お義姉ちゃん無双! ~甘やかしお義姉ちゃんと没落王国~

茶山大地

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雌伏の章

第八話 お菓子の日

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 城下から戻ったレオンとリーザは、まだ夕食まで時間があるということで、談話室で軽いお茶会をしつつ、その間ヘレーネとイングリットをクララの案内で厩舎に行かせた。


「レオン楽しかったですね! また一緒に行きましょう!」

「沢山おまけしてもらっちゃったしね、また行かないと」

「みなさんにとても優しくて頂いて、わたくしとても嬉しかったです!」

「そうだね、それにしてもお義姉ちゃん大人気だったね」

「ふふふっ、ルーヴェンブルクの皆さんはとても元気で賑やかで楽しい方ばかりですね」

「うーん、まぁ確かにその通りなんだけど、なんなんだろうなぁあのノリ」


 二人がいつものようにイチャイチャしてると、これまたいつものようにフリーデリーケがお菓子を乗せた台車を押してくる。


「姫様、先程買った干し林檎で早速お菓子を作ってみました。夕食前ですので少しですけれどお召し上がりになりますか?」

「是非頂きます、フリーデリーケありがとう存じます! レオンも頂きましょう!」

「うん、お義姉ちゃん」

「こちら林檎を使ったシュトロイゼルクーヘンです。ダイスカットした干し林檎をヨーグルトと混ぜて柔らかくしてクーヘンで挟み込んだものに、小麦粉砂糖バターなどで作ったシュトロイゼルをまぶして焼き上げたものです」


 さっきまで一緒に城下を歩いてて、そのまま談話室に戻って来たはずなのになんで? とはもう誰も思わない。
 近衛の二人は今ここにはいないからだ。


「サクサクなのが美味しいですフリーデリーケ! 林檎の風味もちゃんと出ててわたくしこのお菓子気に入りました!」

「うん、たしかに美味しい。このサクサクしたシュトロイゼルとコロコロした感じの林檎の食感が良いね。ヨーグルトの酸味でさっぱりと食べられるし、アプフェルシュトゥルーデルとはまた違った美味しさがあるよ。流石お義姉ちゃんが大陸一って言うだけあるね」

「流石フリーデリーケですね、もうレオンをフリーデリーケのお菓子の虜にしてしまいました」

「レオン様、光栄に存じます。もっと喜んでいただけるように頑張りますね」

「まぁフリーデリーケ、これ以上頑張ったらわたくしもう他のお菓子を食べられなくなってしまいますよ」

「ふふっ姫様、お上手ですね」


 いつものようにお茶とお菓子を楽しんでるとヘレーネとイングリットが戻ってきた。


「レオン様、リーザ様、ただいま戻りました。これより任務に戻ります」

「レオン様、姫様、ただいま戻りました。また姫様のお側に控えさせていただきますね」

「二人ともお帰り。良い馬選べた?」

「はい、私ごときには勿体ないほどの良馬を拝領致しました」

「流石王都ですね! 素晴らしい馬が多くなかなか決められませんでした」

「レオン様、リーザ様、明日の講義に変更があります」


 二人を連れ帰ってきたクララが進み出る。


「陛下に申請されたいた騎馬術の訓練ですが、明後日の午前と午後を使って行うことになりました。近衛のお二人も一緒に参加していただきます。騎射及び馬上槍等長柄武器の訓練をするとの事で、講師はカウフマン卿です。遠乗り訓練も兼ねて城外で行うとの事ですので、昼食もそちらでして頂くことになります。また、カウフマン卿麾下の部隊が護衛を兼ねます」

「疾風将軍......」


 王国の誇る勇将の名を聞いてイングリットが思わず漏らす。


「マインラートが講師なんて珍しいね」

「レオン様とリーザ様、それに加えて近衛の二人に騎馬術を指導するなら父、いえ、バルナバス将軍かカウフマン卿だろうと陛下が仰せられまして、ただバルナバス将軍は明日より数か月間調練を兼ねて南山関に任務で向かう予定でしたので、カウフマン卿に陛下直々の命令が......」

「何やってんだあの人は」

「いえ、カウフマン卿は将来有望な方々の教練を行えるとは光栄だと快諾されたという話です」

「じゃあ良いか」


 最近考えることを放棄し始めたレオン。
 彼は無駄な事は一切しない方が良いと学んだのだ。


「レオン、楽しみですね!」


 その原因は大体これである。





 そしてその影響を受けまくったもう一人が今日もご機嫌で食卓に着いた二人を見て叫ぶ。


「さあ! 今日も親子仲良く食事をしようじゃないか! 愛娘とついでに愚息よ!」

「レオン、お義父様は大丈夫なのでしょうか」


 ドン引きを通り越してとうとう心配されてしまうランベルト。
 愛娘の気を引くことには成功したようだが好感度はガタ落ちだ。
 というかこうなった原因がリーザの毎晩のトントンである。


「放っておけばいいよお義姉ちゃん。そのうち治るよ」


 愚息の好感度もだだ下がりだ。
 リーザは、もう少しお仕事を減らしていただけるように挨拶の時に言ってみた方が良いかしらと周囲に聞こえないように呟いている。
 もしそれがレオンに聞こえたら、それは逆効果だよお義姉ちゃんと言われただろうが。


「で、リーザ、城下はどうだった?」

「凄く楽しかったです!」

「そうかそうか、行きたくなったらまた言うんだぞ」

「はいお義父様! ありがとう存じます!」


 あの店のシュペックが美味いんだよな、一緒にエールを飲むとたまらん、あの店は味は良いんだけど店主が不愛想でなー、といつもの独り言が始まったので、レオンは無視してリーザと食事を続ける。


「あら、リゾットですね。ローゼ領では採れなかったのでお米を食べるのは久々です」

「最近収穫量が増えてそこそこ流通するようになったんだよ、まだ燕麦や大麦より何倍も価格が高いけどね」

「あら? レオン、ほっぺにお米がついてますよ。お義姉ちゃんが取って上げますね。ひょいぱく。えへへ食べちゃいました」


 またかクララ、一体どうやってんだ。
 いつもありがとうございます。


「あーお父さんのおでこに米がーたいへんだーひょいぱくしてーひょいぱくー」

「お義姉ちゃんごめんね、だらしがなくて。いつもはこんなんじゃ無いんだけど。ついお義姉ちゃんに甘えちゃうのかな?」

「ひょいだけでもーぱくしなくていいからせめてひょいだけでもー」

「レオン、義弟はいつだってお義姉ちゃんに甘えて良いんですよ。レオンがいつも頑張っているのをお義姉ちゃんは知っていますから」


 イチャイチャしながら食事が終わり、食後のお茶と菓子が出てくる。


「あら? フリーデリーケ、これは城下で頂いたさくらんぼのお菓子ですか?」

「はい、姫様。今日頂いたさくらんぼのマルメラーデを使ったキルシュザーネトルテでございます、苺を乗せたザーネトルテが有名ですが、お城で出してくれとの事で頂いたものですので、ゼラチンで固めたものをザーネトルテの上に乗せてみました。 見た目もお城でお出しても問題が無いよう、カットした断面が綺麗に見えるようにクリームとマルメラーデの層を増やしてみました」

「これは......すごいな」

「見た目も味も素晴らしいですフリーデリーケ。わたくし感動いたしました」

「いえ、キルシュのマルメラーデの出来が素晴らしい物でしたので。わたくしが漬けてもここまでの味は出ないかと」

「謙遜ですよフリーデリーケ。林檎のマルメラーデは素晴らしい出来でしたではないですか」

「ふふっ、姫様ありがとう存じます。今度キルシュを使ったボンボンをお作り致しますね」

「わあ! 楽しみにしておりますね!」

「キルシュがーお父さんの鼻にキルシュの欠片がー」


 今日も二人で仲良く食事をした愛娘と愚息だった。





「我が国の軍事関連のお話をしようと思います」


 本日の講師はハンスだ。


「近衛府が新設され、旧親衛府は一部引き継ぎの為の人員を残し解体、軍へと転属になりました。これは将校不足を補うためでもありますが、長期的には常備軍の拡大を目的としています。また近衛府は女性武官のみで構成され、定員は五百名を予定しています。ゆくゆくは王城門を守護する衛門府、王都と城門を守護する兵衛府も女性武官のみで編成する予定です」

「常備軍......規模はどれくらいなのですか?」

「兵科は大まかですが、重騎兵、弓騎兵、重装歩兵、弓兵、弩兵、歩兵合わせて二万五千を目標としています。現在はなんとか一万五千を超えた程度でしょうか。実際には弩兵と歩兵は傭兵などで補うことになると思います」

「二万五千の常備軍の維持は可能なんですか?」

「現状ではなんとか目途が立っているというところでしょうか。避難民の入植が済み、開拓が進めば余裕は出てきます。軍は金食い虫ですからね。必要性の低い平時には縮小しますが、現在の大陸の状況を鑑みれば兵力の増強は必要です」

「諸侯兵はどうなるのですか?」

「連携に必要な練度の差などがあり、基本的には国軍としては編入しません。今までは賦役で定められた兵数を供出させていましたが、今後は税額を上げる代わりに賦役の縮小、もしくは兵ではなく工夫等の供出に限定していくことになります」

「そういえばうちの弓兵の練度は抜群で、行進射撃や反転行進射撃など進軍しながらでも射撃できると聞きました。また拠点での防衛戦闘なら問題無いけれど、それ以外はかなり走り回る機動戦術をよく使うから出来るだけ軽量で、防御力の高い防具を研究してると以前講義で習いました」

「騎兵、弓兵はどうしても訓練が必要になるので最優先で兵数を増やしている最中です。弓兵の練度も凄いですが、重装騎兵、弓騎兵の練度も素晴らしいですよ。重装騎兵の突破力は大陸一と名高く、統率するグナイゼナウ卿もまた攻勢にかけては大陸一と称される名将です。他国で言う軽装騎兵、槍騎兵などと運用は変わらないのですが、我が国では便宜上弓騎兵としているカウフマン卿の率いる弓騎兵は、射撃戦闘だけでなく白兵戦闘も高水準でこなせる練度を誇っています。騎兵、弓兵の質を下げないよう兵数を増やしていくというのが今後の課題になっています。先の大戦では我が国は国軍、諸侯兵、傭兵、徴用兵等合わせて四万を集めましたが、練度の低い兵を半分切り捨て再編すると言った方が早いかもしれません。更に部隊指揮官である将校の数を増やし、より細かな機動を効率よく行えるように調練を重ねていく予定です。そして先程の弓兵の装備等の質以外にも、兵站の質も上げて行く予定です。いかに大量に、効率よく輜重隊を動かすかという研究や、糧秣の質の向上などですね。作地面積当たりの収穫量が小麦よりも多い米を導入してより生産力を高めたり、備蓄量を増やすなど多方面で様々な施策が行われています」

「そういえば今日は夕食でお米を頂きました」

「食味も良くなってきたと思います、食事の質は士気に関わりますからね。同様の理由で携行食、戦闘糧食の研究なども行っております、現在は固く焼しめたパンと塩漬け肉にチーズばかりですから」

「美味しい食事は活力の元ですからね!」

「ええ、実際配給される食事が不味過ぎて逃亡兵が続出したなんて事例も、過去にはあったようですよ」

「ハンス先生、輜重隊の行軍速度なのですが......」





 夕食後の講義が終わってまたイチャイチャしだす二人にフリーデリーケがワゴンを押して来る。

「レオン様、姫様。講義お疲れさまで御座いました。本日はお勉強の後に丁度良いハーブティーをお持ちしました。よろしければ軽いお菓子もお持ちしましたのでお茶請けにお召し上がりください」

「まぁ! 今日はフリーデリーケのお菓子がたくさん食べられて幸せです!」

「もうすでに生活の一部になっちゃってるよね」


 フリーデリーケがお菓子とハーブティーを二人の前に置く。


「あら、このお茶は蜜柑の香りがしまね、ほんのり蜜柑の味がして美味しいです」

「蜜柑のハーブティって初めて飲むよ」

「市場で売っていた乾燥蜜柑の皮を使ったオーランジェティーです。精神を落ち着けて疲労回復の効果がありますので、お休みになる前に丁度良いかと思いお持ちしました」

「こちらのお菓子は市場で購入した蜜柑のマルメラーデを使ったオーランジェプファンクーヘンです」

「おお、これも美味しい!」

「流石フリーデリーケですね! 中に入ってる蜜柑を使ったクリームがとても合います!」

「プファンクーヘンというよりは焼きドーナツという方が近いかもしれません。プファンクーヘンだと揚げた生地の中にマルメラーデをそのまま入れるのですが、ハーブティーのお茶請けですので、甘さが控えめになるようにマルメラーデとクリームを混ぜました。そして生地を揚げずにオーブンで焼きあげることで、柔らかく軽い食感になるように仕上げてみました」

「普通に城下で店を開けるな......それも貴族相手の高級店で」

「大陸一の味ですから大人気間違い無しですね!」

「ふふっ、お二人ともありがとう存じます」


 二人はハーブティーとお菓子をゆっくり楽しみつつ会話に花を咲かせるのだった。


「お義姉ちゃん、そろそろ部屋に戻ろう。部屋の前まで送っていくよ」

「そうですね、残念ですが本日はもうお休みしましょう」

「じゃあお義姉ちゃんはい、手」

「うふふっ、今日はレオンずっとレオンがエスコートしてくださるんですね」

「できるだけお義姉ちゃんをエスコートしようと頑張ってはいるんだけどね」

「その気持ちだけでお義姉ちゃんは嬉しいですよレオン」


 などといつものようにイチャイチャしながらレオンの部屋を出て、隣のリーザの部屋の前に到着する。


「じゃあ、お義姉ちゃん」

「はい......」


 名残惜しそうに手を放すリーザ。


「お義姉ちゃん」


 レオンは手を放して俯いたリーザを見てそっと抱きしめる。


「わわわ」

「今日はずっと賑やかだったからちょっと寂しくなっちゃった? またトントンするからそれで我慢してねお義姉ちゃん」

「レオン......本当に......わたくしの......いえ、ありがとう存じます」

「じゃあお義姉ちゃん、おやすみなさい」

「はい、レオン。おやすみなさいませ」


 レオンは部屋に戻ると早速寝台に乗りトントンする


<お義姉ちゃん><起きてる>

≪ありがとう≫≪起きてる≫

<お義姉ちゃん><今日><可愛い>

 ト、トトトトト
 照れてる照れてるとレオンが焦って意味不明となったトントンを面白がっていると、落ち着いたのか一呼吸おいて意味の通じるトントンが帰ってくる。

<レオン><今日><格好いい>

<お義姉ちゃん><会いたい>


 おや? 返事が無いな。
 照れちゃってるのかな? もう寝ちゃったのかな?
 とレオンが思っていると


<どっぱん>

「レオン! お義姉ちゃんが会いに来ましたよ! もう寂しくありませんよ!」


 と飛び込んできたのだった。
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