕を組んで沈思する。そう言えば地球でも中世においては十三歳から十五歳ほどで結婚するのは普通だった。平均寿命が短いので、その位で結婚するのが常識だったのだ。
この世界の文明レベルは魔法文明を除けば中世ヨーロッパと大差ない。ならば、十三歳で結婚というのも普通かも知れない。
……いや、そんな話じゃない。俺とセドナが結婚する?
「そういうわけで、どうしても結婚前にナギさまに申し上げたいことがございます」
セドナの黄金の瞳が強く光った。セドナが俺にむかって膝を進めて近づき、セドナの完璧な美貌が間近に迫る。俺は思わず怯んだ。セドナの顔は美しすぎてわずかでも真摯な顔をすると、怖いくらい迫力がある。
「な、何を俺に言いたいんだ?」
俺は気圧されながら問う。
「私はナギさまと幸福な結婚生活を送りたいと考えております」
「俺と結婚するのは決まってるの?」
「勿論です。これは運命です。よってナギさまの意向はどうでも良いのです。私が結婚すると言ったらナギさまは私と結婚するのです!」
セドナが可愛らしく興奮し、ポンポンとベッドを叩いた。
「俺の意向は考慮されないのか……」
「はい」
セドナは即答し、平たい胸を反らした。
「そこで問題なのが、私以外の奥さんを何人にするかです」
「セドナ以外の奥さん? つまり一夫多妻のことか?」
「当然のことです。王族や地位の高い貴族、富裕層は複数の奥さんを持つのが常識です」
俺は価値観の相違に驚いた。
「この世界では一夫多妻制がそこまで容認されているのか」
「はい。ですのでナギさまも健全な男として、多くの女性を妻にしたいとお考えなのは理解できます」
「いや、俺は複数の奥さんをもたなくても別に……」
「ナギさまも健全な男として、多くの女性を妻にしたいと考えて下さい」
「セドナ! いつの間にか強制になってるぞ?」
「ですので、私が何人の奥さんまでなら許すかを先に申し上げておいた方が後顧の憂いがなくて良いと思いますので、今のうちに言っておきます」
「セドナ? 俺の意見は完全に無視してるよね?」
「私が容認できる奥さんの数は……」
セドナは黄金の瞳を閉じ、やがて開いた。
「ずばり百人が限界です」
「多いよ!」
百人までなら許すのかよ!
「さすがに百人を超えると私も少しだけむくれます」
「しかも、むくれるだけか? 可愛いな!」
「愛人だったら、百万人までは許します」
「多いよ!」
愛人百万人って、どんな男だよ。すり切れるわ! どこがとは言わないけど!
「そして、私以外の奥さんは私が容認した人以外は奥さんにしないで欲しいのです」
「そこは譲れないんだな……」
なんというか、セドナらしい条件だ。
「取り敢えず勇者エヴァンゼリン様、大魔道士アンリエッタ様、このお二人なら大歓迎です。是非、ナギさまはこのお二人を奥様に迎えて下さい」
「いや、なんでそこでエヴァンゼリンとアンリエッタが出てくる?」
「なんでと申されましても……」
セドナは酔って頭をフラフラと前後に動かした。
「エヴァンゼリン様とアンリエッタ様はナギさまに恋慕しておいでです」
「はあ?」
エヴァンゼリンとアンリエッタが俺に惚れている? 有り得ないだろ?
「いやいや、どうしてナギさまはそんなに鈍いのですか?」
「いや、鈍いとかではなくてだな。ないと思うが……」
俺は腕を組んで暫し考えた。うん。ないと思う。
「ないと思うぞ」
「いえ、間違いないです。ですので、奥さんにするなら私とエヴァンゼリン様とアンリエッタ様にして下さい……。あのお二人となら、私仲良くやっていけます。みんなで……楽しい……結婚……生活を……」
セドナが瞼を眠そうに閉じ出した。フラフラと十歳の少女の身体が前後にゆれる。酒精が全身にまわり眠たくなってきたのだ。
「もう眠りなさい。子供は眠るのも仕事だ」
俺は苦笑してセドナの身体を抱くと優しく横たえた。そして、毛布をセドナの身体にかける。
「ナギさま……、お休み……なさい……。……愛してます……」
セドナはそれだけ言うとスヤスヤと気持ち良さそうに眠りだした。
「ああ、お休み」
俺は眠りについたセドナに優しく声をかけた。セドナが安眠していることを確認した後、俺はベッドからテーブルに移動して椅子に腰掛けた。
ワイングラスに残っている林檎ジュースを飲み、なんとなく視線を泳がせる。
「俺と結婚か……」
俺はなんとなく黒い前髪を手ではらった。数秒、ワイングラスを片手でゆらすと首を振る。
俺と結婚したいというセドナの声が脳裏に蘇る。やがて、俺は自分の心音が高鳴っていることに気付いた。
「結婚か……」
結婚して欲しいなんて言われたのは初めてだ。17歳の人生で初めて言われた。いや、17歳なんだから当然だけど……。
俺の頬が赤くなる。鼓動がドンドン強まる。初めての告白に身体の奥から、むず痒いような熱いような不思議な気持ちが湧き起こる。
「あれ? あれ?」
俺は胸に手を当てた。心臓がバクバク音を立てている。痛いくらいに心臓が動いている。血が体内を強く強く流れ出して、心が弾けそうな喜びに溢れる。
俺は口元にニヤニヤとしまりの悪い笑みを浮かべた。なんだコレ? 俺はこんなに嬉しい気持ちを味わったことがない。幸福が湧き出て止まらない。脳が興奮して目が冴える。
「告白……」
それは映画や小説でしか見たことないものだった。俺には無縁でどこか遠い存在で、それが現実だと思えたことなどなかった。
しかし、今俺は現実に告白された。愛していると言われた。現実に俺が言われたんだ……。
甘い思いがドンドン胸の奥から吹き出して滲み出る。身体中にそれが広まっていく。急に喉が渇いて、俺は林檎ジュースを飲んだ。
甘い味がした。ジュースの味ではなくて、幸福をそのまま溶かし込んだような不思議な味。
俺は椅子の背にもたれて深く息を吐き出した。
幸福だ……。俺は今心の底から幸福だ……。
自覚してそう想い。俺は今の自分の気持ちを永遠に保存したいと思った。
……10分くらいたったと思う。少しは冷静になった。俺はワイングラスにジュースを注いで一気に飲み干した。
心を落ち着けるとベッドで安らかな寝息を立てているセドナに黒瞳を向ける。セドナのギリシャ彫刻を超える完璧な美貌が月明かりで白く美しく光っていた。
あまりに美しいがために現実感を喪失してしまう程の美貌。長い銀糸の髪が扇形にベッドに流れ、銀色の滝のように輝いている。
触れてはいけない宝玉のような美少女。どのような美女も名画も彫刻も彼女には勝ち得ないだろう。
美しさの次元が根本的に違うのだ。
俺は静かにセドナを見た。安らかに眠るセドナを。俺は今までセドナを妹のように思っていた。庇護する存在だと考え、それ以上の想いは持ち得なかった。
だが、今の俺はどうだろう?
俺は額に軽く手を当てた。思考がまとまらない。俺は瞳を閉じて黒髪を撫でた。やがて目を開いてワイングラスに林檎ジュースを注いだ時、天井から手紙が振ってきた。
(タイミングが良いのか。悪いのか……)
俺は微苦笑して舞い降りる手紙を見る。その手紙は鳥のように翼が生えてパタパタと室内を浮遊し、俺の顔の前で停止した。
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